ファイナル・ラブ 後編
これで完結です!!
今日はなんていう日なのか。
結婚式の前撮りということで、教会へ来たら別れたはずのアレックスが突然現れて、手を取り合って走っている。
馴れないヒールと足元も見えないドレスで、彼の脚力に合わせるのは容易ではなかった。スニーカーなら負けないのにと、的外れな考えを振り切った。
前を行く広く逞しい背中を見るのは久々で、以前はこの背中を追い掛けていた。
大きく温かい手は、力強くカーリンのそれを包み込む。
胸元で弾むネックレス。
恋人として過ごした幸せな時間が蘇り、彼女の瞳が輝く。
― やっぱり、少佐が大好き!!
教会の近くでタクシーを捕まえると、アレックスはカーリンとボリュームあるドレスを奥の席へ押し込んで自分も急いで続いた。
肩で息をしながらドレスに埋もれている軍人と花嫁に、運転手は興味津々で尋ねる。
「お客さん、どちらまで?」
「取り敢えず車を出してくれ」
「わかりました。俺に任せて下さい!!」
事情アリと踏んだ運転手が嬉々して答えると、タイヤが派手な音を立てて急発進した。
「あの、少佐」
別れた気まずさより驚愕が大き過ぎて、カーリンはついいつもの調子で話し掛けた。
「結婚式を台無しにしてしまったな。責任は俺が取る」
やっと息が整ったアレックスが罰悪そうに言うと、カーリンはきょとんとしている。
「式は挙げてませんよ」
「え?」
「今日は前撮りです」
今度はアレックスがきょとんとした。
「前撮り?」
「フィリデオが出向するから、写真だけでも撮っておきたいって」
「しかし、彼が……」と言い掛けて、一杯食わされたと舌打ちをする。いや、早合点したのはアレックスでフィリデオは教会にいるとだけ伝えて結婚式だとは一言も言ってはいないのだ。
今になって思えば、教会にはカーリンとフィリデオしかいなかったのではないのか。それすら気づかなかったとは、どれだけ焦っていたのかと笑いが溢れた。
声を立てて笑うアレックスに、カーリンはギョッとして怪訝そうに見つめている。
ようやく笑いが治まったアレックスが運転席に身を乗り出して行き先を告げた。
「少佐、ここは……」
タクシーがとまった場所は、シャトレーズ軍人学校だった。
先に降りたアレックスがカーリンに手を貸してやると、ドレスと共に飛び出す。
「すべてはここから始まった」
二人は校舎を感慨深く見上げた。教官と訓練生から始まって恋をした。別れてもお互いを求めて止まない。
もし、本当に運命があるならばまさにこの瞬間であろう。
「カーリン」
「はい」
「もうお前を放さない。だから、別れるなんて言わないでくれ」
「少佐……」
彼がこれから言おうとする台詞に期待していいのか、カーリンが躊躇っていると
「一生俺のそばにいてほしい」
「それって……」
「結婚しよう」
振り向いたアレックスは優しく微笑んでいた。突然のプロポーズに、カーリンの瞳から大粒の涙がこぼれる。
「返事は?」と促されて、まるで訓練生と教官みたいだとカーリンが笑った。
「はい、少佐」
「俺はもうお前の少佐じゃない」
もっと相応しい呼び名があると彼は言う。少し間が空いて、頬を赤く染めたカーリンが言った。
「はい、アレックス」
やっと叶った呼び名に、アレックスはたまらず彼女に唇を重ねた。
互いの存在を確かめ合う長いキスに、校門の守衛は事情を聞くにも訊けずおろおろしている。
「カーリン!?」
記念式典が終了したのか、講堂から出てきたチェリーが叫んだ。
かたや礼服かたやウエディングドレスの二人は、まさに結婚式さながらの格好で一同は唖然としている。
「なんでここにいるのよ!? 休暇は!? その格好はなに!? 」
