47 扉
「ヨシ。お二人さん、ここで降りるぞ」
トーコさんの肩に張り付いたアノールさんの宇宙人のような高音の声。
トロッコから降りた僕たちは薄暗いトンネルの中。
ふらつきながら狭いホームに降り立った。
「怖かったです。急に速くなって振り落とされるかと思いました」
「うふふ・・・私の背中にしがみついてただけのくせに天川は大げさね」
「そうは言うが、トーコの運転はワイルドだ。天川の感覚が一般の域だろう」
細くて狭くて暗いホームが、見えないずっと向こうまで続いてる。壁は岩肌のまま。
僕たち3人(2人と1匹)のエコーがかった声と、反響するコツコツ足音。相変わらず僕の前を行くトーコさんは、いつもの農作業着の後ろ姿。これ、気に入ってるみたいだ。
空気は薄ら寒いし、ここは無気味だ。
「あの、アノールさんはここのバイオラボの存在は知っていたのですか?」
なぜだか何となく、潜めた声で聞いてしまった。
「当たり前だろう。オレは人間の脳のOSで今こうしてヤモリとなってここで生まれ変わり稼働しているというのに。ここはある意味、オレの第二の故郷だよ」
「けどさー、アノールは私にはここの存在は教えてくれなかったよね〜? 私はよろず雑貨店の門番ロボットAIを捕まえて3時間問い詰めて情報を得たのよ。なかなか吐かないから苦労したよ」
トーコさんが半眼で自分の肩の上のアノールさんをちらりと見た。
「それも当たり前だろう。オレがペラペラ裏側を全部話してしまったらトーコの試験にならないじゃないか。差し支えない部分は聞かれたなら教えたはずだ。それに言っただろう? オレだってここの全容は分からない。組織は生き物だ。複雑化して末端は分化して全容は未知の樹形図となっている」
「アノールさん、聞いてもいいですか? 先ほどから幾つか扉を通り過ぎましたね? あの扉は何ですか?」
岩の壁上部には、いくつものコードが走り、天井にはカップに包まれた監視カメラらしきものもくっついている。
「あん? たぶん掃除道具入れとか、お手洗いとか、非常通路とか、空調機械室とか、地上につき出てる換気口煙突へ通じてる扉とかかな? だいたいは知ってるが、オレに関係ない扉のことまでは関知してないな? お前だって会社の建物にある全部の扉の中を知らないだろう? 同じことだ」
「あ、それもそうですね。で、監視カメラがありますけど、僕たち大丈夫でしょうか?」
「問題はない。オレが面会予約をとってあるから。天川の名前でな」
「えっ、道場破りみたく乗り込むのかと思ってました! しかも面会予約はトーコさんではなく僕ですか!?」
「忘れるな。ここはAIで最適化された世界だぞ? 行くことがわかってるなら予約は当然だ。予約名は天川だ。お前がカエル化の問題解決のために乗り込むんだろう? 急にそのことをトーコに昨夜真夜中に告げられて、慌てて修正したんだ。まさかこんな急で内容も無茶振りな申請がすんなり通るとはな! ありがたがれ、そしてこのチャンスを逃すな・・・あ! トーコ、次の扉の前で止まれ。・・・さあ、ここだ」
僕たちは、通路の一番奥の扉前に立った。
アノールさんが、トーコさんの肩から扉の横にある操作盤に飛び乗って、カチャカチャと解錠コードを入れた。
一拍置いて、カチャッと小さなロック解除の音がした。
今度はアノールさんは僕の胸に飛び移ってから頭のてっぺんまでもそもそと登った。僕に来てくれてちょっと嬉しい。
「さあ、扉を開け。天川! 7秒以内に」
緊張でゴクリと喉が鳴った。
トーコさんと視線を交わす。
小さく力強く頷く彼女。
僕も唇を引き締め頷き返し、急に汗ばんできた手のひらで取っ手をつかみ、扉をグイッと押した。




