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その壁を抜けたら───  作者: メイズ
恋と共に秘密探索
49/59

49 黄泉からのメッセージ

 僕たちは沈默のまま、頭上の数字を見上げている。


 ・・・B3・・・B4・・・B5


「あっ! 今一瞬見えたよ。ヤギカワさんがいた」


 トーコさんが僕の袖をクイクイ引っ張った。



 弾くような到着音が響き、エレベーターの扉が開いた。


「あっ、見て! ほらやっぱりヤギカワさんがいる! お出迎え? ならさっき手紙とキーを渡しに来たのに、いちいち消えなくても良くない? めんどくさいヤギね!」


 名前まで密かにつけていたし、トーコさんはなんだかんだ言ってもヤギカワさんの存在を気に入ってるのかもね。郵便ヤギさんがいるなんてメルヘンだし。


 トーコさんが僕より先に降りた。僕も続く。


 エレベーターはすぐに上ってしまった。カゴが行ってしまったことが、少し心細く思う。


 ここは無機質な古い病院の廊下のような、どこかうらびれた雰囲気の場所だ。



「メ〜〜〜」


 ヤギカワさんは咥えた2枚折りのカードをトーコさんに押し付けた。


「なあに? 今度は私になの?」



 カードを開いたトーコさんの目が、それを見てハッと見開かれた。


 彼女の横顔をずっと見ていた僕と目が刹那合ったけど、トーコさんはすぐにカードに戻した。


 食い入るようにカードを見つめている。


 手書きで何かひと言だけ書かれているみたいだけど何が? NNKデスからのメッセージカードに、手書きなんて初めてだ。


 トーコさんの揺れる手元のカードの中身は、僕からははっきりとらえられない。



「・・・ヤギカワさん。これって誰からだろう? 書かれてないね。・・・偶然似ているだけの可能性もあるけど、私この筆跡には見覚えがあるよ」


 ヤギカワさんの何を考えているのかわからない不思議な色を宿した大きな目は、トーコさんをジーッと見上げている。トーコさんの顔を見つめたまま微動だにしない。



「・・・えっ? えっ? ウソ・・まさかだよ・・・?」


「・・・どういうこと? これって私の事をよく知っている親しい人物からよね?」


 交互にカードと天井に視線を彷徨(さまよ)わせながら、混乱の自問自答の独り言を続けてるトーコさん。


「・・・けど、私を透子ちゃんなんて呼ぶ人は、この世にはそうそういないよ?」



 やがて沈黙に考え事に入ったトーコさんの右手から、カードがパサッと床に落ちた。


 僕はそれをしゃがんで拾い、広げた。



『透子ちゃん ごめんなさい。けれども仕方がなかったの。私の秘密を明かす時が来ました』 



 流麗な女性らしき美しい文字で書かれている。



「・・・ねえ天川。これって私の死んだ母の文字に似ているのよね・・・」


 不意に声をかけられ、しゃがんだまま見あげた僕と一瞬視線が絡んだトーコさんの瞳は、今まで見たことない氷の冷たさだ。



 えっと? 死んでるって? そんなはずは。


 僕はこのフィールドに来る直前に、トーコさんのお母さんと会っているけど? その時の事は僕がカエルから人間に戻ってすぐの時に、トーコさんに話したよね?


「トーコさん。何を言っているんですか? 僕がトーコさんのマンションの前で帰りを待ったら、部屋の片付けの手伝いに来たお母さんとばったり出会ってお話してますけど? 僕がカエルになる直前の記憶です。そのことはトーコさんにも話したじゃないですか」


「うん。それは憶えてるよ。その話を天川から聞いた時は敢えて言わなかったけど、その女性は私のお母さんじゃない。私が入社して半年後、天川が入社する前に私の母親は亡くなっているのよ」


「・・・エッ? 本当ですかッ?! ならあのスーツ姿の女性って???」


 もう何がなんだか! 心臓がバクバクして来た。あれって誰? ならNNKデスの関係者ってことか!


「僕は何が起こってるのか見当がつきません」



 トーコさんは暫く、遠いところを見てるような目。


 しばしの沈黙の時間。


 ふと、額を右手でコスコスしてから僕を見て言った。



「天川?・・・私がここに来たのは偶然だけど偶然じゃない・・・のかも?」


 トーコさんはすがめた目で僕の手にしたカードに目線を移した。


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