22 集荷ルートの秘密
アシダカグモはニックネームで軍曹さんと呼ばれています。
この倉庫部屋、今まで気にしたことは無かったんだけど、こうして改めて見るとちょっとした違和感よね・・・何かが変。何かが不自然。
「う~ん・・・あ?」
私はもしかして Σ(゜Д゜) って気がついた疑惑を確かめるべく、勝手口から外に出た。
外側から歩幅で部屋の幅のおおよそを測る。物を避けながら測った部屋の内側と比べて約歩幅一歩分、外側が広いことが分かった。
───棚の後ろ側の壁は二重壁になってるんだ!
壁と壁の隙間に秘密があるんだ!!
・・・ん? 壁・・・私はウォールクラッシャーだったよね? ってことはこの壁を壊していいのかしら?
でもこんな硬いレンガの壁をどうやって?
まずは天川が戻って来たら一緒にこの棚を動かして、ツルハシぶっこむ? いやいや、もしこのメルヘン小屋が反動で大きく壊れてしまったら、細々とようやく保っている衣食住も壊れてしまう。
そういえば、2通目のお手紙にはこんな不気味なことわり書きが追加されてたよね?
《※過失により何らかの損害が発生した場合、加害者の生命エネルギー換置により弁済していただく方式を採用しております。》
これってどういう意味? アノールに対してだけのことなのか、全般を通してのことなのか不明だわ。言葉通りに取ったら寿命縮むっぽくない?
まさかお手軽に腎臓を・・・とか? ((((;゜Д゜)))
怖すぎる。ツルハシ案却下。
ああー、私が平べったい小さな生物だったのなら、合わせ目の隙間とか、ひび割れから入ってこの壁の裏側を探れるのに。その時はゴキブリ以外希望。
思いつきも行き詰まって、なにげ棚越しに壁を見つめていたら、今まで気づかなかったなんか異物が浮かび上がって見えて来た。
ふと、棚の向こうの壁に一匹のアシダカグモが、レンガ模様に同化して忍者みたいにじっと潜んでる。手のひら大の軍曹さん。マジでいるのわかんなかった。いつからいたんだろう? 目くらましされてただけで、私が来る前からいたのかな? それとも最近来たの?
この子は怖くないよ。向こうの方が人間を怖がるし、Gその他虫も退治してくれる益虫だし。
・・・ここはアノールの部屋でもあるんだよね。
「ちょっとそこの軍曹さん! あなたがありがたい益虫なのは知ってるけど、アノールは食べ物じゃないからね! この家でヤモリは絶対に食べちゃダメだよ? 分かった?」
蜘蛛に言ってもわかるわけないか。けど種を超えての多言語使いのアノールのことだから、案外この軍曹さんともお友だちだったりしてw
私の熱意が通じたのか、軍曹さんは物々交換置き場所の棚にススススッと身体に似合わない素早い動きで出て来た。人間を怖がらないなんて、人になついてるのかしら? 実はアノールのペットだったりしてw
棚板の上で真正面に私に向いている。
正面に並んだ4つの目と、上下左右を見渡せる一拍置きながら点々と4つ並んだ艷やかな黒い目がその上のおでこについてる。
ハンターのための目。捕食者の仕様だわ。長い8本脚から成る驚異的な俊足と運動能力。小学生の時に知った図鑑知識だけど〜w
「あなた、ヤモリのアノールを知ってるの? 軍曹さんもアノールのお友だち?」
軍曹さんの8個の目が突然、新鮮な海ぶどうみたいな透明感の美しい黄緑色に変わった。
なんだろう? 普通の蜘蛛とは違うみたい。お話が通じてるみたいな?
まさかとは思うけど、アノールの蜘蛛版という可能性もあるよ? 一応、試して損はない。
「あなた、この壁を開けられる? 蜘蛛なんだから裏側の隅々まで知ってるよね? ここは二重壁で、裏側は集荷ルートだよね?」
《集荷ですか? パスワードをどうぞ》
蜘蛛の目の色が点滅に変わり、抑揚のない機械的なデジタル音声が発せられた!
これってロボット?! 軍事技術の粋? スパイダー型スパイアイテムとか? ここの門番?
───パスワードって? 私が知る由もない。
「えっと、えっと、ちょっと待って。ど忘れしちゃったのよね〜w・・・ヒントお願い!」
《現在は暮科透子用設定です。今月はまだパスワードの変更はありません。前回と同じ合言葉をどうぞ》
なら私に関することかしら? もう適当ッ!
「えっと、"ウォールクラッシャー暮科透子"」
《・・・間違っています。あと2回でロックします》
軍曹さんの目の色が、一斉に赤い点滅に変わった。マジ?! ならアノールのこと?
「えっと、勘違いだったようね。 "赤い腹はヤモリじゃなくてイモリ" だったっけ?」
《正しいパスワードをお答え下さい。あと1回間違うとロックします》
わー、絶対絶命! もう間違えられない。赤い点滅の間隔が早まって私を焦らせるけど何も思い浮かばないや・・・えっと・・・えっと・・・あ?
そうだ! アノールと私の一番の楽しい思い出といえば────
「春のお月見会!」
ドキドキしながら反応待つ。
軍曹さんの目がぱっと元の若草色の点灯に戻った。これって・・・!
《このハウスには現在集荷荷物は登録されていません。エキストラ集荷登録いたしますか?》
やったぁ!!
「はい、追加お願い」
《品物をここに置いて下さい。スキャンします》
えっ、なにも用意してない。どうしよう?
とか思っていたら、軍曹さんの目から赤い横線ビームが出て私をスキャンした?!
《では、ラム1頭、センター行き、集荷致します》
ラムって? 子羊?
私が戸惑っている間に、棚丸ごと地面に静々と沈んで行く。同時にその後ろの部分のレンガの壁も。
カメレオンみたいに景色に同化してる蜘蛛型門番ロボットが壁に潜んでいたとは!!
沈みゆく棚から下にシュッと降り立った蜘蛛ロボット。私は獲物を狙う猫のみたいな姿勢で両方肘を床につき、目を合わせて訴えた。
「ちょっと!! 私はラム肉じゃないってば!!」
《集荷荷物のラッピングが不充分です》
問答無用でゴム様のネットに包まれた。
私は蜘蛛がお尻から放ったネットに一瞬で捕らわれ、解放された壁の隙間にズルズルと引き込まれた。
「どうなってんのよ! キャンセルボタンはどこなのッ?!」
下り坂となってる底しれない奥はどうなってるのか暗くて全く見えないわ。
《集荷セット完了。コンベアスタートします。到着予定は33分後です》
助けを呼ぶ暇もなくあれよあれよという間に開放された壁はせり上がって元に戻って行く。同時にコンベアが滑らかに動き出した。まるで空港のスーツケースみたい。私は落っこちないように、ほふく体勢で構えた。
────怖い。暗闇のベルトコンベアトンネルはどこに続いているの? 楽しみにしていた夕食のおむすびはどうなるの? 天川の独り占めなんてズルいよ・・・
しばらくお休みします ( ´ー`)φ




