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序章① 二度あることは三度ある


「リラ・ペンシルくん。君、次やらかしたらクビって言ったよね?」


「おっふ……」


ヴィンテージチェアに深く座り眉間に皺を寄せて唸っておられるのが、我らが中央図書館の最高責任者であるマック・レガー館長である。

その館長の前で床に正座し、縮こまっているのが勤続年数半年(?)の新人司書の私ことリラ・ペンシルだ。


「今回もどうかお見逃し願えないでしょうか……リラ・ペンシル、一生に一度のお願いですっっ!!」


「君の一生のお願いはこれで三度目だよ?前回伝えたよね、三度目は無いよってさ」


「うぐっっ……」


確かに私は前回やらかした時に、三度目は無いと館長から直々に忠告を受けていた。

それを破ってしまったのは私。周りの同期達にも再三注意され、それでもある種の誘惑に負け同じ轍を踏んでしまったのも私。

つまり何が言いたいかというと、一から十まで全て悪いのは私なのだ。


「申し開きもございません……」


「リラ・ペンシルくん……高等魔法学院を主席で卒業し、神童とも言われていた君には期待していたんだよ?……どうにか出来なかったのかい?その異常なまでの〝本好き〟は」


そう、私が今現在直面しているクビ切り案件の発端は、この〝読書愛〟にあった。


私は本が好きだ。


本を読んでいると物語の世界を追体験できるうえに、その物語の主人公にだってヒロインにだって何にだってなれる。一度の人生では体験しきれない体験を、何度だって体験できる。物語に深く沈んでいくあの感覚がたまらなく好きなのだ。

それに一見同じジャンルの植物図鑑であっても、著者によって解釈が正反対であったり挿絵のイラストも個性が出る。草花の生息地や特性の解釈が違ってくるならば、著者の立場になったつもりで思考の迷路に立つ瞬間が楽しい。挿絵の構図や色遣いを見比べて、本物の手触りや香りを想像する時間も楽しい。


本の表紙の厚み、一頁一頁めくる紙の手触り。文字のインクの匂い。読み終わった時の多幸感。

一冊一冊が私にとっては最高の出会いで、友達のようなもの。


昔の偉人の言葉に『本は私にとって大事な友である』という言葉があるのだ。

その言葉を初めて耳にした時、私は激しく同意した。


いま風に言うなれば、「めっちゃわかるぅぅぅ!」いいねいいねが止まらない状態。


そんな無類の本好きである私は、魔導研究所や王都騎士団などの数多のスカウトを断りまくり、一般就職でこの王都クロッカスにある中央図書館に就職した。

当然、最初は期待の新人だともてはやされ、天狗になっていた私。


だが長年にわたる学業からの解放感に負け、業務そっちのけで本を読みまくっていた結果……人生初の危機を迎えている。

そう、クビ切りチョンぱである。


この本に埋もれた環境をみすみす手放すなんて、考えられない。

だから私は、一切の恥を棄てることにした。


「館長ぉぉぉ……!!!どうかご慈悲をぉぉぉ……!!!この哀れなリラ・ペンシルに今一度やり直しの機会ををを……!!!」


土下座である。

遥か極東の地に伝わると言われる、謝罪の最終奥義とも呼ばれる技なのだ。

土下座を目にした者はその平伏振りから、相手を許してしまいたくなるという精神干渉系の魔法とも言われている。

おでこを床までつけ、誠心誠意謝罪の気持ちを込めるのがポイント⭐︎


だが実際、土下座にそんな魔法的効果は全く無い。

そんなことも梅雨知らず、勢い余り床に強くおでこを叩きつけたせいでゴンッゴンッ、という鈍い音が響く。

えぇぇぇい。こうなれば、うんって頷いてくれるまで土下座しちゃうもんね⭐︎


今の私は極限状態。

藁にも縋る思いでこの土下座に賭けるのだ。


「どうかご慈悲をぉぉぉ……!!!」


ゴンッッッ


ゴンッッッ


ゴンッッッ


「う〜〜〜む……そうは言ってもねぇ……」


この見事な土下座を見ても心が動かない……だと!?(正確には目を閉じ唸っているだけなので、館長にリラの土下座は見えていない)

どうやらこれだけ尽くしても、まだ謝罪の気持ちが館長に伝わっていないようだ。

こうなれば一家秘伝の奥の手(開発者:リラ・ペンシル)……スライディング土下座をお見舞いするしか!

と再び顔をバッと上げたタイミングで、館長室の扉がバンッッッッと勢いよく開かれた。


「館長ぉぉぉ!!!アタシ、禁書庫の担当なんてもう無理ぃぃぃ!!!担当外してぇぇぇ!!!」


目頭に涙をいっぱいに浮かべ、随分と泣き腫らしたのか、涙やら鼻水やらでグチャグチャになった顔で入室してきたのは白い制服に身を包んだ女性司書。

そのまま私を通り越し、館長の前に立つ。


「う〜〜〜む……ん?って、キュティくんじゃないか。君、先月から禁書庫担当だろ?」


「だーーかーーらーー!!アタシ、あんな暗くてジメジメしてカビ臭い場所なんてもう無理なんですぅぅぅ!!!もう限界!!!」


キュティと呼ばれたその司書は、館長の前で膝から崩れ落ちた。


「って言ってもね。禁書庫は万年人手不足で、これ以上人数削減出来ないんだよね。むしろ増やしたいくらいなのに……もうちょっと頑張ってみない?」


館長がヘラっと笑うと、


「ヤダヤダヤダヤダーーーー」


館長室の外にも聞こえうる声量で駄々をこね始めた。

しかも言葉も行動も幼児化していて、恥じらいも棄て去りみっともなく床で地団駄を踏んで暴れてまくっている。近くに積んであった書類が崩れ、散乱した。それでもお構いなしに自分の要求を通そうと必死にもがいている。

……え。もしかして私の土下座も、第三者の目から見たらあんなふうに見えるのか???


そして何だ何だと、他の司書達も館長室を覗き始めた。

キュティ司書の入室時に館長室の扉は開け放たれており、声は外に筒抜けオープンだった。

どんどん野次馬が増え、騒ぎが大きくなってくる。


って、私の謝罪はどうなるんだ!?


状況が複雑になってきているこの現状。

騒動に掻き消され、なあなあでクビが無かった事になればラッキー。が、不穏分子を一掃するとか暴君な事を言い出し、最悪図書館すら出禁になってしまえば生きていけなくなる。

どうしたものかと視線を彷徨わせていると、館長とばっちり目線が合ってしまった。


「………あ」


館長が私を指差した。


「………え?」


そこからは話が上手いことトントン拍子に進んだ。

私こと、リラ・ペンシルはクビの皮一枚繋がり、今日付で禁書庫担当になったのだった。



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