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花火を打ち上げて。  作者: 黒花
第3章 開花
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第44話 王子の特別課題

「ロゼはいないのか」


「時間までは出掛けているんじゃないか」



 休日の城の中。

 トネアス・グランディーンはソファーに座っていた。


 隣には弟ランタナとガルベラがいて、日頃の威厳な空気はどうした、と思うくらいに皆が揃って手足を伸ばして完全に脱力している。



 ここは三男ガルベラの自室だ。



「ロゼ姫は王子様と仲良くお出かけ中だよ、兄さん」


「何!? どこの国の王子だそいつは!?」



 ガルベラの返答にガバリと身体を起こす。興奮気味に話をするも、特にこれと言った反応は返されない。


 ガルベラの倍もの年齢にもなるが、会話のノリにはその年齢差は感じられない。その証拠に母から「貴方はある意味若い」と言われたことがある。



「タクミの事でしょう。


 この前だって、私の執務室の前で二人で戯れていて、部屋から出難くなってしまって困ったくらいだ」



 その横で天井を見続けているランタナ。

 淡々と話す彼だが、その内容から、彼でも気不味く感じた出来事があったらしい。



「ええ……いつの間に、二人そんな仲になってたの」


 ソファーの上で膝を抱えて丸くなり「疎外感を感じる」とブツブツ言う。私は第一王子で次期国王候補でもあるため、主に父と一緒に表に立つ仕事をしている。そのため厳格な態度を取っていることが多い。


 が、私の本性はこれだ。私がこんな姿を見せれるのは、私たち兄弟が一緒にいる時くらいである。



 だがそれは決して悪いことではないと思っている。


 他国の王家とは異なり、継承や派閥問題もなく平和な日々を保てているのは、こうして私たちが定期的に未だ兄弟水入らずの時間を作っているからかもしれない。



「あいつ等、まだ恋人同士じゃないのが不思議なくらい、会うたび互いに見つめ合っていて、隣にいる私が照れる」


「なんだ、まだ恋人同士ではないのか」


「自覚しているのか、していないのか微妙なところだった」


「それって友達以上、恋人未満ってやつ?」



 私とランタナはそれぞれ結婚していて子どももいる。


 普段は城内の別の場所にそれぞれ住んでいて、皆で食事を一緒に取ることはあるが、公務以外の時間は基本的に別々の生活だ。


 独り身の頃は弟たちと部屋と並べて一緒に住んでいたが、今いるこの場所、ガルベラの部屋に並んで住んでいるのは、彼と同い年の義妹、ロゼリスだけだった。



 ロゼリス・グランディーン。

 この国の第一王女だ。


「そうだったのか。でもロゼにも好い人が出来たのなら、それは良かった」


 そう思うのには訳がある。



 彼女はある日を境に、周りの人との交流を酷く狭めはじめた。もともとが社交的な性格だった為に、それに気がついた時は驚いたものだった。


 最初は襲撃で両親を亡くした事が原因かと思われた。確かに元気のない日が続いてはいたが、明らかに彼女が変わったのはそれから二年後の事で。


 その年は、私は復興支援をしてくれていた大陸国へとお礼も含めた訪問をしていて、ジラーフラには半年近く不在だった。


 その時に国内ではあるものが発見されていた。


 鑑定花だ。


 ガルベラの現婚約者である、トレチア・オルガイ。下級貴族の一人娘が、育成過程で見つけたというその花は『本人の持つ魔力が全て分かってしまうらしい』というものだった。


 それまでの魔力は、得意か不得意かという認識でしかなかった。私も土魔法が得意で、光魔法が少し使えるが、他の魔法は上手く使えない、というような認識でしかなかった。


 だがその花の発見と共に、それまで不確実なものだった魔力の大きさは、五つの種類と五つの段階に分けられるようになって。


 献上品として城に届いた鑑定花を、先ずは王族が使おうということになった。



 王である父が鑑定花を使い土4水1と判明し、女王である母が土3水1火1と判明した。


 それから弟ランタナ、妻のシザン、ガルベラとロゼリスの四人の魔力が判明した。


 当時十歳だったガルベラとロゼリスを基準に、十歳以上の国民に対し魔力鑑定を行った結果、国の中でただ一人、魔力の型が異なる者が出てしまった。



 それがロゼリスだ。彼女は鑑定花を使うと水魔法5という結果が出た。

 だが、彼女は他にも色々な力を持っていたのである。


 自分以外の国民全てが鑑定花の結果の法則に基づく中で、自分だけがそれを逸脱していたことに、彼女は酷く疎外感を感じ、傷付いたらしい。


 両親も弟も、そして帰国した私も、彼女は特別で、そして特別なことは決して悪い事ではなく、むしろきっと何か意味を持つものだと説得したが、彼女は自分自身を否定していくようになっていった。



