第9話:かっか。ヴァネッサふじん。ぜったいにこのひとをてばなしちゃだめ。
ちょっと長くなってしもうた
◇
ヴァネッサ夫人に抱えられながらメイド3人と一緒に移動すると昨日と同じ道のりであることに気づいた。案の定大きな扉が見えてきて、中に入ると手前にテーブルとイスが設置されており、ティアさんとヴァネッサ夫人を除いた公爵家ファミリーと執事のホーキンスさんがお茶を飲んで待っていた。
「おはよう!よく眠れたかかしら?」
「ちゃんとねれた。ごはんも、ぐがふえてた」
「吐いたりしてないから増やしても大丈夫とダグナー先生が言っておったからな。物足りなそうにしていたし吐いたり調子が悪くならない限りはドンドン増やしていくぞ!」
「ありがとうございます」
「気にするな。お前さんは俺達の子供になるんだからな。存分に甘えるが良い。それで呼び出した理由だが俺達家族の適性を改めて見てほしくな?頼んでも良いだろうか?」
「あってるかわからないけど、それでもいいなら」
「もちろん。我々もティアみたいになるかは不明だが適性を見てもらった者の実感を得たいんだ。それをもって今後の方針にしていきたい」
「恐れながら公爵様。早速ご報告がございます」
「どうしたクレア?」
「坊っちゃん。先程のことをお伝えしてもよろしいですか?」
「うん」
「先程、朝食前に私とノーマの適性を見てもらいました」
「おぉ!早速見てもらったのか!それでどうだったんだ?」
「見事当たっておりました。ノーマに至ってはスキル持ちであることも当てられました」
「ほぅ?」「「へぇ?」」「「「えぇっ!?」」」
「坊っちゃん曰く、初めて書いてある言葉を見て恐らく推察によるものかと…」
「ちなみになんて書いてあったんだ?」
「ぶきてきせい、すべてのぶきC、しょきちも、げんかいちも、Cってかいてあった」
「「「!?」」」
「限界値だと?どれくらい上手くなるかも分かるのか!?」
「うん。でもげんかいちはいわないようにしてた。ノーマはとくしゅだからいったけど」
「その方が良いでしょうね。限界だと分かったら努力を止めたりしてしまいそうだし、どこかもう上手くならないっていう事実が心に浮かんでしまいそうだもの」
「しかし、知れる手段があると思うと知りたくなりますね」
「分かるよクリス。私は槍捌きに自信があるけどどれほどのものか、どこまで伸びるか分かるって思うと知りたいもの!」
「あと、Cのなかではうえとか、Cのなかではした、とかはあるかも?よそうだけど」
「どういうことだ?」
「えっと。おなじかきかたでも、くらべたらさがあるかもしれないでしょ?だから、たとえばだけど、Cの1から9まであってCの10になったらBになる。みたいな?それでこまかくわけてないのかも」
「なるほど。確かにそれはありそうだな」
「クリス、説明よろしく!」
「…例えばだけど、剣聖と弓聖がいて称号としては2人とも同じ『聖』が付いてるけど、全く同じ強さじゃないだろう?そういう誤差をCの1からCの9で表記されてないけどあるかもしれないという予想の話だよ姉さん」
「なるほど!確かに戦う場所や距離で全然変わることがあるものね!」
「それと、せいちょうのよちが、あるってことは、けがやびょうき、ろうかやたんれんをなまけたりしたばあい、とかでもさがるかもしれないね」
「実はまだありまして…」
「次は何だ?」
「身体の適性も見れるみたいです…」
「……具体的には?」
「手と足のそれぞれのパワーとスピード。それとおすすめの戦闘スタイルやそれに必要な道具の提案もしておられました」
「「「「「…」」」」」
「戦い方の、適性まで分かるの、か…」
「ノーマだけかもよ?はじめてみたし」
「じゃあ早速他の者も見てもらおうか。まずは「はいはい!私からやりたい!!」…らしいからレベッカから頼めるか?」
「うん」
長身男性であるアレクとクリスと同じくらい大きいレベッカさん。スキップをしながらこちらに近づいてきてヴァネッサ夫人の腕に抱かれている俺と目線を合わせるためにかがんでくれた。母親譲りの可愛い雰囲気と人懐っこさで怖さを感じない。人間が好きな大型犬みたいな印象を受ける。パッチリと大きくエネルギーのある瞳でこちらをジッと見てきて少し照れながらも見つめ返していると文字が出てきた。
武器適性:槍B(限界値B)・剣B(限界値B)弓F(限界値D)・戟*(限界値A)
「やりとけんがとくい?」
「っ!そうっ!凄いっ!本当に当たってる!!」
「ゆみにがて?」
