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リラ・ペンシルの追憶②


私が大学生になり、兄と暮らし始めて2ヶ月が過ぎた頃。

大学生活にも慣れ、ちょうど私も兄も3限目で講義が終了する日があった。

偶然にも兄と休講が重なったレアな日だった。


前日に、


「明日講義早く終わるだろ。夏物の服でも見に渋谷に行く?」


と兄から誘いを受けた。


「行くっっっっっ!!!」


即答だった。


上京してからというものの、そういった遊びに出掛けるというイベントが皆無だった私。

最初は今の生活に慣れるのに一杯一杯で、心身的な余裕は無かった。

ようやく大学生活に慣れ、落ち着いて心に余裕が出来たタイミングでの兄からの誘い。

兄の気遣いが何より嬉しかった。


「私の3限目、いつも10分くらい早く終わるんだよね。講義が終わったら、私がそっちに行くよ!」


「そうか?じゃあ、●●●駅前に●●時●●分頃集合で。西口の方な」


その日の講義中は、講義後の楽しみがあると思うといつもより頑張れた気がする。

時間もあっという間に過ぎた。


講義が終わり、ひと足早く兄との待ち合わせ場所に到着した私は兄の到着を待っていた。が、一向に兄は来ず、連絡も無かったので私は心配になった。

兄は連絡をまめにくれるし、こういった待ち合わせに平気で遅れてくるような人ではなかったからだ。


そうして更に10分が経過し、兄に一度電話を掛けようとした時だった。


「●●●!わりぃ……しつこいヤツに捕まってさ。撒くのに時間経っちまった……」


袖で汗を拭い、深く息をする兄の顔には疲労感が窺えた。

走ってきてくれたのだろう。兄は膝に手をつき、しんどそうである。

兄の息が整うまで待って、私は鞄からお茶を取り出すと、「ほら」と兄にペットボトルごと差し出す。

兄が目を丸くして驚くものだから、


「……言っとくけど、新品だから。さっきそこの自販機で買ったやつよ」


と言うと


「別に、昔はよく飲みかけのジュースを交換して飲んでただろ?俺は●●●の飲みかけなら、気にしねぇけどな」


何て言うから、不覚にもキュンっと来てしまった。


「んじゃ貰うわ、さんきゅ。…………っっは〜…………生き返ったわ。んじゃー、行くか〜…………」


そう兄に手を引けられた瞬間、よくこうして私が迷子にならないように手を握ってくれたっけ。と懐かしんだ。

●●●にぃってば、私もう大学生なのに。●●●にぃにとって私は、いつまでも手の掛かる妹なんだろうなと思っていたのも束の間、


真後ろから大きな声がして、私と兄は振り返る事になる。


「あぁーーーーーー!●●●先輩、女の子と手繋いでるーーー!彼女は要らないって、●●を振ったくせにーーー!」


振り返ると全身をピンク一色で統一した、奇抜な女が立っていた。


ど、どなた?


ボブカットの髪はパステルピンクで染められ、胸元にはハートのネックレス(勿論ピンク)、ピンク色の丈の短いワンピースにピンク色のヒール、そしてピンク色のショルダーを下げていた。

田舎から出てきた私が言うのもなんだったが、ファッション的にもコレはどう見ても痛いのではないか?

何だか地雷系っぽい……。

兄も隣で「んげっ……」と、実家で猫が野ネズミを玄関先に置いた現場を見た時と、同じ目をしていた。


周りの人達もなんだ修羅場か?と言わんばかりの視線を遠巻きに向けてくる。

うるうるとした目を兄に向けた後、次の瞬間には私の方を向いてキッと睨んできたのだ。え、怖っっ(汗)


「……彼女さんですか?先輩と付き合っているんですか?ねぇ、どうなんですかっっっ!!!」


「へ……?あ、いや……」


女の圧にたじろぐ私に、兄はすかさずフォローに入ってくれた。


「●●には関係ないだろ。いい加減しつこいぞ、お前」


「っ……だってーーー手、繋ぐなんてズルいズルいっっっ!私の●●●先輩なのにーーー!」


「いつお前のになったんだよ。……妄想激しいのもいい加減にしろ。はっきり言って迷惑だから」


その後も実の妹だと説明したにも関わらず、「嘘だ」「●●●先輩は●●の運命なんだもんっ!●●と付き合ってっ!」「彼女にしてくれなきゃ離れないーーー」


何てギャーギャー泣き騒ぐものだから、通行人の誰かが警察に通報し警察案件になった。


そのピンクの地雷系ストーカー女は、それからも兄へのストーカー行為を繰り返し、その後しばらくして接近禁止命令が出た。

兄のバイト先の出待ちをしたり、ちょっと目を離した隙に兄の私物を盗んだり、兄と住んでいる部屋を特定して郵便受けに大量ラブレターを入れたり(封筒に髪の毛が入っていたこともあったり)と、女の私から見てもゾッとするくらい気持ち悪い行為の数々であった。


兄曰く、少し前に落とし物を拾ってあげただけなのに、それをきっかけに運命だ云々と付き纏われるようになったんだとか。

兄は私に心配をかけたくなくて、黙っていたようだが。

何かあったなら、家族なのだから相談してほしかった……というのが私の本音だったけれど。


兄は駅でのことがあってからは「……証拠品」とか言い、全て証拠品を残して〝呪物〟と書かれた段ボールに仕舞い、押し入れに封印をしていた。

証拠品を扱う際は「念には念を…」と言ってゴム手袋をし、指紋を上書きしないようにする辺りが兄らしいと言えば兄らしいが、そんな兄が不憫で仕方なかった。


一応ストーカー事件は解決した形になったが、兄は「巻き込んで悪かった」と言って私の好きなバッキバキチョコアイスをレジ袋いっぱいに買ってきてくれたり、私が最近ハマった漫画本を全巻大人買いしてきてくれたりと貢ぎ物?がしばらくの間続いた。


「●●●にぃ、気持ちだけで十分だから、ね?」

と言っても、兄はしばらく貢ぎ物をやめなかった。


この一件で学んだこと、それは都会って怖い場所なんだな〜と知ったことであった。



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