 彼女は中等部を卒業すると、庭師団に入りたいと志願した。


 両親を見習い、自分の力を活かしたくなったと言う彼女は、仕事熱心な庭師となったが、人と関わるのを避けようとする様子は一向に改善しなかった。


(誰かが彼女の傷付いた心を癒やしてはくれないだろうか)


 残念ながら、私たち兄弟には彼女を本当の意味で元気づけることは出来なかったから。


 もしも彼女に素敵な相手が現れる日がきたら、その時は暖かく見守ろうと心に決めていたのだ。



「でもさ、その相手がまさか異世界人なんてね」


 その人物はどんな力の持ち主だろうかと想像することがよくあったけれど。


「火魔法特化だし」

「魔物と言葉が話せて」

「花の精霊とも話が出来る」



「「「あとは、いい奴」」」


 しん、と部屋が静まる。



「……お似合いなのかもね」


「そのくらい強い印象の者でないと、ロゼも心を開かないのかもしれないな」


 そう、そのくらい強い印象の者でないと、彼女はもう見向きもしないくらいには周りと距離を取っていた。



 救いな事に、彼女にはとても仲の良い友達がいる。


 これもまた、まさかの鑑定花を見つけたトレチア・オルガイだった。


 自分が傷付く元となった『鑑定花』の製作者。彼女もまた珍しい魔力の型をしていたのだが、普通なら恨みそうなはずのところを、親友となってしまうのだから、人の心の扉を開く鍵など、どこに転がっているのか分からぬものだな、とよくため息をついたものだ。


 ロゼリスの恋の話は、きっとトレチア嬢が日頃聞いたりしているのだろう。



「ロゼはどこまでタクミに話をしていると思う?」



 ロゼリスに好い人ができたというのならば、気になるのはそこだった。なぜなら彼女はつい先日まで、相手の彼に王女であることすら隠していたというのだから。


 ガルベラから伝えることもできたのだが、彼女の口から話すべきだと見守っていたら、まさかこんな長い間黙り続けることになってしまっていた。



「ロゼの認識だろう? 庭師をしている水魔法使いの王女様。多分これ」


「あー……、それは早いうちに全部言ったほうが後々いいだろうな」



 弟たちも思うことがあるのだろう、それぞれが彼女に思う事を浮かべて、様々な表情で話を続けていく。



「でも本当、タクミが来てからロゼ笑うようになったよね」


「そうだな」


「タクミの前なら、普通の女の子でいられるんじゃないのか」


「第一王女だと知っても態度を変えなかったそうじゃないか」


「まあ、元々私たちにもそういう態度を取っていなかったけれどね」


「身分がない世界だったからだと言うがな」


「身分か……」


 話題がロゼリスから異世界人タクミへと移っていく。


 そう、彼の身分についての話題だ。


「タクミの身分はどうするんだ?」


 同じことを思ったのか、先に口を開いたのはランタナだった。途端にガルベラが頭を抱えはじめる。



「まさか、ガルベラの初の一人仕事が『タクミの身分を決める』だなんてね」



 中々の課題を息子に与えた両親。流石はこの国を十年でここまで復興させた王夫婦だと思う。



「本当……どうしよう……」



 タクミが現れてから、今日で四ヶ月程。

 決定までに半年間の猶予を貰っていたガルベラだったが、それも残りあと二ヶ月となってしまった。


「時間が過ぎれば過ぎるほど、その判断がし辛くなってくるよ」


 項垂れる彼に伝えれば、更にその顔が険しくなっていく。


「分かってるって……。

 タクミにも秋頃には決まると伝えてあるんだ。


 ただ、どの身分を充てようとしても、タクミには合わない気がしてならない」


「いっそこのまま身分がないままでもいい気もするのだがな」



 今度は三人で揃って唸ってしまう。


 なんせ異世界人の身分を決めるというのは、我々兄たちも経験のない事だからだ。



 彼女ロゼリスを今度こそ変えてくれるかもしれない彼。

 だからこそこの選択は間違えてはならないのだ。



 もしかしたら、遠くない将来、彼が本当に彼女の王子様になるかもしれないのだから。



「あれだ、ガルベラの夏休み特別課題だね」


「………」



 それから約束の時間になるまでの間、私たちは久しぶりに三人でああでもないこうでもない、と意見交換をして過ごしていた。

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