リラ・ペンシル①
リラ・ペンシルは禁書庫へ向かう途中、何人もの先輩司書たちから同情のような目を向けられていることに気がついた。
中にはドンマイとでも言いたげな表情で、肩に手を置いてきた先輩司書もいたのだ。
リラとしては担当する書庫が変わっただけで、大きな変化は何もないと感じていた。
それに図書館をクビにならなかっただけで、十分満足していたからそういう目が自分に向けられる理由が分からない。
まぁ、一つ変わって事といえば制服の色だろうか?今までは紺色の制服を着用していたのだが、禁書庫担当者は白色の制服に変わるらしいのだ。
白といっても真っ白というより、よくよく見るとオフホワイト?
のような白だった。私は何にも染まっていないようなこの白い制服を早速気に入っていた。
それに〝禁書庫〟という響きが、何とも本好きたるリラの心を踊らせた。
一般書庫には置いていない、禁じられた書庫。一般の利用者は閲覧出来ない危険な本というのも、本を読みたいリラの欲求を刺激した。
◇◇◇◇◇
そうして禁書庫へ到着すると、リラは感嘆の声を上げた。
まずその蔵書数。
地下とは思えないほど広い空間は、上の書庫と比べても遜色ない数の本が本棚に収納されていた。しかもどれもこれも見たことないものだらけ。テンションを上げるなと言う方が難しいだろう。
思わず近くの本に手を伸ばしそうになったリラだが、館長の言葉を思い出して思いとどまった。
リラ・ペンシルは何度も同じ失敗を繰り返す女ではないのだ。
読書に没頭し、またクビの危機に陥ったら今度こそ終わりだからだ。
早速本を読みたいという自己の欲求を抑えつえ、館長から依頼された仕事内容を反芻する。
「えっと、まず禁書庫内の掃除をするべし……っと」
リラは本棚を見上げると、本棚の上に手を伸ばすため踏み台を移動させた。
踏み台に上がると案の定、ホコリが大量に溜まっているのを目視で確認する。ここまでは前任者のキュティと同じで、禁書庫の大精霊のサチが固唾をのんで見守っているとリラは思ってもみない行動に出たのだった。
リラはボソボソと詠唱を行い、何をするのかと思えば魔法で手に奇怪な道具を生み出したのだった。
持ち手があり、その先にはふわふわとした布のようなものが付いていた。
「ハンディモップ〜♫ってね」
ハンディモップ???
何だそれは。
サチは黙って見守っていたが、前回の女の時と同様に図書館に明後日の方向から強風が吹き荒れ、リラは吹き飛ばされてしまった。
しかしリラは飛ばされただけでは終わらなかった。強風でとばされ、身が投げ出されたが咄嗟に身体強化魔法で空中で一回転し、まるで大道芸人さながらの動きで床に着地した。
「図書館内で強風?不思議なこともあるものね〜」
なんて軽口を叩いている。
サチは面白い人間が来たかもしれないと、本の隙間からずいっと身を乗り出すと本が微かに動き、カタッという音が出てしまった。
そしてサチはリラと目が合った。
サチは焦った。
どこからどうみても目線が合っている。この私が見えている……?妖精の類は相当の魔力の持ち主か、妖精に縁のある者でないと見えないはずなのに。
実際、前任者の女はサチが見えていなかった。なのにこの女は私と目が合っている???
サチは苦し紛れに首を傾げニコッと笑うと、リラもまた首を傾げニコッと笑った。
サチは汗をダラダラかきながら内心焦っていた。
何せサチは大精霊。無闇やたりに人間に見られていい存在ではないのだ。どうしよう、でもこの人間、100%私が見えている!???
と、サチが焦っている真向かいで、リラも同様に内心焦っていた。
何せ本の中で見たことがある妖精が、眼の前にいるのだ。
挿絵にあった通り、透けるような薄く美しい羽根に、その可愛らしい容姿。腰付近まで伸びているその髪色はプラチナゴールドで、手に乗るほどのサイズ感なのがまたたまらない。
お互いに動けずにしばらくこう着状態が続いたが、意外にもそのこう着状態を破ったのは第三者の存在だった。
「アレェ?サチ、何そんなトコで固まってんの?バグってる?大丈夫ぅ???」
隣の本棚からひょっと顔を出したのは、何とも気だるげな男だった。
不審者かにも思えたが、その身に纏うものが白の制服だったので同じ司書だとリラは悟った。
「っっっ!!!オビっっっ!!!」
サチはどうしていいか分からず、思わずその声の主の所へ飛んでいき、頭の後ろへ隠れた。
よって自然とリラ・ペンシルは、サチにオビと呼ばれた男性司書と向かい合うこととなった。
「んん?女の子じゃん。ってその制服、もしかしなくても同僚?あぁ、館長が言ってた追加増員かぁ〜!かわいい女の子で良かったわぁ〜〜何せ禁書庫って本しか無いじゃん?退屈でさぁ〜〜たまに話し相手になってくれると嬉しいなぁぁ〜〜」
饒舌にペラペラと話し出すものだから、リラは思わず先輩に対して素で返事をしてしまった。
「おっふ……」




