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その壁を抜けたら───  作者: メイズ
壁の向こう側を探検
38/42

38 岐路に立つトーコ

「トーコは遂にたどり着いたようだな? か弱き彼らの守護神ガーディアン育成のためと現世改革。候補は人の痛みを知る者。されど心を病ませた者では無いことが条件だ」


 ───そうね。私は心と言うより体を病ませたって側面が強い。あの隠遁者や現地人女性は心を病ませてリタイアしたって言ってた。だから彼らはウォールクラッシャー役にはなれなかったんだ!



 アノールの宇宙人声は続く。


「遥か昔を起源にし、侵略に攻防をくり返しながら、それでもコツコツ拡大させながら構築され続けて来た世界には、既に出来上がっている根幹システムの利権がどうしても絡むから、我々の意向を歪める既得権益を壊さなければ新規は進めないのさ。そのためには我々に賛同し人の痛みを身に沁みて体験した人材がいる」


 言ってることは耳から滑ってよくわからないけど、弱者救済ってこと?


「私に何をさせようとしてるかって、現世の壁を壊すことでしょ? 誰かが理想として掲げるオフィスの環境改革? だとしたら近々私は元の生活に戻るってこと?」


「適材適所だ。シークレットメンバーに仕分けされ、ここに残って運営に回る、もしくは元の社会に戻って我々の指令を受け、策を弄しながら末端労働者からの中抜きの壁を壊して行くか。トーコなら後者だろうな。そのためにはトーコには既存社会側で勝ち残って出世して貰わねばならない。現世での改革の権限を得るために」


「私が役職に?」


 そんな期待されてもね・・・


「もちろんそのためには社会既存のルールに沿って格下を存分に利用し、時には蹴散らしながら踏みつけながら登り詰めるしかない。このゲームにて仕込まれ見込まれた社員らが密かに企業グループ内部で繋がっていている。仲間を増やすために新人をスカウトし、このリアルフィールドゲームに放り込むスタイルを続けている」


「わ、人権無視のずいぶん手荒なスカウトね!」


「もちろんフォローはある。トーコが在籍していた会社の現在の人事のトップは現在は我々側結社の人物がキープしているのだ。結社メンバーらで勝算が見込める権限を把握したところで、いっせーのせでひっくり返す」


 企業内にシークレットな結社があるんだ? そこに私はスカウトされてゲーム感覚で適正審査されていたという・・・? それってきっと派閥争いよね?



「もちろん拒否権はある。ただ秘密を知った手前、一般社員とはほとんどかかわらない社史編纂室とか、見張られつつも閑職に置かざるを得ないが」


「エッ、それはどうなの? ひどいよ! ここに来たくて来たわけではないのに」


「思い出せ。トーコは精神より体の方が先に参ってたじゃないか? だとしたら結局は査定が下がる休職か退職行きだった。ここに来ることは、傷のない優秀な社員の立場を保持できるただ一つの救済だったはずだ」


「・・・確かに私はここの生活で癒されてるけど」


「まだこのフィールドゲームは終わったわけではない。いきなり裏側を知っても戸惑うだけだろう。一人でじっくり考えてみてくれ」


「・・・うん。天川のこともあるしね。どうせあの子を助けないことには私はどこにも行けないよ。絶対において行くわけに行かないもん」


「そうだな。まさかカエルにされてしまうとは。オレが思うに、社員たちは会社の健康診断でデータを取られているだろう? 彼の遺伝子配列が研究者に目をつけられていたのだろう。我々の組織の中には優秀なのだがマッドな暴走科学者もいて、探究心が抑えられなかったのかも知れない」


「ひどッ!! どうも元のオフィスもこちら側の秘密結社も大きな問題点アリね!」


「ああ、いろんな人間がいる。組織とは、いつだって内部を完全に思い通りに動かせてるわけでもないのさ。それに全体像はオレにも把握は出来ていない。人の心次第で簡単に別派閥が出来て、さらに深層が出来て行くのだから」


「ふうん。みな結局はその働きは歯車で、実際には俯瞰して何が出来上がっているのかは知り得ないのね。そしてそれもトップが完全統括出来るものでもないのね」


「ああ、思わぬ意図せぬ効果や副産物も出来上がるものさ。その都度対処し、細かく調整だ」


「・・・生きてくって難しいね。とにかく、今日は私の行くべき道が変わりそうな特別な日ね。・・・さて、私は目先の仕事があるから行くね」


「・・・ああそうだな。質問はいつでも受け付ける」



 アノールは天井の隙間に消えていった。



 さて、コップの天川を豪華飼育セットに入れたら私はブランチにしよう。


 どうにも胸がサワサワして落ち着かないったら。


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