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その壁を抜けたら───  作者: メイズ
壁の向こう側を探検
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37 未来理想世界

 ほわほわの柔らかく揺れてる湯気が私を包む。ナイスな湯加減。(たきぎ)式湯沸かしの上達だね!


 温かい湯船に浸かりながら考え事。


 天川アマガエルは、たぶん脱皮した皮を燃やせばまた人間に戻れると思うの。脱皮するまで水槽でお世話するのが一番安全よね‥‥


 動かないけど怪我をしてるわけでもなさそうだし、疲れと精神的ショックで動けないのかも。ひたすら休ませるしかないね。


 あー、私も昨日からの探索ですごく疲れてる。天川の水槽のお家をセットしたら、今日の午前中はお休みして午後から働こう。ああ、お腹空いた〜!



 *



 キッチンで風呂上がりの水を飲んでいたら、横目で窓ガラス越しにヤギが来るのが見えた。何か荷物?を咥えてるみたい。何かのお届け?


 私は飲みかけのコップを置いて、玄関の外に一歩外に出て、両腕を大きく上げて振った。


「おーい、ヤギ〜! 私にお届けものなの? 留守中にお手紙届けてくれてありがとうねー!」


 ヤギは私の声に「んっ?」と顔を上げ、数秒こちらをじっと見つめると急にダッシュで向かって来た!



 わわ? ((((;゜Д゜)))


 その勢いで突っ込まれても角で刺されたら痛そうなので、体を扉の陰に隠したら、アノールがいつの間にかヤモリに戻っていて、扉板の上方に張り付いていた。


「ンメ〜〜〜ンメ〜〜〜!」


 隙間からそっと顔を出すと、もう目の前にいたヤギが咥えてるのは、古びたリュックサックだった。


「ヤギさん、お手紙じゃなくてそれを私にお届けなの? なあに? この小汚いリュック」


 受け取り、上に上げて全方位しげしげ眺めた。


 怪訝そうな私にアノールが教えてくれた。


「ああ、それは物置部屋にあったやつだ。ガラクタ入れからなくなってたから、たぶん天川が見つけて使ってたんだろう」


「そうか。ヤギさんが落とし物を拾って届けてくれたのね。ありがとう。お礼しなきゃね? アノール、ヤギさんへのお礼は何がいいだろう?」


「ンメ〜〜〜、ンメ〜〜〜」


「礼は要らないだろう。中に焼きおむすびが入っていて『美味かったごちそうさん♡』って言っている」


「‥‥それってもしかして!」


 天川が私に届けようとしてくれてたのね‥‥。ヤギの腹に入ってしまったのは残念だけど、米はまだほとんど残ってるし、私の心は寛大だよw


「そっか。天川の焼きおにぎりはおいしかった?」 


「メー! ンメ〜〜メ〜〜〜♡」


 ヤギはこれまでは結構憎たらしいやつだったけど、天川作焼きおにぎり効果にて、私に懐いたらしい。食べ物の力って強大ね!


 私のお腹に意味不明に頭をグリグリすりつけて来るからどんどん押されて背中が壁にぶつかった。すごい力!


「ちょ、ちょとやめてよ! 懐きすぎだよ! どうなってるの?!」


 押し返せずいたら、ポコンって何かが床に落っこちた。


「んっ? わわ、こ、これは!!」


 手に取るとそれは小さなヤギの角だ! 擦りすぎて取れちゃったじゃない! 頭に淡桃色の丸い穴が空いてる。


「ど、どういうことッ? ヤバくねッ!?!?!」


「ンメ〜〜〜!」


 ヤギは私を見てニカッと笑ったような気がした。


 慌ててる私を尻目に軽やかホッピングのご機嫌な足取りで去って行った。



「アノール! これってッッ?!」


「フフフ。それはヤギからのプレゼントかな? 言うなれば『これからは仲良くしてやるぜ?』ってとこだろう」


「違う!! そういうことじゃないってば!!!」



 私の溜め込んだ雑学、小学生生き物図鑑知識は伊達じゃない!



「ヤギの角が取れるなんてあり得ない!! 芯があって頭蓋骨と一体化してるのにッ! 鹿とは違うよ?」


「おや? トーコは知っていたのか?」


「待って? あれはほんとにヤギ? やっぱ遺伝子組み換えッ!?」



 ───よくよく考えるまでもなくアノールだって普通じゃないし、天川のことを思えばそれもアリアリだ。



「まあ、能力が高い特殊なヤギであることに変わりない。もうわかるだろう? ここは遺伝子組み換え実験場でもある」


「え?・・・これが現世を壊して築く理想的未来ってこと?」


 本当は角がない生き物をヤギに変換したから、角が取れやすいとか、じゃないの? ここの生き物って、遺伝子組み換え生物が普通に混ざってる・・・?



「オレも青い鳥の役目を果たす時が来たようだな」


「青い・・鳥? ・・・あっ!!」


 思い出したよ。7時のからくり時計 羊の目を覚まそうとする青い鳥!



 ───羊って・・・盲目・・従順・・生贄・・犠牲・・善良・・・



 ああ、私こそが条件を満たした羊ってことね!!


 そしてNNKデスからのメッセージ!



───青い鳥たちは、羊が目覚めるまでつつく。閉じられたその眼の真の色を知るために。



  私の目を開かせるのはフィールドを飛ぶ青い鳥たち。



「・・・未来が決まってるわけじゃない。いつだって人は良き道をさがして試行錯誤してるんだ。悩める人間が、なりたい他の生き物になれるって素晴らしいじゃないか? 何千年昔の自身が生まれる前からの、脈々の血族が作り上げた既得権益でガチガチとなった社会の中のルールに縛られて生きるには苦しい人も多数いる」


「だ、だからって今さらだよ。時代によって変わる部分はあったとしてもずーっと前の先人に構築された人間界の基本ルールを今さら変えられるわけが無いよ? 経済の仕組みとか、物の価値の決め方とか、社会序列とか。親から子へと生き方はつながってる。市井に伝わる風習も文化だって」


「その通り。けど、それをまとめてひっくり返せるいい手がある」


「それって・・・!」


「そうさ、ならば人間を辞めればいいのさ。そうしたら既存の法は及ばない」


「え? それで遺伝子操作して人間が他の生物になるって・・・無茶振りだわ・・・」


 絶望して死んでしまうよりかはいいかもだけど、人間を捨ててて生きるって? 第一、そんなことが可能なの?



「他の生き物になれたとしても、基本は野生生物としてだが、フィールド内のあちこちのエリアにて飼われてる動物もいるし、元人間にガチの野生は厳しすぎる。だから元人間の彼らをある程度保護するための人間が必要なのさ」


「まさか、私がしてるこのゲームって・・・」


「トーコは遂にたどり着いたようだな? か弱き彼らの守護神(ガーディアン)育成のためだ。候補は人の痛みを知る者。されど心を病ませた者では無いことが条件だ」



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