39 二人始まりの日
天川アマガエルは昼間はほとんど動かないし、夕方以降もご飯をパクっと食べる以外はほとんど動かない。鳴かない。けれどどこかが悪い感じもしない。心の問題かもね。
私はあの日以来、寝る前には天川カエル相手に他愛もない1人おしゃべりしてる。
天川は聞いてるような聞いてないような? ぷくぷく喉を膨らませながらもじっとしてるからよくわからない。朝起きたら位置は変わってるから、真夜中には動いてはいるみたい。
今日から7月ね。早いな。
かつて得た私の小学生図鑑知識によれば、大人のカエルの脱皮は1〜4週間に1回くらいだったはず。多くは夜から明け方にかけて。
あの衝撃の日から2週間後、遂に遂に天川が脱皮の日が訪れた。
*
早起き習慣となっている私。朝イチで天川を観察し、脱皮の気配を感知した私は素早く風呂のボイラーを点火しに走った。
「よっし!! 炎の用意は整った。天川の水層をここに運んでっと。それから風呂場にお着替えとタオルとブランケットもいるね」
そして遂にその瞬間が────
私が抜け殻をつまみ上げ、風呂の薪という聖なる炎で浄化した結果、天川は前と同じダーウィンな経過を辿りながら無事人間に戻ることが出来た。
「倉科先輩・・・僕・・・僕・・・ふぇぇ〜~ん、わあぁぁ〜〜ん」
天川はカエル生活ですっかり恥ずかしげもなくなってるようで、またもや真っ裸で私の前でわんわん泣き咽び、私に縋るべく向かって来た。
成人男性に抱きつかれるうら若き乙女!!
けれども私は今回、しっかりと受け止めた。
「よしよし。天川はすごく頑張ったね。ほら、お顔を見せてごらん」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡れた顔を、私の腰ベルトに掛けてある作業用手ぬぐいでグリグリ拭った。まるでちっちゃい子のお世話のようだ。
私に抱きとめられ、肩にすがってヒックヒックしている。
無理もない今は。
背中を撫でてポンポンしてなだめるくらいしか私には出来ないよ。
それにしても、裸の男が抱きついて来ても動揺せず受け止める私って???
天川以外の男だったら絶対にあり得ない現象だよね?
嫌悪感は全く無い。トキメキもほぼないけどw
ヒックヒックの間隔もだいぶ開いて来た。もういいかな?
「・・・少しは落ち着いてきた?」
私はそっと肩から引き剥がし、天川と目を合わせる。濡れたまつ毛と赤く腫れた瞼・・・
もう一回、手ぬぐいで顔を拭った。されるがままの天川がちょっと可愛くて、不謹慎にもニヤけてしまいそう。
ひとしきり泣いて少し落ち着いたところで用意してたブランケットをかけてあげた。
─────私はこのフィールドの裏事情の大まかを知ったことで、とある決心をしている。
天川は私を心配して命懸けの出発をしたんだよね なら私だって天川のために命を賭けようじゃん? どうせ私は一回死んだようなもんだし、2度目の人生は好きに生きさせて貰うよ?
「もうちょっとしたらいい湯加減になるよ。この合間に私と少しお話出来る? そこの石に座ろ?」
隣り合わせに座った私たち。
私は天川の右手を取り、しげしげと観察。大丈夫。正真正銘、人間の手だ。そのまま両手で包み込んだ。
「天川、先ずは私に謝らせて。心配かけてほんとうにごめんなさい。そしてありがとう」
「・・・倉科・・先輩。僕の方こそ・・・すみません。・・・グズッ」
「もう泣かないで。天川には私がついてる」
私は私が消えた経緯を天川に説明し誠意を持って謝罪し、そして天川が私を探しに出てからの出来事と自身に起こった思いも寄らぬ変身の一部始終を語り、お互いの欠落情報を補完したのだった。
「先輩に・・・僕特製焼きおにぎりを届けられなかったのは無念です」
またもや瞳をウルウルさせながら震える声で健気なことを言う天川。
「私も食べられなかったのは悔しいよ。でもチャンスはあるよ? これからも私たちは一緒にいるんだもん。ね?」
「・・・これからも・・・僕たち・・ずっと一緒? はいッ!! そうですよね!」
天川、少しは元気が出たみたいで良かった〜 (*´ ᵕ`)
けど私、「ずっと」とは言ってない。
しばらく休みます ( ´ー`)φ




