30 天川の決心
管理人のアノールさんをいくら呼んでも返事がない。ここの主である倉科先輩じゃないと出て来てくれないのかも知れない。いや、探しても見当たらないし、アノールさんも倉科先輩と一緒に消えた可能性もある。
一体どこへ? 厚いイバラの壁で外界と遮断されたこのエリアで、これでは神隠しだ。
けれどヤギさん郵便も荷物も届く出入り口はあるわけで───
侵入者に攫われた? でも、そんな形跡は一切ない。叫び声も争うような声も聞いてはいない。ならば倉庫部屋の裏口から自ら出て行った? もしかして、あのヤギの通り道である急峻な崖を登って?
僕がここに来たから離れたくてさすっと逃げたって可能性も? まさか。そんなんだったら僕は悲し過ぎてまたカエルに戻ってしまいそうだ・・・
やめろ考え過ぎるな! 倉科先輩はガサツだけど絶対そんな人じゃない!
やはり侵入者の線? 顔見知りのヤギに乗ってとか?
────堂々巡りの思考。
ここは厚いイバラの壁で仕切られているし他に道はないはずだ。物々交換の荷物は、ヤギ宅急便がこっそり運んでいたのではないだろうか? 他には思いつかない。
僕は翌日の夜明けを待って、鶏の世話を終えてすぐに倉科先輩を探しに行く決心をした。
先輩のために作ったおむすびを焼きおにぎりに変えて、竹筒に入れた天然水をリュックに入れて行こう。今頃どこかでおなかを空かせているかもしれない。
*
心配した翌朝の天気は上々だった。
特徴的な烏骨鶏のジャナール以外は、どの子がどの名前かはイマイチ不明だ。
新鮮なハコベの山と、水と餌の補給を手早く終えた。世話の仕方は詳しくは聞いてないけどたぶんこれでいいと思う。田舎のおばあちゃんの家で飼ってたから多少の知識はある。
「ニッキー、ダイアン、ジャナール、ログ、メモリ、キロック。僕、倉科先輩をきっと見つけてくるから待っててくれ! 君たちを放っておけないし、万が一倉科先輩を見つけられなくても暗くなる頃には帰るからね」
リビングの壁には、上手とは言えないけど味のある6羽の鶏のイラストが描かれた1枚の紙が貼られている。それぞれの特徴と名前入りで。このセンスは間違いなく倉科先輩が描いて名前もつけたと思われる。
僕は相当な不安と焦燥を抱えているけれど、1人取り残された僕の他にも生き物がいるってだけでなぜか心の綱となるのは何故だろう?
「では行ってきます」
鶏小屋の二重扉の内側の戸を閉めようと思ったら、ジャナールがトコトコ駆け寄って一緒に出て来た。
「ダメだよ、ジャナール。今日は外で遊べない。人がいない時、外に出るのは危険だから今日は我慢だ。ごめんね」
「コケッ!!」
((((;゜Д゜))) エッ、ニワトリって飛べるのッ!?
バサバサ羽ばたきながら僕の肩まで登ってきた!
「コケッコココッ!」
────えっ? 『あたしも行く!』って?
「コケッコー!!」
『レッツゴー!!』って言ったと思う。どうしたことだろう? これって以心伝心? ジャナールが言ってることが分かる。
「ジャナールも倉科先輩を探しに行きたいの? けど、崖登らなきゃいけないし危険かも知れないから待ってて────ワワワ、痛ッ! こら、やめ・・イタタッ! 痛いよッタタタッ! わかったからやめてッ!!」
────ということで、烏骨鶏のジャナールを連れてヤギ専用道のロッククライミングに挑戦することになった。多少は飛べるのなら万が一滑落の時もこの子だけは助かるはずだ。
一度はアマカエルになった身。今さら恐れるものなんてないさ!!
ジャナールと2人、見上げる崖は急峻、高くごつごつの岩だ。




