48 僕はもう戻れない
────眩しい。
扉の向こうが急に明るい空間だったせいで一瞬目が眩んだ。天井には点々と連なるダウンライト。病院の通路みたいな無機質な廊下。眩しさの向こうのその奥に、何かが・・いる?
ほどなく目が慣れてきた。
「ん? トーコさんあれ、見えますか? 何か廊下の奥で白いものが動いていてこちらに向かって来ますよ!」
「ゲッ! あれって!! ここにまで登場するの!?」
「メェ~、メェ~w」
奥から優雅な足取りで登場して来たのは真っ白なヤギだった!
「ワッ、ここにもヤギさんがいるんですね。やはりこのフィールド全体に渡ってヤギはたくさんいるのでしょうか?」
「あっ! 天川、そうじゃないよ。コイツはお馴染みのお届けヤギだッ! 私をバカにするちょっと小生意気ないつものヤギだよ! 私は心の中でヤギカワさんと呼んでいる」
「エッ、そうなんですか? 一匹づつ見分けがつくなんてトーコさんはやっぱすごいです! 顧客を一度見たら顔は忘れないスキルがヤギにまで及ぶとは営業の鑑ですね!!」
「しかももしかしてコイツは元人間かも疑惑があるのよ!」
「エッ、このヤギカワさんって、元人間疑惑ですか?!」
見たところ普通のヤギでしかない。けど、郵便配達してるんだから普通のわけないか。
「ほーら! 言った先からニヤリって嗤ってる! クゥ~」ヽ(`Д´)ノ
「それは僕にはわかりませんけど・・・」( ゜д゜)
カエル化してしまう僕のお仲間?
ヤギカワさんは、背中を回した鞍の両脇に下げたバッグから1通の封筒を咥えて取り出し、僕に差し出した。
「ヤギカワさん、ありがとうございます」
しゃがんで受け取り頭を下げると、僕の頬にハグしてからくるりと向きを変え去って行った。
「クゥ~! ヤギカワさんって私には生意気な態度なのに、天川には随分と優しいじゃん? ますます憎たらしいったら!」
トーコさんは刹那顔をしかめ、自分の二の腕を両手で抱えて肩をキュッとすくめた。
「お二人さん、どんな生き物には相性があるのさw 本能的にな?」
僕の髪に潜り込んでるアノールさんが、さりげなくトーコさんをフォローした。僕も瞬発的にそんな気の効いたセリフを言えれば、トーコさんはもっと僕に心を寄せてくれるんだろうな・・・
昨夜も僕たちのプライベートにはなんら進展はなかった。
ただただ、トーコさんはこの出撃の持ち物準備をし、ようやく僕の部屋に来てくれたと思ったら、ラボ側との交渉の論点を一緒に詰めてから、各自の部屋で少しの仮眠を取って終わったんだ。
(´・ω・`)・・・
「ちょっと天川! 何ボーッとしているの? 早く手紙を開いて読みなさいよ!」
「す、すみません! 緊張して仮眠もよく眠れなかったから・・・」
慌てて広げると、一枚目には僕宛ての無機質な今回の予約内容と、もう1枚にはこの施設の案内図と僕たちが尋ねるべき部屋の行き先が図入りで記してあった。カードキーも1枚。
「えっと、ここは地下2Fのようですね。僕たちはエレベーターで地下5Fまで下りる必要があるようです」
「・・・! おいおい、本当かッ!?」
アノールさんが頭の上から僕のおでこをペシペシ叩いた。
「えっと、何か?」
「そこは厳しく管理された研究の心臓部があるフロアだからだ。外部の者に入室許可が与えられるなんて滅多にない。しかも急な申請だった。ここまでの優遇、なぜだ???」
「・・・へぇー? どういう風の吹き回しなのかしら。恐ろしいけど、ここまで来たからにはとにかく行くしかないよね? 天川」
「・・・はい」
謎の秘密結社。そんな組織が、平凡な自分と隣り合わせに存在していたなんて以前は考えることすらなかったんだ。よりよい世界を構築するために作られた新勢力による新興組織だというけれど。
僕にとっては僕をカエル人間にした悪の組織でしかない。
もはや、ちらりとも引き返す選択肢は無くなった。




