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リラ・ペンシルの追憶①


私の生前の記憶は、算数の虫喰い問題のように、所々真っ黒に塗り潰されている。

その黒く塗り潰された記憶を思い出そうとすると、頭がぐわっと痛くなって……目眩を起こしてしまうから、生前の記憶を辿るのは気が重い。

だが、その黒く塗り潰された記憶以外の今ある思い出さえも、いつか夢のように完全に消えてしまうような気がして……。


怖かった。

私、●●●が、●●●で無くなり、過去の記憶が私の中から消えていくことが怖かった。


だから私は日記のように、覚えていることを今のうちに書き記しておこうと思う。

いつかこの身に宿る過去の記憶が失われ始めたとしても、少しでもその記憶を留めておけるようにと。



◇◇◇◇◇



私の実家は東北地方にある田舎にある。

私は両親と、2つ歳の離れた兄、そして父方の祖父母と6人で一緒に暮らしていた。


その両親は大の猫好きで、猫グッズを通販で買うのが生き甲斐な人たちだった。

そんな猫好き一家に生まれた●●●は、家の中も猫だらけな生活を送っていたのだ。


家の蔵には猫のためのキャットフードや猫砂、おもちゃ等が入った段ボールで埋まっていたし、家の中も猫のためのキャットタワーやキャットハウス、父はキャットウォークまで作る始末。


玄関や窓の冊子を開けていると、猫が一匹、また一匹と入ってくるので家中どこにいても猫がいる生活を送っていた。

だからと言って飼育崩壊しているとか、そういったことは一切ない。


住んでいる町自体が山奥の、それも自然の壁に阻まれた閉鎖的な場所にあった。そのため元々町全体が猫だらけで、小さな町であったが〝猫の町〟として全国的に有名な土地柄だった。


その猫を一目見ようと、観光客がどんどん来るものだから、町は〝猫の町〟として大々的に売り出したという経緯があった。


そして私も猫が好きだった。祖父母も布団へ猫を入れて一緒に寝る程には、猫が好きだった。


そんな猫好き一家で唯一、猫を苦手としていたのが兄だった。

しっかり者で頼れる兄だったが、猫が絡むとポンコツになってしまうのが欠点。


「ぎゃーーーーーッッッ!!!お、俺の部屋に猫がいるぅぅぅぅぅ!????(あ、ムリ)」


という具合に。

兄がこんなにも取り乱すのには理由があった。兄は幼い頃に近所の野良猫たちに追いかけられ、それ以降トラウマになってしまったんだそうな(私は幼かったため、全く覚えていない)。

そして歳月が経った現在も、トラウマが消える事なく兄は猫が苦手なのだ。

しかし本人のトラウマとは裏腹に、兄は猫たちに好かれているため兄の部屋には猫たちが隙あらば侵入してくる。

兄にとっては、ちょっとしたホラー現象だろうが。


私の部屋は兄の真向かいにあるため、その悲鳴は筒抜けだった。

私がまたいつものヤツだなと、呆れ半分で兄の部屋を覗くと兄は顔を真っ青にし、猫たちに戯れられていた。口をパクパクさせながらちょっと白眼を剥いていた。


兄の膝の上に伸び切った猫が1匹、肩にスフィンクス座りで欠伸をかいている猫がまた1匹。


「●●●……兄はもう、ダメかもしれない……」


「●●●にぃ、いつも大袈裟じゃない?ほら、可愛いじゃないの。ね〜?●●、●●」


猫2匹を兄から引っぺがし、抱き上げると兄は物凄い勢いで後退し、あらゆるものを巻き込んで壁際で停止した。

壁際で「なんて恐ろしいことを……」などと呟き、へたり込んでいる姿は普段の兄とのギャップがありすぎてちょっと面白可愛い。


こんな日々を繰り返し、兄が高校3年になったある日。


「………兄は猫と無縁の生活を送るため、大学は都会に出て一人暮らしをしようと思う」


そう言って、地元の高校を卒業した●●●にぃは、東京の大学に受かると実家を出て行った。

歳の近かった兄が家を出て、私は凄く悲しかった。

ブラコン……まではいかないと思うが、しっかり者で頼れる兄で、でも時々ビックリするくらいポンコツになる兄が私は好きだった。

それから私は兄を追いかけるように、その2年後実家を出る事になる。


と言っても兄と同じ東京にある国公立大を受験したのだが、受験戦争にあっさり敗れた私。兄とは地頭の違いがあったようで、何もかも同じとはいかなかったが滑り止めで受験していた東京の私大に合格した私。

そのまま浪人生活を送る事なく、その私大に進路を進めた。


兄の大学と私が通う事になった大学は駅3つ分の距離にあり、家賃のことも考えた私たちは兄妹で一緒に暮らす事になった。

兄も兄で最初は引っ越しが大変だとか、大学が遠くなるとか文句を言っていたけれど私の大学の最寄り駅に部屋を借りる事にしてくれた。


兄曰く、

「●●●は可愛いんだから!暗い夜道を歩かせるわけにはいかねぇの!!!」


だそうだ。


私も兄が好きだったと思うが、大概、兄も私が好きだったと思う。

妹のことを第一に考えてくれるところは、2年経っても変わっていなくて安心したのを覚えている。


私は地元にいた頃から本が好きで、兄と本をシェアしながら読んでいた。地元は田舎だったから、娯楽が少なく本が唯一の娯楽のようなものだったのだ。

幼い頃、兄はよく少年漫画系を読んでいたが、私は少女漫画が好きだった。好みは違っていたが、お互いに漫画を貸し借りして読んでいたなぁ。

成長するに連れ、漫画に始まり一般文芸、そしてライトノベル……などと読むジャンルの幅は広がっていった。


そういった背景もあり、私は文学や人文を主に学べる文学部一択。

入学したての頃は、明確になりたい職業を想像していた訳ではなかった。だが本に関する事を学び、そういった職に就ければな。というふわっとした理想が自分の中にあった。


前世でも、私はやはり本の虫だったのだ。




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