25 新たなエリアを見学
「よし。誰もいない。トーコも出て来い!」
アノールの合図で恐る恐る、箱からハイハイで擦り出た途端、独特な初めて嗅ぐ臭いに鼻がびっくりしてる。
「モ〜、んモ〜」「モゴモゴ、ブハッ」
わわわ、牛さんだ! 牛って、目ん玉も顔も体もデカッ!!
やっと出られた場所は牛舎の片隅だった。仕切られて並んだ牛が6頭並んでる。
振り向くと、壁が自動的にせり上がってぴったりと閉まるとこだった。私のいたメルヘン小屋と同じ造りだね。なら、この壁にも迷彩柄トリックの、壁制御リモコンスパイダーが潜んでいるのかな?
穴が空くほど壁をジーッと見つめていた私に、肩に登って来たアノールが耳元で言った。
「ここの壁制御スパイダーは気にすんな。オレが妨害電波を出してるから今は何も受信出来てないだろう」
「ありがとう。外に出てみようよ。窓のすき間から見える空はいいお天気ね!」
「誰にも見つかるなよ」
ここの住人は、空箱が届いてたらショックかもね。本来の中身のクマのぬいぐるみは、私のせいで行き先不明になって遅れるけど多分届くから。だってここは最適化された世界なんでしょ? きっとバグも修正してくれるはず。
牛舎から一歩出ると、緑の草の匂いにふわーっと包まれた。いい匂〜い。草刈りの匂い。思わずわーっと駆け出した。
それに目の前は小牧場! 素敵だね。一面のクローバーの白い花たち。向こうにみえる箱は養蜂かな?
建物の前の干場にはためいてる洗濯物は、天川と私の2人分の量の倍以上はある。ってことはチームで経営かな? ううん、子ども服も混じってる! ってことはファミリー経営の可能性じゃん? フィールドワークゲーム形式の世界に家族ごといるってこと? クマのぬいぐるみを注文してたし。もしやゲーム世界の現地人ってことも?
ここも私のいたメルヘン小屋同様に、イバラの蔓の絡んだ厚い壁で囲まれているのが遠目で見えた。
けれどもここは私のいたエリアより広いし、イバラの向こう側にはのっぽの塔一棟が見えてる。南側には街がある? 東側は山。西側は海? ううん、大きな湖かも。北は煙突みたいなのが幾つも見えるから工場地帯? 遠いし、はっきりとは見えない。けど今まで全然知れなかった全体像。
「ねえ、アノール。ここは広いしすっごく気持ちのいいところね〜♡」
草原に寝転んだ。
スーハースーハー、両腕を思い切り広げて深呼吸。ここでは時折交じる牛舎の臭さえ乙だわ。
草のすき間から背伸びして空を見あげてるアノールは童話の中の小動物みたいにかわいくて、絵本にしたいくらいよ。思い切って遠くまで来て良かったな〜。箱の中は地味に辛かったけど。
「・・・オレ、誰にも見つからないようにって言ったよな? 大胆過ぎないか?」
「えっ? 見たところ誰もいないじゃん」
ただ気持ちのいい緑のそよ風が、目を合わせた私たちの間をすーっと通り過ぎた。
「・・・じゃ、後は頑張れよ♡」
私から目線をサッと逸らし、そんなことを言い残してネズミ姿のアノールは草むらに消えた。
えっ? アノールったらどこ行くの? 草原をお散歩? 別にいいけど。アノールなら迷子になることもないだろうし。
「鳥やモグラに連れ去られないように気をつけるのよー」
アノールに聞こえたかしら?
白いポンポンが揺れてるクローバーの絨毯の上で仰向けに両手を広げて寝転んで、空を見上げてる私の上を一匹のシオカラトンボがホバリングしてる。
そう、渋く青いあれはシオカラトンボで間違いはないの。小学生の時の図鑑知識はダテじゃないw 実物は初めて見た〜。
いいよねー、自然って。うふふ〜 (*´ ᵕ`)
「ほーら、おいでー、トンボさん。この指とーまれ!」
天に向けて人差し指をくるくる回してからピタッと止めた。
トンボさんが指先に止まってくれたから、私はそっと上身を起こした。
待って、なんか違和感。
「あなた、トンボの割に随分重たいよね? トンボってもっと軽いものだと想像してた」
『私が生体のトンボより重いのは当然です。私は巡回型セキュリティ昆虫擬態ロボットですから。ビー、ビー、不審者発見ッ! 不審者発見ッ!』
碧い湖みたいな色のトンボの目が、突如ピコピコと赤い点滅に変わった!
キャー!! そうだった。この世界では人にだけ注意していればいいわけではないのよ! びっくりして咄嗟に右手指先のトンボを左手で握り潰してしまった!!
精密機械らしき細かい部品が私の太ももらへんにバラバラと散らばった。
私ったら最近は日々の農作業で握力も鍛えられていたようね。
待って! ヤッバ!! これって高そうw
どうしよう・・・((((;゜Д゜))) NNKデス運営からのお手紙には弁済に関する無気味な一文が。
けどさ、こんな理不尽に投げ込まれたゲームにつき合わされて挙句、体で弁済させられたら困るし。
───よしッ、逃げよう!! 無かったことにして。
証拠隠滅! 部品を拾い集めてポケットに入れ、すくっと立ち上がった。途端に頭のてっぺんから出てるような高音の声が聞こえた。
「急げ!! もうゲートは開いてる。次、行くぜッ♡」
ああ、アノールが無事でよかった。
純白のネズミが草むらから出て来て体感1秒、私の脚を伝わり背中を通り肩まで素早く駆け上がった。
やだ〜w アノールったら巡回型ロボットを察して、逃げる用意してくれてたのね!
「サンキュ! 行こっ!」
牛舎に向かって全力疾走!!
───はてさて、次は何を見れるかな?




