54 思いがけぬ再会
私は天川が目を奪われている誰かを見るべく、ぐんっと力を込めドアを押し開いた。
急な明るさに一瞬目が眩んだ。急に明かりに飛び込んだ私には眩しすぎて見えない。
「よく来てくれました。久しぶりね。透子さん」
誰? この声は。
けど私はこの声を知っている。
どこかで───
けどモヤがかかって思い出せない。記憶力には自信があるのに。
背中でドアが自動的に閉まり、ウー‥ガチャッとカギが閉まる音がした。
「あなたはトーコさんのお母さん! 僕がトーコさんの部屋の前で会ったスーツ姿の女性だ!! トーコさんは亡くなっているって思ってたけれど本当は生きていて本物だったんですね!」
天川が勘違いの共感の上気した声で私に呼びかけた。
「天川! それは違うッ!!」
モヤモヤの視界の立ちくらみ状態の私はイライラし、額を押さえながら怒鳴った。だって完全私のお母さんの声じゃないもの! なんとか確認できてるそのシルエットも。
「違うって‥‥‥? トーコさん、えっと???」
戸惑いの天川の声に私のイライラが増していく。喉元まで来てるのに思い出せない‥‥思い出せな‥‥あっ!
「───ッ!!」
目が慣れ、輪郭を現したその白衣の女性の顔を見て、私は唖然とした。
「ようこそ。裏秘密結社No.5KURASINA へ。私、透子さんのことずーっと待っていたのよ?」
柔らかく微笑むその人を私は知っている。艷やかな黒髪を無造作に後ろで束ね、スラっと美しい立ち姿の女性。
それは私の義姉の響さん。お母さんの再婚相手の娘!
私たちの親同士が再婚した時、一回り以上も年上の彼女はずっと前に、そして私も卒業し独立したところだったから、4人で一緒に住んだこともなければ彼女とは会ったことも数回だけの間柄だった。しかもその半年後に母は死んだはずだったんだもの。
「どうして‥‥‥どうしてこんなところに響さんがいるの? それにこの2枚のお母さんの文字のメッセージ‥‥お母さんはどこ?」
「ごめんなさいね。それは麗奈さんの文字を書けるオートペンで私が書いたの。透子さん、あなたを呼び寄せるために。私はこの日が来るのをずっと待っていたから」
何もかも分からない。
辿り着いたここは、質素な作りの大昔からある個人病院みたいな空間。そこにいたのは白衣姿の義姉の響さん。
ああ。
そう言えば響さんは医者だって言ってたね。義父は何かの小難しいことしてる技術者って聞いてた。詳しくは知らないし知ろうともしてなかったけど────
でも結局ここって何? 私のお母さんはどこに? ねえ? 生きてるかもって期待はハズレだったの?
「どういうこと? 響さん」
私は可能な限り冷たい声と目を、彼女に向けた。
「予備情報として言っておくと、あなたの義父となった男性、野呂博士は私の父親ではない」
私はただ響さんを見つめてる。
その唇を。
次の言葉を待って。
「私は野呂博士の補佐として娘役をしていただけ」
首を傾げながら一瞬目を見開いて、わざとらしい笑みをムフッ♡と浮かべて見せた。
間近から見せられたその絵面はとても気分が悪いわ‥‥‥
「私はね、透子さん。ずっとあなたを見ていたのよ? 私が尊敬する今は亡き暮科透一郎先輩の遺伝子を継いだ唯一の存在のあなたを」
「遺伝子を‥‥継いだ私‥‥‥?」
母がいた時期でさえ私は、あなたとはほとんど接点もなかったけど?
「私の継父であった野呂さんと響さんは偽親子だった。他人の2人がペアを組んで何かの目的で私たち母子に近づいたっていうの?」
「そうよ? 暮科透一郎先輩の志半ばで終わった研究を託され引き継いだのはあなたのお母様の麗奈さんだったんだもの。そして彼の優れた頭脳は自覚はなくともあなたの遺伝子が引き継いでいるのよ。だからこのフィールドにあなたが来たからには私はあなたが欲しい! 透子さんの全てが!!」
天川がサッと私を背中に庇った。
どういうことなの? この人、私のお父さんとどういう関係だったの? 私の父に憧れていた?
「私の邪魔しないでね? アマガ・エルちゃん? アッハッハッ!! 透子さんは私のものよ?」
「あなたが何者なのか知りませんが、トーコさんは誰のものでもありませんッ!! それに僕が誰にも渡しません!!」
「あらあら? アマガエルちゃんがイキってる? うふふ ‥‥(*´ ᵕ`) あなた、お顔はとっても可愛いわね。透子さんを射止めるなんてすっごく憎たらしい!」
急にカクッと真横に腰を曲げ、天川の背後の私を覗き込む。その動きは壊れた人形のようで不気味が漂う。
「私が暮科先輩を知った時には彼の横には既に麗奈さんがいたのよ? だから諦めた。けど、私が透子さんの存在を知った時にはアマガエルちゃん、あなたはまだいなかったじゃない? だからあなたも諦めなさい。それがフェアってものよ?」
私を後ろに庇いながら硬直して震えてる天川の頬をスーッと人差し指で撫でながら、先程と同じ白々しい笑みを浮かべた。
それを見た瞬間、私の中で何かが切れた音がした────
「‥‥‥天川に‥‥天川に触らないで」
私は目の前にある天川の背中に抱きつき、そのまま回転して思い切り後ろに押しのけた。
「えっ! ワワワッ!?」
天川はよろけながら扉横の壁際に置かれたベンチの上に縋るように倒れ込んだ。
「天川はそこで大人しく待ってて?」
自分で驚くほど、滑らかに威圧的な声が出た。
「ハ、ハイッ!」
ヨシッ!
私は、その女にまっすぐに対峙する。
妙に意識が冴えてる。私の体は今、ドキドキしてるのに落ち着いているという矛盾。
やめて。どうしてこの女は、私をそんな愛でた目で見るの?
「ねえ? 響さんが天川をカエル人間にしたの?」
私から離した視線をフッと上に向け、次に首を少し傾げ、キョトンとした不思議顔に変わった。
「ん?‥‥‥だとしたら、何?」
────察し。
ああ、この人は怖い人だ。この人に悪意などないの。
だから人の痛みも無いんだわ────