「うん!苦手!」
「自信満々に答えないの…」
「やりとけんどっちつかうの?」
「両方持ったまま戦ってるよ!その時にやりやすい方で戦う感じ!たまに邪魔で後ろにいる部下に投げて預けてるけどね!」
「げきってある?」
「ゲキ?歌劇とかの劇団?」
「ううん、ちがう。やりにそったちいさなけん?みたいなのがついてるやつ」
「……初めて聞く名前の武器ね?」
「ホーキンス。書く物を持ってきてくれ」
「このようなことがあると思いまして既にこちらに」
「流石だなホーキンス。いつも助かる」
「いえいえ。当然のことでございます。坊ちゃま。こちらをどうぞ」
「ありがとう。ホーキンスさん。…よびすてのほうがいい?」
「はい。坊ちゃまは公爵家の人間になりますのでその方がよろしいかと」
「わかった。ホーキンス、ありがとう」
「はい」
「それでそれで?どういう感じの武器なの!?」
「え~っと」と頑張って思い出しながら穂先の部分だけを書いた。…あんまり上手くないな。線がブレブレだ。
「うまくかけなかったけど、こんなかんじ。やりのさきっぽのところのちょっとしたにはがついてる」
「少し癖がありそうね?」
「やりのしとつだけじゃなくて、きることもできる」
「!?なるほど!それは慣れたら強いわね!」
「バネッサの身体の大きさに槍のリーチで充分反則なのにそこに剣みたいに斬られる可能性があるのか」
「槍なら刺されなければ致命傷にはなりにくいですからね。柄の部分で殴って昏倒とかはありますが」
「父上!これ試しに作ってもらっていいですか!?」
「その前に。バネッサのこの、ゲキ?の適性はどうなんだ?」
「まだ無いけど、限界値は今のよりも高いよ」
「えっ!?私これにする!!」
「そんなドレスを決める時みたいな気軽さで大事な武器を決めるな」
「だって今よりも上を目指せるならそりゃこっちを選ぶでしょ!ということで作ってもらいに行ってくる!これ借りてもいい?」
「いいけど、まだげきのせいさくぎじゅつがないだろうから、ぜったいにけんとかもよびでもっていってね?とちゅうでこわれたら、たいへん」
「…っ!心配ありがとね♪約束するわ。ちゃんと予備の武器も持ち歩くって。それじゃあ親方のところに行ってきまーす!」
あの大きさで足も速い。バネッサさんはあっという間に訓練場からいなくなった。
「全く騒がしいやつだ。誰に似たんだか…」
「あなたでしょ?面白そうな物があったらすぐに買って試すところとかそっくりよ?」
「……よし、次はクリス。お前もやってもらうか?」
「あ、はい」
…閣下逃げたな。とジト目をしていると顔を逸らされた。クリスさんは静かにこちらに近づいて来て、眼鏡を外して前髪を手で抑えて目を見やすくしてくれた。顔はクール系で冷たそうな印象があるけど姉であるバネッサさんとの絡みを見ていると優しい人なんだなと思っている。見つめ返すと文字が浮かんできた。
武器適性:剣D(限界値D)・弓D(限界値D)・槍D(限界値D)・棍棒D(限界値B)
「けんもゆみもやりもこんぼうもおなじくらいであんまりとくいじゃない?」
「!?凄いですね。当たりです。あまり得意じゃないんですよ」
「ほう。クリスも当たるか」
「でもこんぼうはまだのびるよ」
「え?そ、そうなのかい?ってきり棍棒も同じくらいだろうからって諦めてたよ」
「良かったわね。クリス。自分だけそういう面で役に立てないと悩んでいたものね」
「言わないでくださいよ母上…。でも、道があると分かったので頑張れそうです。………、ちょっと試したいので自分も失礼しても良いですか?」
「あぁ。存分に試してこい」
クリスさんは訓練場の反対側に行き、扉の中に入って少しすると様々な長さの棍棒を持ちだして順番に同じ動きをして確認していた。その間に長男であるアレクさんのことを見始めていた。彼はガッチリムキムキの人当たりの良い印象だ。閣下やバネッサさんとは違うがいつも笑みを絶やさない。ジムとかにいるマッチョみたいなイメージ。そんな感想を抱きながら現れた文字に視線を向ける。
武器適性:剣B(限界値B)大剣B(限界値A)大槌C(限界値B)
「ふつうのけんとおおきなけんがとくいでおおつちもあるていどつかえる?」
「おぉ、正解だ。本当に当てるなんて凄いじゃないか。俺は公爵家の騎士団団長でもあるからな。盗賊討伐だけじゃなく魔物討伐もしているから大槌が有効な時もあるんだ」
「かっこいいよろいきてたもんね」
「ははっ。褒めてくれてありがとう。それで俺にも何か伸びる武器はあるかな?」
