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その壁を抜けたら───  作者: メイズ
恋と共に秘密探索
52/59

52 厳重を進む

 ここは古びた病院のエレベーターホールみたいな場所だったのに────


「メ〜〜〜♪」


 ヤギカワさんの一声で景色は一変した。


 今まで見ていたものは何だったんだろう? ホログラムの世界? それともここが幻想?


 ヤギカワさんにつられて振り向けば、私たちが乗ってきたボロかったはずのエレベーターは、ピカピカのタワマン仕様に変わってる!!



「メェー! メーー、メーー」


「おい、こいつが言うにはこれから更に下へ降りるらしい。目指すは地下6階だ。さあ、エレベーターを呼べ。天川」


「は、はいっ!」


 箱は直ぐに降りて来た。


 開かれた扉に天川と2匹が進み、私は最後に乗り込んで正面に振り向いた。行き先のB6を押そうとした私の手は宙をさまよう。


 天川が即座に気がついた。


「あ! 待ってください。B6なんてボタンはありませんよ。コントローラーはここB5が1番下です」


 扉は自動的に閉まった。そのまま動かない。



「道案内ヤギカワさん? どういうことよ?」


 私が聞いてもヤギカワさんは知らんぷり。


 何を考えてるのか謎の瞳。


 コイツ、都合の良い時だけヤギぶってるような気がするんだけど! ヤギだけどさ。ヤギってイメージはメルヘンっぽいけど、よく見ると奇妙な生き物よね。



「アノール? 行き方知ってる?」


「あー、えっと待て。俺はそんな場所があることは聞いたことがあるが踏み入れたことはない。行き方のロジックはチラッと噂で聞いた事がある。そこまで難しい操作では無かった記憶だ。今ローカル領域で思い出すから待て。マザーAIのセキュリティロックがかかってている領域は、特別なパスワード取得が必要で通常の通信では取り出せないんだ。大丈夫、3回までなら間違ってもロックは掛からない。俺の記憶力を信じろ」


 無言のまま天川と視線が交差した。


 もどかしい気持ちで待つ空白の体感30秒後、アノールが天川のおでこをペタペタ叩きながら指示した。


「これで行けるはず。間違うなよ? 俺の言う通りに正確に押せ。開閉ボタンを同時に長押ししろ。コントローラーのボタン全てが点灯したら離せ。よし、それからB1とB5を同時押しだ。他は消えて2個だけ点滅するはずだ」


「‥‥‥はい! 点滅オーケーです」


「よし、そしたら閉を押したら点灯に変わり、もう一回2つを同時押しだ」


 静止していたエレベーターが急にガタンと動き出した! 下に降りていく。


 緊張の顔の天川と目が合って、彼は引きつった小さな微笑みを浮かべながら私に頷いた。


「ありがとう、天川。後は私の出番だね。もし危険があったら私に構わず逃げると約束して。でなかったらついてこないで。もしもの時はアノール、天川をお願いね」


「んー? 天川はそもそもこのフィールドに来るべきでは無かったエキストラ。が、世にも珍しいカエル人間になったことだし無事とも言えんし、元の社会に帰すべきなのかどうかは本人の意思と希望も交え検討が必用だが、今日のところは無事メルヘン小屋に戻すのが筋ってもんだ」


「嫌ですよ。僕はトーコさんから離れません!」


「‥‥だってよ? なら、トーコも早いとこ用事を済ませろよ」


「さあ? 死んだと思ってた母親が生きてるかも知れないのよ? 私のアイデンティティが関わるの! そうそう簡単に済むお話ではないよ?」


 それぞれが勝手な事を言ってる間にB6に着き扉は開いた。



 降り立った狭い空間の前には新たな重厚な扉。扉上の角の左右からこちらにカメラが向いている


 壁には見知ってるようなコントローラーは付いてない。あるのは小さな黒い液晶画面。


「メーー!」


 ヤギカワさんがバッグから1枚の小さなカードを私に寄越した。


 NNKデスのロゴが入った無機質なカード。カードキーね!



 ゴクリと喉が鳴った。


 緊張の私。



「天川、私の後ろにいてね。これは私事(わたくしごと)なの。場合によっては席を外してもらうかも知れないけど、そこは承知して? 後からお話するから」


「心配ですがプライベートに押し入るつもりはないです。危険性がないって分かったなら当然トーコさんを尊重すると約束します。信じてますから」


「ほお? 俺は興味津々だがな。NNKデスの深部に関わるみたいだし」


 アノールは今はヤギカワさんの頭の上。



「じゃ、開けるよ?」


 私はカードを液晶にかざした。ピッという電子音とガチャっていう解錠の音が聞こえた。


 緊張がピリッと走る。



 私のお母さんが生きている? そうならもちろん嬉しいけれどそれだけでは済まない。嘘をついて私を捨てたってことにもなるから。そして母の死の手続き全般を全て行った再婚相手の義父もこの秘密を抱えている可能性があるかも。何らかの事情があったとしても、私が許せるとも思えない。


 過去の母との記憶と、期待と不安と怒りが混じって、体がふわふわしてる。自分が自分ではないみたいな妙な緊張感。



 さあ、この扉の向こうには何があって誰がいるの?



 私は覚悟を決め、力を込めてドアノブをぐいっと引っ張った───



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