3メルヘンなおうち
思えば忙し過ぎて、ろくろく買い物にも行けない日々だった。
休日は疲れ切って泥のように眠って、起きると信じられないけどもう昼下がり過ぎてたりした。あと2時間もしないで夕方って時刻。
お日さまは勢いをなくし、少し翳り始めた青い空を見上げ、寝て終わってしまう休日に虚しさを募らせてた。特に毎月の月末の〆前とか。
使い暇がなくて薄給なのに通帳にお金だけは貯まって行く生活。
そんな時期を通り越し、今では不眠症に陥ってクマクマのコンシーラー必須女になっていた私。
「無茶振り苦難の谷とギリギリ吊り橋乗り越え」と、表現せざるを得ない労働エピソードを思い出して、ウルウルした目を人差し指で拭った。
ベッドの上に開かれたままポツンと佇む、先ほどのインビテーションカード。
「・・・インビテーションは私宛てだよね? うん。宛名の暮科透子は私のことだ」
────だからこのベッドは使ってもいいよね?
ふわふわなベッドに横たわっていると、次から次に謎が事が浮かぶ。
ここはどこなの? NNKデストロイ管理組合って何? ウォールクラッシャー? なぜ私がここに? どうやって?
────わからない。なんにも。心当たりも全くないよ。
私がベッドに乗ってから、壁に灯っていたランタンが次第に暗くなって行く。自動的に。
交代するように、ベッドの横にある小さなナイトテーブルの上にあったミニランタンが、暖かい仄かな明かりを灯し始めた。
アナログのようでアナログじゃないお部屋?
ランタンの横には、素朴なシンプルなリーフ模様が彫刻で施された小さなオルゴールと、小首を傾げて不思議顔した陶器の黒猫の置き物。そのお月様色の目は、ちょうど私を見てるみたいな角度。
オルゴール箱を手に取り、裏側のネジを少しだけ回して蓋を開けてみた。
内側は深い青のベルベット張りで、輪になった12羽の青い小鳥が、順に上下して羽ばたいてるからくりオルゴール。赤い実が付いた小枝を咥えてる。
わー、素敵なオルゴールね!
夜空のお星さまが瞬きながらお喋りしてるみたいなメロディが十数秒流れ、途切れ途切れになって消えた。
途端、シーンと静かな夜になった。
「・・・・寝よう」
横になって数秒後、「カチリ」と小さな機械音が聞こえた。
ビクッとして、バッと上身を起こしてキョトキョト周りを警戒。
────あっ! あれだ! 壁にからくり時計!! 鳩時計かな? 夜中の12時ぴったり。
文字盤の下の扉がパコッと開いて中から何かが出て来た。
気になってベッドから下りて前まで行って見上げたら、それはシャベルを持って嬉しそうにしてるカエルくんのフィギュアだった。見られたけど、じっくり見る間もなく、あっという間に引っ込んだ。
鳩じゃなくてカエル? でもとっても可愛かった。うふふ・・・
気がつけばメルヘンチックなおとぎの家にいるという謎過ぎる出来事なのに、私は全く取り乱してはいないの。
美味しい食事でお腹もいっぱいも手伝って、ベッドに戻った私はいつの間にか深い眠りに落ちた───