「これには事情があって。話せば長いよ?」
何から説明すればいいのか、アレックスと顔を見合わせて困惑するカーリン。
「まあまあ、細かいことはいいじゃないか」
矢継ぎ早に質問するチェリーを、セドリックが宥めるとキッと睨らまれた。
「あなた、知ってたのね!?」
情報で出し抜かれたと悔しがる彼女に、セドリックはしたり顔だ。
「あいつ、スピーチをドタキャンしたのはこういうことか」
慰霊祭に引き続き、またもや急きょスピーチを任されたランディは「やるな」とビアンカと二人でにやりと笑った。
「あれ、ミュラー教官じゃない?」
「あの花嫁、卒業生のリヒター伍長じゃないか!?」
参列者や訓練生も集まり始めて、校門の周りは騒然となる。
「どうしよう!!」
予想外の騒ぎにカーリンが狼狽えると、アレックスは口角を上げて手を握った。
「走るぞ」
「ひえぇ!! またですか!!」
皆が押し寄せてきたので、二人は手を繋ぐと笑顔で駆け出した。
あれから四年、中佐になったアレックスは教育部主任として学校の中心人物になった。
「さてと、俺はそろそろ帰りますけど主任は?」
セドリックは立ち上がると大きく背伸びをしたので、アレックスも時計に目をやる。
「もうこんな時間か」
「たまには早く帰って差し上げたらいかがです?」
「そうだな。マーティン教官も気をつけて帰りなさい」
少尉で教官二年目だというのに、未だ子ども扱いする上官にセドリックは苦笑した。
「それでは失礼します」
「チェリーによろしく」
付け加えた一言に、照れ笑いしながら帰っていく部下を見送るとアレックスも腰を上げる。
学校から車で十五分、幹部居住地の一戸建てがアレックスの自宅だ。閑静な土地で、夜は特に静かなのが気に入っている。
玄関のドアを開けると、上半身裸の幼い男女が彼に向かって駆けてきた。
「お帰り、ちゅーさ」
「お帰り、パパ」
「ただいま」
膝をつき両手を軽く広げると、子ども達は嬉しそうに軍服の胸へ飛び込んだ。
「今日ね、絵が上手ねってせんせーに誉められたよ」
「ああっ!! ずるい。ぼくも褒められたのに」
アレックスの腕の中で子ども達がケンカを始めたので、二人の頭に手を置いて頬を緩ませる。双子だけに、言動のタイミングが同時なので対応も大変だ。
「すごいな。今度見せてくれ」
「「うん!!」」
ご満悦の様子でドタバタとリビングへ行く我が子を見届けて彼も続くと、今度は裸体にバスタオルだけ巻きつけた女性と鉢合わせになった。
「こらー!! ちゃんと拭かなきゃダメじゃないか!!」
入浴中だったのか、金色の髪から雫が滴り落ちている。
どちらかと言えば静かな雰囲気が好きな彼だが、我が家に関しては騒々しい方が却って落ち着くから不思議だ。
それにしても……と、目のやり場に困る姿にアレックスは苦笑する。白い肌が蒸気でピンクに染まり、すらりとした脚を惜しげもなく晒していた。
「帰宅早々、夫を誘っているのか?」
「へっ? ええっ!?」
狼狽する彼女に、笑いを堪えて唇にキスをする。少しだけ身を固くするのは、恋人の頃から変わらない反応だ。
唇を離すと、グリーンの瞳と視線が交じり合う。美しい笑みで見つめる妻に口元が綻んだ。
「ただ今、カーリン」
「お帰り、アレックス」
教官と訓練生から五年、二人で歩む人生は始まったばかりである。
カーリンとアレックスの恋を見守って頂きありがとうございました!!
どうにか無事完結することが出来たのも、応援して下さった皆様のお陰です。
とても感謝しております。
次回作も楽しみにして頂けたら嬉しいです♪
ご意見・ご感想をお待ちしております。




