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真夏の男女六人物語 その2

「じゃあ、お先に!!」とチェリーとセドリックは歓声をあげて海へ走っていくと、ランディとビアンカも負けじと後を追う。 

 そんな四人の後ろ姿を見送ったカーリンとアレックスは並んで腰を下ろした。

「わたしに構わず遊んでいいんですよ」

「俺がそんなタイプに見えるか?」

 苦笑するアレックスは、栗色の前髪を下ろしているせいか雰囲気が幼い。


 ― 少佐、髪を下ろすと少年っぽくて可愛い。


「わたしのために無理したんじゃないですか?」

 アレックスは、若いチェリー達に交じってはしゃいでいる同期カップルを眩しそうに眺めた。

「海は嫌いじゃない。ただ……」

 彼の話によれば、三人でレジャーに出掛けると必ず帰りの車の運転はアレックスで、あとの二人は仲良く爆睡するらしい。

 毎回これでは気の毒だからとジャンケンで決めたこともあるが、まったく意味がなく結局また彼が運転する羽目となった。

 苦にならないが、ランディの肩に寄り掛かって眠るビアンカをルームミラーで見るのがつらかったという。

 カーリンはどう言っていいか分からず黙ってしまった。

「俺達も行くか」と、アレックスが彼女に向き直る。鍛えられているが決して筋肉ダルマではない肉体は先ほどの話題ではないが、見慣れているはずなのに改めて見ると照れるものだ。

 彼の指が恋人のパーカーのチャックに掛かると、カーリンは慌てて身をのけ反る。

「な、な、何をするんですか!?」

「なにって泳ぐんだろ?」

「わたし、泳げないです!!」

「教えてやる」

「ちょっ……、っや!!」


「お前等、なにいちゃついているんだ?」

 カーリンとアレックスの目の前に影が差した。見上げると、休憩に戻ってきたランディが半眼で見下ろしている。

「開放的な気分になるのは分かるが、こんな所で抱くつもりか?」

 カーリンのパーカーを剥ぎ取り襲っているとしか見えず、四人の軽蔑する眼差しがアレックスに突き刺さった。

「あ、あの、違うんです。わたし、泳げないから少佐が教えてくれるって」

「行くぞ」

 説明するのも面倒だとアレックスがカーリンの手を握って海へ走り去る。その際にパーカーがふわっと砂浜に落ちて、カーリンの水着姿が露わになった。

「へえ。黒のワンピースか」

 背中と脇が大きく開いたデザインに、セドリックの鼻の下が伸びたのでチェリーに思い切り足を踏まれたのは言うまでもない。

 

 

 浅瀬までやってくると、約束通りアレックスの指導のもとカーリンは泳ぐ練習をした。バタ足で進むカーリンの腰をアレックスが支える。

運動神経がいい彼女はすぐコツを掴んで形になってきた。

「初めてにしては上手いものだ」

「ほんとですか!?」

 くるりと向きを変えたカーリンと体が密着する。アレックスが落とした視線に彼女の胸の谷間があった。

 着痩せする彼女のそれは意外と存在感があり、白い肌を覆った黒のワンピースが妙に艶めかしい。それこそ見慣れた光景なのに目のやり場に困ってしまった。


「もう!! 信じられない!!」

一時でも他の女性、しかも親友に心奪われたセドリックにチェリーはおかんむりだ。

「悪かったよ。チェリーの方が可愛いって」

 むくれるチェリーをセドリックが追い掛けた時だった。

「きゃっ!!」

砂浜に足をとられて、転びそうになる彼女の腕をセドリックが咄嗟に掴んで引き寄せる。

上官二人より体の線が細いが、訓練生の頃より逞しくなった彼に抱き締められてチェリーの鼓動は速くなった。身体が火照るのは夏の日差しだけではない。

そっと唇を差し出すチェリーにセドリックは焦った。


― ここでキスしろってか!? 人、多過ぎだろ!?