「うん。おおきいけんがいちばんのびそう。おおつちもすこしのびるって」
「!そうか。実は1番性に合うのは大きい剣と思っていたんだ。父上。自分も失礼します」
「あぁ。行ってこい」
アレクさんは早歩きでクリスさんと同じ様に奥から武器を持ちだして素振りや型稽古の様な動きをした。次は閣下かと思ったが最後で良いらしく、先に執事長のホーキンスさんを見てくれと言われた。既に髪が白髪に染まっている年齢なのに侯爵家の子供達に負けないくらい背が高く、背筋も背中に棒が入っているんじゃないかと思うくらい真っすぐで姿勢が良い。しかも濃いめでダンディな顔立ちでかっこいい。男ならこういう風になりたいと思ったことはあるんじゃないかな?近づいて目の前に跪いたホーキンスに尊敬の視線を送っていたら文字が現れた。
執事適性:予定管理B(限界値B)・物品管理B(限界値B)・人管理B(限界値B)・食品管理B(限界値B)・金銭管理B(限界値B)・領地管理B(限界値B)・屋敷管理B(限界値B)・書類管理B(限界値B)・礼儀作法B(限界値B)・指導B(限界値B)※これ以上は表示しきれません
「…すごい」
「おや?私にも何か素晴らしい素質でもございましたか?」
「ほんとうにすごい。かっか。ヴァネッサふじん。ぜったいにこのひとをてばなしちゃだめ。なにがなんでもひきとめないとだめ」
「そ、そんなに強いのか?」
「何が見えたの?」
「ホーキンスさん。そんけいします。ノーマのようにそういうスキルがあるわけじゃないのにここまでいろいろとできてげんかいちまでのばしているだなんて」
「あなたが興奮しているのは分かったから何が凄いのか私達にも教えてくれないかしら?」
「ティアさん!こうふんなんてものじゃっ、ゴッホ!ゲッホ!」
「ほらほら。一度落ち着きましょう?アンナ」
「はい。坊ちゃま?こちらをどうぞ」
手渡された小さめのティーカップを受け取り、ヴァネッサ夫人に手を添えられながらゆっくりと一口お茶を飲んでふぅと一呼吸。「ありがとう。おちついた」と伝えるとホーキンスさんは首を傾げながら話始める。
「それにしても私はそこまで武器に精通しておりません。得意なのは小さなナイフくらいですよ?」
「みえたのはぶきてきせいじゃなかった」
「は?」「「え?」」
「しつじてきせい」
「シツジ適性?…もしかしてホーキンスの仕事の執事の意味でか?」
「うん。そのしつじ。こうしゃくけがあんていしているならぜったいにホーキンスががんばってる。こうしゃくけがふあんていならかっかがむちゃくちゃしすぎてる。そのくらいかわりがきかない」
「…少々失礼します」
ホーキンスさんは後ろを向いてポケットからハンカチを取り出して目元を拭いているようだたった。振り返った彼の顔は少し照れているようだった。
「大変失礼致しました。不覚ながら少々涙腺にきてしまい…。こうして幼い坊ちゃんに真っすぐと自分の仕事を褒めてもらえるとは思いませんでした。素敵な贈り物、ありがとうございました」
「ううん。それだけあなたはすごいひと。かっか。おせわがかりにホーキンスもつけてほしいな」
「え?」
「旦那様。お暇させてさせていただこうかと。これからはこのお方と共にと」
「待て待て!そんな話聞いたうえでお前を手放すはずがないだろう!?いや、ホーキンスが我が家に多大な貢献をしているのは理解していたが過小評価だったようだ。すまない。後で出来る限りの褒賞を与える。これからも是非私達を手伝ってくれ」
「そうねホーキンス。もしかしたら私達は思っていたよりもあなたに報いてなかったかもしれないわ。もちろん、アンナやクレア、ノーマもね。だからこれからも我が家に力を貸してちょうだい」
「少々戯れが過ぎました。大変失礼致しました。ですが褒賞の件はもう十分頂いております。この素晴らしい公爵家で働かせていただいているのですから。こちらこそ是非これからもよろしくお願い致します」
そこからお互いに褒め合い始めたのを見てティアさんが俺をヴァネッサ夫人から抱き上げて訓練しているアレクさんとクリスさんの元へ行き、先程のやり取りを伝えると2人もその輪に入り、声をかけていた。
「いいいえだねぇ~」
「ふふっ♪そうね♪少しの間、ここで待ってましょう?」
ティアさんと2人で静かに彼らが嬉しそうに談笑しているのを離れた場所で見ていることにした。
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