19 ヤギさん郵便再び
天川がメルヘン小屋に加わった翌日の朝────
例のヤギさん郵便が再び現れた。2度目だ。
私が開いた扉の隙間から顔を入れて、咥えた封筒をポイッと投げ捨てて引っ込んだ。
「ありがとう。あっ、待ちなさいッ!!」
「メェ~!! アッカンメェ〜www」
「こらー!! ヤギめ、畑を踏み荒らすなーーー!!」
ヤギがどこから出入りしてるのか後をつけて見つけてやろうと思ったけど、四つ足動物のスタートダッシュの超加速ぶりと、縦横無尽の走りで草むらも囲いも軽々と飛び越えるヤギには敵うわけもなく。
「無謀ですよ? 暮科先輩。ヤギと追いかけっこですか? 窓から見てましたよ」
汗だくになってメルヘン小屋に戻った私に、天川はマグに入った水を差し出しながら呆れた一声を出した。
「あれ? 天川、起きてたんだ。あなた人間に戻ったばっかりなんだし、今日は休んでていいのよ♡」
窓から天川ガエルを投げ捨てて、知らん間に朝まで気絶させていたという負い目が私を優しくさせる。
「ニワトリたちがあんなに叫んでたら起きますって。それに人間の姿で動けるようになってうれしくて寝てられませんよ。はい、水どうぞ」
「ああ、ありがとう。お水めちゃウマだわ。ハァー、私はただアイツがどこから出入りしているのか知りたかったのよ。どこかに秘密の地下トンネルがあるらしいのよ」
「・・・僕、ヤギの通り道知ってますよ?」
天川ったら首傾げてキョトンって顔して、それって重大情報じゃん!
「エッッ!? なんで?」
「カエル時代に見ました。思うにあのヤギは暮科先輩を追跡を防ぐために、まずは出入り口とは違う方向に向かって走ってるのだと思いますよ? で、藪に隠れて追跡を巻いているのでは。ヤギはおっとり草を食む動物という印象ですが、実は山岳地帯に住む運動能力抜群の動物なんです。この小屋の裏手の急峻な崖をヒョイヒョイと登って行くのを一度だけ見たことあります」
「抜け道は地下トンネルなのよ? 前に言ってたもん。 私には通れない地下トンネルを通ってるって。アノールが通訳してくれたの」
「うーん、なら崖のどこかに出入り口があるんじゃないですか? 仕組みは謎ですが、手紙を配達するヤギの本部の郵便局みたいなとこが崖のどこかの隙間からトンネルになって繋がっているとか?」
「確かにあそこは人間には登れないよね。装備も命綱も無いし、ロッククライマーでも無理だわ。私には通れないってそういう意味だったのね・・・」
「ここに封筒の手紙が届くんですね。ハイテクノロジーを持っているみたいなのに、その点もアナログですよね・・・」
「それよね。・・・私の考察ではここは新規ゲームの実験場で、日常から遠ざけられた世界観を作っているんじゃないかしら? 人って過去の世界には憧れがあるもの。私たちはキャラの作りのモルモットにされて、アナログでレトロな状況を与えられて行動観察されているのだと思うわ」
「で先輩、その封筒には何が入っているんでしょうか?」
「NNKデスからのお知らせだと思うわ。テーブルで一緒にみてみよ?」
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***ウォールクラッシャー暮科透子様***
【お知らせ】
蛙化現象解除、成功おめでとうございます。つきまして暮科様は報酬を受け取る権利を得ました。
これより外部エリアと物々交換が可能になります。余剰生産品を希望の品と等価交換できるようになりしましたので是非ともご利用ください。
ご希望はサイドテーブルに備え付けの黒猫にお知らせください。
引き続きご武運をお祈り申し上げます。
NNKデストロイ管理組合一同
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「物々交換出来るんだって! やったー、欲しい物が手に入る!!」
「何か足りないものがあるんですか?」
「うん、ここには粉はあるけどお米がないのよ。ご飯たべたーい!! 」
「野菜と交換出来ますね。それで備え付けの黒猫ベリスって何でしょうか?」
「もしかして、この陶器の黒猫の置き物のことかしら? ほらこれよ。けどただの置き物だよね?」
私が寝る前にぬいぐるみ代わりに話しかけてるかわいいネコちゃんの置き物。ベッドの脇のサイドテーブルから手に取って、テーブルの上に置いた。
天川は手に取って確かめてる。
「これ、普通の陶器の置き物にしては少し重たくないですか?」
「そう? 気が付かなかったわ。私に貸して。何か裏に書いてある? 製品名とか製造メーカーとか生産番号とか。黒猫ベリスってこの子の以外には思いつかないわ。あなたベリスっていうの?」
天川から手渡されて裏側を見てからいつものようにネコちゃんに話しかけた。
途端、お月様みたいな猫の瞳の中の黒い縦長の瞳孔が、まん丸に開いた!
「ニャ~ゴ。トーコ、私はベリスよ。よろしくね。あなたとお話出来るようになって嬉しいわ。いつもは一方的に聞くだけだったんですもの。物々交換のご希望があったら教えてね。交換可能な品物はあるのかしら?」
少女のような可愛らしい声。そしてお上品な喋り。
「・・・!! わ、喋った!!! 目が動いた。これって陶器じゃなかったの? スイッチがどこかにあるの?」
「もう一度見せて下さい。・・・硬いですよね。不思議な材質ですね。目の部分は特殊なカメラのようです。鼻の穴がスピーカーのようです。スイッチは見当たりませんね。見かけはただの置き物です。全て遠隔で操作しているのでは?」
「・・・そっか。この子は見守りという名の監視カメラの役割をしてたってわけね・・・」
やだぁ、私はこの子にその日1日のことをしょっちゅう話しかけていたのに。誰かに聞かれていたのなら恥ずかしいってば。置き場所変えようっと。
「・・・ここは新規ゲームの開発の実験場では、という暮科先輩の考察が当たっている確率が高まる感じがします。2通目のカードには、『NNKツアー《現世を滅ぼすための壁崩しコース》はいかがでしょうか?』って書いてありますけど、このニューゲームのプロトタイプを社員を使って実験してるのでしょうか?」




