50 フラッシュバック
────混乱。
『透子ちゃん ごめんなさい。けれども仕方がなかったの。私の秘密を明かす時が来ました』
ドキッとした。
だってお母さんの字にそっくりな文字で書かれたメッセージカードを寄越された。
カードの紙は新しい。ならば昔書き置いたメッセージではないってことだ。
蘇る記憶。
私のお母さんは死んだの。
────だけど。
私は遺体を見たわけじゃない。
そうだよ。あの時は最期のお別れさえ許されなかった。理不尽に起こって意味不明に展開された、世界的パンデミックのせいで────
お母さんは、私が仕事に行っている間にいつの間にか病院に運ばれ、酸素吸入必須のためにそのまま入院し、公衆衛生を徹底するという病院の方針により親族でさえ面会も許されず、差し入れも職員を介し、母の様子は看護師さんから聞くだけだった。
そして入院5日後、容態が急変して亡くなったと連絡を受けた。遺体が包まれた袋を開けることも禁じられ、そのまま火葬。
本当に信じられない出来事だった。
私と血とつながった唯一の親族だった母なのにこんなお別れって。
物心ついた時には、私に父親はいなかった。
仕事中の事故で亡くなったと聞かされていた。
私の就職が決まり早々に家を出て一人暮らしを始めたと同時に母は再婚した。
義父とはほぼ挨拶程度、同時に義理の姉ができたけどもう彼女も独立していたし、話したのはご挨拶も兼ねて4人で外で会った数回だけ。
母が入院し亡くなった時には、面倒な手続も何もかも義父が引き受け、そして保険金やわずかな母の遺産は全て私に遺してくれた。2人の結婚生活はたったの半年余りだったせいもあるかも知れないけど。
それからは義父も義姉とも音信不通だった。だってほんの少し袖が触れ合っただけの他人だもの。常識的なよい人たちだったとは思うけど。
────あれから約1年半後の今日。
突如私に亡霊からのメッセージが届いた。思いもよらずに巻き込まれたフィールド謎解きの最中に。
『透子ちゃん ごめんなさい。けれども仕方がなかったの。私の秘密を明かす時が来ました』
これってお母さん文字だ!! 咄嗟にそう思った。
────ううん。落ち着いて、私。そうじゃないかも。
子どもの頃の思い出の断片がフラッシュバックし、頭の中にパッパと映し出されて行く。
私のお母さんは機械工場のラインで働くごくごく普通のお母さんだったはず?
ファラデーリュックにノートパソコンを入れて、普段着姿で出勤していた。
『所定の場所に車が迎に来てくれて、それに乗って行くから満員電車には乗らなくて済むの。ラッキーw』って笑っていた。
それって工場勤務によくある乗り合いのワンボックスみたいなのを想像していたけれど。
────違うかも?
いつも難しい本を読んでいた。お母さんの部屋の本棚にはぶ厚い専門書が詰まっていた。お父さんの形見だって言ってたからそうとしか思わなかった。お母さんがそれらを熱心に読むのはお父さんを思い出すためだって思ってた。
────私は知らない。
家以外のお母さんのこと。
放任気味だったけれどその分それなりにお小遣いも貰ってたし、片親でも必要なものは買ってくれたし、私には気楽だったし不満などそれほど無かった。
私の頭の中の断片のぐちゃぐちゃが、我ながら超速で整理されて行く。
天川が私のワンルームマンションの部屋の前で出会ったと語った、私の母を名乗るスーツ姿の人物って?
────そっか。そんな可能性もあるよね。
「天川?・・・私がここに来たのは偶然だけど偶然じゃない・・・のかも?」
私と拾い上げたカードを交互に見て戸惑っている天川が、私が愛すべき人ただ一人の人だったように思えて来て、こみ上げてくる妙な嗤いを唇を結んで抑えた。
誰かさんはこの時が来るのを待ってたの?
ねえ? NNKデス黒幕の1人は私のお母さんなの???




