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序章② 仏の顔も三度まで


中央図書館はその名の通り、王都のメインストリートを抜けたほぼ中央に位置する。

都民の生活基盤を支える飲食店や呉服店などのお店が立ち並ぶ中、その中央にある図書館は一見不釣り合いにも見える。

だがその一見不釣り合いそうに見える図書館こそ、この王都で民が毎日利用する最も欠かせない公共施設なのであった。


クロッカス王国の識字率は、8割を超えていると国の統計調査で公表されている。

その識字率の高さは周辺国から群を抜き、堂々たる中央諸国でトップクラス。各国でもクロッカスに倣らうべきだと、年々識字率に対する見直しが進んでいた。


クロッカスでその識字率が高まるきっかけになったのは、王の何気ない一言から始まった。


「文字の読み書きは、貴族に留まらず平民も出来るようにならねばならん」


そこからクロッカスの貴族は大慌て。


議会で議論が繰り返され細かい法整備が行われ、正式に法案が可決されたのが今から12年前。

貴族から平民にわたる全ての国民が文字の読み書きを可能にする政策が施行し、小さな学習塾が王国中に作られる事となる。学習塾へは文字の読み書きが出来る者が城から次々と派遣され、その学習支援は王国中を巻き込む一大プロジェクトとして多くの国民の期待と関心を寄せた。


国王もお忍びで視察を繰り返した。王都周辺から辺境の地まで赴き、自らの目で見て感じたことを胸に改善策を次々と打ち出していったのだ。

支援の足りていない学習塾へは追加の人員と資金提供を。資金の中抜きをしていた貴族は貴族位の剥奪、からの鉱山へ強制就労という徹底ぶりである。


それから芋づる式に不正取り引きや悪事を働いていた貴族が一斉処罰され、国民からの王への信仰も鰻登り。治安も以前の比でないほど良くなり、国民生活は安定期に入ったと言えよう。


そうして施行発足から10年の節目を迎えた一昨年、リニューアルで建てられたのが現在の中央図書館である。


幼い子どもはたくさんの挿絵が描かれた絵本を読む。クロッカス王国の誕生秘話を子ども向けに編集した本から、数を楽しく学べる教育本、子どもの成長を促す本がたくさんとり揃えられていた。


大人もこぞって本を読みに図書館へ通う。子どもの頃に習えなかった文字や数字を学ぶというのが大半だが、文字が読めるようになると娯楽としての本を求めるようになった。

特に恋愛小説は男女問わず、幅広い年代層から人気を集めてブームだ。


よって図書館で働く図書館司書は多忙を極めていた。

図書館司書になるためには、国で年に一度行われる国家試験に合格しなければなれないが、その難易度は高く100人受けたら9割が落ちるとされていた。

難易度の高い試験な故に合格者も少なく、リニューアルから1年目の合格者はわずか5人。

リニューアル前から勤めていた司書を合わせても55人。


55人と聞いて多いようにも聞こえるが、王都にある『中央図書館』『東図書館』『西図書館』『南図書館』『北図書館』の計5図書館を合わせての合計人数である。

つまり5で割ると、1年目時点では各図書館に11名ずつしか派遣されていない計算になる。


その5つの図書館の中でも特に利用者が多いのが『中央図書館』とされていた。

リニューアルされて設備や建物が使いやすいとの好評と、王都の中心部で人が集まりやすいという条件も重なった結果だった。


人員の強化が現場からも貴族側からも強く求められ、採用枠を拡大する決定となった。


リニューアルから2年目は採用枠を拡大したことにより、新たに25名の司書が採用された。

王都にある『中央図書館』『東図書館』『西図書館』『南図書館』『北図書館』の計5図書館にそれぞれ新たに5名ずつ採用され、各図書館の司書数は16名。


そして今年度、新たに15名の司書が採用され各図書館へ。

これで各図書館の司書数は3名追加の18名となったのだった。


◇◇◇◇◇


図書館では、

1、図書館の平穏を守るために司書は文武両道を

2、図書館は民の学びの場としての場所を提供する

3、図書館は利用者の個人情報を保護する

の3点を掲げ、就業規則に明記されていた。


◇◇◇◇◇


王都にある5大図書館は、一日の合計利用者数が1000人をゆうに超える。ゆえに図書館は戦場と化していた。


「この著者の別シリーズ本って貸出中なの?」

「ただいま検索を……あれっ、2番書庫から移動してない……おそらく読書スペースでどなたかがお読みになっているかと!」


「薬草を使った家庭料理の本はどの棚にありますの?」

「料理本は3番書庫の右奥になります!3番書庫に担当者がいますので、そちらまでお越しください」


「……鉱石に関する本って置いてる?」

「はい!ございます。5番書庫にありますね。貸出中のものはございませんので、全て揃っています」


1階の中央カウンターには本の検索窓口が3つと、本の貸出し・返却窓口が6つあるが長蛇の列が途絶えることが無い。

誰もかも忙しく動き回る中、中央カウンターの貸出中・返却窓口の6番だけが[他の窓口をご利用ください]と札が置かれ、無人になっている。

その6番窓口担当はキュティ・ガーナーという女である。


キュティ・ガーナーはリニューアルから2年目の採用枠拡大時に採用された司書である。

何でも貴族位の出で、国家試験を裏口合格したとまで噂されていた。そんな噂が流れるには信憑性を高める事実があったからだ。

キュティは大の男好きである。若い男性司書や利用者を見つけるなり、話しかけて連絡先を交換しまくり何人もの男をキープしているんだそうだ。何せ大きな瞳にツインテール、整った容姿に加えて見た目だけは良いので群がる男どもが絶えない。

キュティ目当てで図書館へ通っている利用者も一定数いるほどだ。


そんな現場を乱す要因たるキュティ・ガーナーはまるで仕事をしない。窓口担当なのにその窓口は常に無人で、6番窓口付近は閑散としていていた。

その張本人はどこにいるかというと、今日も歓談スペースで利用者の男性たちと楽しくお喋り中だ。

利用者と交流を深めていると言えば聞こえは良いが、実際はだだのサボりである。故にそれを遠巻きに見ている女性司書たちからは、冷たい目が向けられていた。


そして痺れを切らした先輩司書が、注意したことがある。

その時は、


「え〜〜先輩がモテないからって、アタシに嫉妬しないでくださいよぉ〜〜」


ブチッ


その次に名乗りをあげた先輩も、


「あっ、さっき先輩の旦那さん?アタシと楽しそうにお喋りしてたから面白くないんでしょw」


ブチッッ


そのまた次の先輩も、


「怒ると眉間に皺よって不細工に見えちゃいますよ〜〜?キュティみたいに可愛くない先輩でも、余計老け顔になっちゃうからやめた方がいいんじゃないですか〜〜?おブ………クスッって可哀想w」


ブチイイイイイイイイイイ


女性先輩司書たちの怒りは館長の耳にまで届き、キュティ・ガーナーは禁書庫へと異動となったのだった。


そうして左遷され、禁書庫へ異動してきたキュティは、絶望した。


何せ〝禁書庫〟と呼ばれるくらいなので一般利用者はおらず、閑散としているうえ、禁書庫は地下にある書庫である。

じめっとしていて空気の流れも悪いし、ホコリだらけだしカビ臭い。


キュティは一ヶ月後に限界を超え、館長室へ直訴しに行く事となる。


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