つま先立ちで催促する彼女に下した決断は、唇の代わりにペットボトルを突き出す情けないものだ。

「サイテー!!」と、チェリーが吐き捨てて足早に歩き出すと、セドリックはまた後ろから必死に謝る。

 

「いいねえ。まさに青春って感じ」 

 そんな様子をサンシェードの中から眺めていたランディがニヤニヤして呟く。「なあ、ビアンカ」と、相槌を求めたが婚約者はそっぽを向いて返事もしない。

「なんだ、なに怒ってんだ?」

「どうせ、青春過ぎた女の水着はみっともないわよ」

 ビアンカが不機嫌な理由は、休憩していた彼女にランディが上着を無理やり羽織らせたことだった。どうやら、ここに来る途中の彼の一言をまだ根に持っているらしい。


 《どうせ派手なビキニだろ? 女の子と張り合うなよ、みっともない》


 ようやく合点がいったランディはため息交じりに言った。

「あのなあ、お前に言い寄る男どもを何人追い払ったと思ってるんだ!?」

「えっ?」

 意外な台詞にビアンカは目を丸くする。まるで、少女みたいなあどけない表情の彼女に唇を重ねる。

「俺以外、無防備になるなよ」

 そのまま二人、足を絡めて……。

「開放的な気分になるのは分かるが、ここで抱くつもりか?」

 先ほどのランディの台詞のそっくり引用した声に、二人ははっとした。上目遣いで声の主を確認すると、呆れた表情のアレックスとチェリー、そして真っ赤な顔のカーリンとセドリックが目の前に立っている。

「セドリックもこのくらいになればねえ」と、チェリーが恨めしく彼氏を見やったので、腹立ちまぎれについ口が滑った。

「歳いってれば、あのくらいできるさ」

「「「歳いってれば……!?」」」

 十歳年下の部下に言われて二十七歳の三人が顔をひきつらせる。

「アレックス、部下の教育がなっていないぞ」

「口の悪い坊やには、お姉さまが教えてあげる」

「そんな風に教育した覚えはないがな」

「失言でした!! ごめんなさい!!」

 教官達に詰め寄られて、チェリーに助けを求めるもにこやかに手を振るのみだ。

 上官三人の追撃を必死にかわすセドリックに声援を送るチェリーとカーリン。真夏の日差しをたっぷり吸収した灼熱の砂浜で、暑苦しいバトルを繰り広げた。



 楽しい時間は過ぎるのも早く、青い海も次第に茜色へと染まっていく。

 ビーチバレーをしていてその道の関係者にスカウトされたり、ナンパ目的の若者と一触即発の場面があったりといろいろあった。

「そろそろ帰るか」

 名残惜しそうにサンシェードを片付ける男性陣と着替えをする女性陣は、人の波も引いた海辺をあとにする。

 帰路の運転はくじ引きでアレックスとなった。

 乗った当初は騒がしかった車内もいつしか寝息が聞こえ始める。気が付けば、起きているのはアレックスと助手席のカーリンだけだ。

「寝ても構わんぞ」

 一番はしゃいだので疲れただろうと気遣ったが、彼女は寝るのは勿体ないと首を横に振る。

「少佐って優しいですよね」

「どうして?」

「だって、わざと当たりを引いたんでしょう?」

 紐の先に印が付いている者が運転するということで、免許を持っている四人が順番に行った。先に引いた三人には印がなく、必然的に最後となったアレックスとなる。

 だが、実は四本のひもにはどれも印が付いていなかったことをカーリンは知っていた。皆、遊び疲れているだろうと運転を買って出たのだと。

「知ってたのか。恐れ入ったな」

「隠し事はなしですから」

 正面を向いたアレックスが頬を緩ませた。そんな彼のさりげない仕草がカーリンはたまらなく好きなのだ。

「またしばらく会えないですね」

「一生そばにいるか?」

 アレックスはそんな言葉がこぼれそうになった。結婚すればずっとそばにいられる。だが、そう思っているのは彼だけで、カーリンの意思は違うかも知れない。夫婦になれば、恋人のときのように甘い時間だけでは済まされない場合もある。

「そうだな」と一言だけ残して運転する彼は心なしか寂しげだった。

 


 

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