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序章③ 二度はない


クロッカス王国の『中央図書館』には、他の『東図書館』『西図書館』『南図書館』『北図書館』には無い禁書庫と呼ばれる地下書庫が存在していた。


禁書庫とは一般には見せられない、名の通り禁じられた危険図書が国内から集められた書庫の事を指す。


例えば血をインク代わりに記したとされる呪いの本や、読むたびに内容が変わる本、悪いモノを封じ込めたとされる封印の本などがある。

そんな危険な本を管理する司書もまた必要で、禁書庫は万年人員不足に悩まされていた。

そんな人員不足に対応するため、禁書庫には大聖霊が住み着いていた。


その名はサチ。

小柄な女性の手に収まるほどのミニサイズだが、大精霊なので高位の精霊にあたる。

とっても偉いのです。

そんなサチの日課は禁書庫内をくまなく見て周り、入りたい本と本の隙間を見つけてそこで昼寝をとる事だ。そしてお気に入りのしおりを手に、一日に一冊の本を読む事。


だがある日、その高位の精霊たるサチの平穏を脅かす存在が一ヶ月前に現れた。


◇◇◇◇◇


新たに禁書庫の担当となったのはキュティ・ガーナーといういかにもぶりっ子な女である。


館長のマック・レガーの話によると、男漁りで仕事の邪魔をしサボり、注意した女性司書たちの反感をかったんだとか。

マックは女性司書たちの苦情を真摯に受け止め、反省させる目的で禁書庫送りとしたようだ。

マックも意地が悪い。よりによって禁書庫へ社会に出て間もないヒヨッコを送って来ようとは……。


何はともあれ、サチはしばらく様子を見ることにした。


まず館長からキュティに与えられた仕事は、禁書庫内の掃除であった。

禁書庫は地下にあるとはいえ、ホコリが溜まる。その除去から入らねばならなかった。


キュティは定石通り、まず高いところからホコリを取ろうとしたようだ。

ふむふむ。やり方は合っている。

だがここは紛れもない禁書庫。常識が通用する一般書庫とは違うが、この女は果たして気がつくだろうか?


女は嫌々ながらも踏み台を探し、高い棚へと手を伸ばした。

風の魔法を応用し、ホコリを一箇所に集めるようだな。


だがそれは〝悪手〟だ。


キュティが風魔法を放とうとした瞬間、キュティは明後日の方向から来た強い風によって吹き飛ばされた。踏み台の高さは2メートルはあったので、受け身を取らねば怪我をするだろう。しかしキュティは何が起きたのかまるで分かっておらず、身を投げ出すがままとなっていた。

サチは仕方なく、助けてやる事にした。

指をパチンと鳴らし、風の魔法で受け止めてやったのだ。


女は何が起きたか未だに理解できず、何を思ったのかまた踏み台に上がり風魔法を使おうと試みたが、また明後日の方向から来た強い風に吹き飛ばされた。

しかしサチは二度目は助けなかった。

故にキュティはそのまま飛ばされ、床に顔面から激突し強く打ったのか鼻から鼻血がボタボタと出ていた。


「うわー、痛そう」


サチは少し同情した。


サチが残念そうな顔をキュティに向けていると、キュティは袖で血を拭い、すたっと立ち上がった。立ち上がると表情を般若の如く歪め、苛立ちをぶつけるようにあろう事か本棚に蹴りを入れようとした。

サチは冷めた目でその一挙一動を見ていたが、サチが何をするでもなく禁書庫が〝咆哮をあげた〟


この禁書庫には〝意思が宿っている〟のだ。

その禁書庫の主人が怒っている。女の行動に対し、排除すべき対象として認識したのだ。


禁書庫内が大きく揺れ、本棚に収納されていた本たちが一斉に舞い上がった。

本たちは女を取り囲むと不吉なオーラを出し、女を威嚇し始めた。が、危機感が無い女なのか、女は舞い上がった本に向けて風魔法で攻撃を加えたのだ。

しかしその攻撃は本には当たらず、相殺されていく。


「なんっ……で当たらないのよっっっ!!!」


「そりゃね、ここは禁書庫だしね」


女の苛立ちに被せるようにサチは声を出すが、女はサチの声が聴こえていない。


混乱の最中、女は禁書庫から逃げようとするが禁書庫の主人はそれを〝ユルサナイ〟

入ってきた入口は硬く閉ざされ、禁書庫内の空間が歪んだ。


「あぁ、やっちゃったわね。しばらくかかりそうだし、昼寝でもしようかな」


サチは動いていない本と本の間に身体ごと入り込み、体育座りでそのまま寝こけた。

こうなるとサチはなかなか起きない。


サチが次に目覚めたのは、およそ一ヶ月後であった。

禁書庫も女を追い詰めることに満足したのか手を緩め、書庫の入口を開けてやった。

禁書庫もさっさとこの女を追い出したいのだろう。


女は入口が開いたのを目に捉えると、一目散に逃げ出した。

女は髪も服装もボロボロになっていたが、入口から出るとその身は入ってきた時のまま、身綺麗な姿に戻っていた。


禁書庫内で見聞きした事は、禁書庫外に持ち出せない仕組みになっている。

なので女は禁書庫内で何が起きたか、ここ一ヶ月の記憶がすっぽりと抜けた状態だ。

記憶は抜けたが、禁書庫内で経験した恐怖は魂に刻まれているのでキュティは青ざめたままだ。


ザマァないのよ。


サチは女が出ていったのを見届けると、また眠りにつこうとしたがマックから連絡が入った。

何でも今し方逃げ出した女の代わりに、また別の女を禁書庫担当に据えるというのだ。


禁書庫はサチと、人間でいうとあと2名の司書が担当で禁書庫内にいるが、その2名もなかなかの曲者である。

2名のうち、1名は書庫の海に呑まれてまだ帰ってきていないし、もう1名は仮眠室に入ったまま一ヶ月と一週間ほど出てきていない。


マックめ……もっとまともな人材を回せよとサチは悪態をつく。

それに同意するかのように、禁書庫も深く唸った。


「さて、次はそんな女がやってくるのかしらね?」


サチはその人間がやってくるのを待ちながら、書庫の本を読みながらしばらく待ったのだった。


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