4イバラの壁
コケコッコー、コケッコー!!
突如ニワトリがすぐそこにいるようなバカデカい声が響いてきて目が覚めた。
「ハッ・・・・! ヤバい! 仕事、遅刻するッ!!」
ガバっとブランケットを跳ね上げ起き上がったら、部屋の中は、まだ薄暗さが残る夜明け前の明るさだった。しかも私のとっ散らかったワンルームの部屋じゃない!!
一瞬頭の中が真っ白になったけど、すぐに理解した。
これは昨日の不可解の続きだ。目に映るはメルヘンチックな童話の中のお部屋。
嘘! 私、本当に謎の世界線に飛んだ? その場合私は、定石では死んでしまった設定では? それともこれは日本のどこかに?別荘地に?マイルドに拉致されたという可能性。って誰がそんなことをするの???
「エッ?! ワワワ? 今なんか床に落ちた。えっと・・・?」
半身まだ布団に包まれたまま身を伸ばし、ハラリと床に落ちた私名前宛のインビテーションカードを拾い上げる。
読み返してググッと眉間が固くなった。
床にあったキャンパス地のスリッパを履いてベッドから降りた。ダイニングの椅子の背に掛けっぱなしの私のショルダーバッグの中を漁る。
確認したスマホは圏外。ならばここはとんだ山奥?
カタン・・・
聞き覚えのある小さな音。
───からくり時計!
朝6時のお知らせは鶏さんの登場だ。小さな扉から出てきた白い鶏さんはくるりと後ろ向きになったと思ったらポコンと卵を産んだ。
「わっ、面白い! 凝ってる作り。こういうの私のお部屋にあったら可愛いけど高そう」
なーんて独り言を言ってる隙に、これまでの逆戻しの動きをしてからツツツと小さな穴に吸い込まれて扉は閉じた。
部屋の静寂に、フッと我に返った。
外からは、小鳥のさえずり。
いつもとは違う朝。久々にぐっすり眠れて頭もすっきりしてる。どうせ今から何とかして出社したとしても遅刻だ。ってか、帰り道もまだ不明だし。
ベッドサイドにボスンッと腰掛けた。
「しょうがないよ? 私のせいじゃないもん。ね、猫ちゃん?」
ベッドサイドテーブルの上の置き物の黒猫に同意を求めた。スマホも通じない今、語らう人もいないし。
開き直ったら肩がスッと軽くなった。いつの間にか夜は明けきって窓の外は眩しい。
・・・ああ、今日はいいお天気ね。見える景色は緑溢れるのどかな風景。
とにかくここを出て外を確かめよう。道路に出れば、電柱に標識とか看板とかあるはずだ。
*****
メルヘン小屋の目の前には畑が広がっていた。地味な色の小鳥たちが地面をツンツンついばんでる。
わぁー、菜の花にブロッコリーも実ってる。他のお野菜も。足元のお花はアネモネかな? ゴージャスな色とりどりのお花でミツバチさんたちが食事中。
わー、空が広くて気持ちのいいところね! 空気も爽やか。うーん、緑のいい匂いがする。けど、一抹の他の臭いが漂っているのに気がついた。
この野性的な臭いは・・・? あれだッ!
私のメルヘン小屋の横側には金網のニワトリ小屋があった。その横には物置小屋。
数羽のニワトリが自由に小屋から出てその辺を歩き回ってる。私の今朝の目覚ましね!
「おはよ! ニワトリさん。あなたの飼い主はどこなの?」
ニワトリさんにとって、私は相手にする生き物でも無いらしい。私の存在はシカトで、地面をつつきながらウロウロしてるだけ。ニワトリ小屋の中には卵が転がってる。
そのままメルヘン小屋の裏側に回った。裏戸があって、ここは家の倉庫から外に出る扉だね。
どこからつながってるのか、崖の山肌の方からのパイプが沈砂池と沈澱池を通り、メルヘン小屋の水道になってるようね。わー、100%天然水じゃん。
崖の下は鬱蒼としたイバラの茂みの蔓の壁。崖の真下までは行けないわ。ぬかるんだとこもあるようだし。
どうなってるの? ここを出る道がない。メルヘン小屋を中心に、せいぜい私の100歩でイバラ蔓の絡み合った壁で行き止まりだ。囲まれちゃってる? イバラの壁の出入り口はどこなの?
これでは眠り姫のお城状態じゃん。私は起きてるし、美女ってわけではない一般の会社員(25)だけど。
道に出られるそれらしき場所は見つけられない。
「すみませーん! 誰かいませんかー?」
イバラの壁の向こうに向って叫んで見たけど返事はない。
生垣が放置されて伸び切ってしまったの? 自分で刈ればいいのかしら? これを? すごく硬くて太くて丈夫そうだよ?
キュルキュル〜・・・
お腹空いたー・・・。ひとまずメルヘン小屋に戻ろっと。
───そしてこの後私はインビテーションカードの意図を読み解くべく、三度目読み返すことになるのだった。




