第18話:レベッカさん、まちのみんなにしたわれてるから、いなくなったらたいへん
会話シーンを書き込んでいるのは好きなんですがそうするとシーンの進みが遅くなる悩み。でも書きたいのを書くのだ。
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すき焼きを作った日を境にレベッカさんのお屋敷では灰汁を取る様になり、わざと苦味のある食材を使ったり、そういう味付けでもない限りもう食卓に苦い物は乗らなくなった。
1つ増えた習慣がある。会う度に、というか料理長から新しく試した料理があると味見をして欲しいと声をかけられ、その時に思い出したことを伝えるとドンドン見慣れた料理が増えていった。勿論、この世界の料理自体も美味しくなった。
それとタレの実だが今までとても料理に使えたものじゃねぇと言われていた海側に実るお酢っぽいものや味噌っぽいものも使われるようになり料理長のレパートリーが増えただけでなくタレの実農家の収入にも変化が現れた。
そして新たな技術を学んだ料理長の賄いを食べた侍従達がどうしてこんなに美味しくなったかを聞き、家で灰汁を取ったり、煮込む順番や食材の切り方を言われた通りにしたら劇的に美味しくなったのだ。
そこから更に美味しくなった匂いが隣の家やその家の通り道等にいったり、奥様方の井戸端会議で情報を仕入れた別のご家庭で部分的に広がる。といった様に1カ月も経てば町にある屋台や食事処にも浸透した。
新たな調理方の食事を食べた旅人や商人が他の町や村で元の食事を食べると愚痴る様に「あの港町で美味しい食事を食べたせいで一般的に出される食事を食べるのが苦痛に感じるようになった」と言うのだ。
それを聞いて「ウチの国はどこも大差ないだろう」と笑う地元の人達に「いやいや。あの町の食事はレベルが違う」だの「名前をあげることは出来ないが、とある高位貴族の屋敷で食べた物よりも段違いに美味かった」とか「隣の国の美食の街に行ったことがあるがそこにも引けを取らなかった」と言う者もいたようだ。
その結果、気になった人達が続々と食べに来るようになり、領主である公爵家のご令嬢は公正で悪い人間はしっかり捕まえ、裁いてくれるので治安も良い。という噂も相まって歯止めが利かなくなるくらい人が増えてきた。
流石に手に負えなくなったのでレベッカさんは実家に手紙を出して人を派遣してもらった。のだがそこに現れたのはレベッカさんを除いた公爵家ファミリーだった。2ヶ月ぶりに会う公爵家のみんなを見てティアさんが放った一言だが…。
「あら?あなた達、こんなところで何してるのよ?」
だった。最初は申し訳なさの方が強く感じていたので抑えていた公爵家ファミリーだが、ティアさんから出るのは美味しい食事を沢山食べた自慢話ばかり。これには今度は閣下が怒りそうになっていたが、先にヴァネッサ夫人がブチギレた。
「ティア?正座」
「え?なんでよヴァネッサ?」
「せ・い・ざ!!」
「え?えっ?なんで…」
「さすがにティアさんがわるいとおもうから、すなおにおこられたほうがいいとおもうよ?」
「えっ!?なんで!?リヒトはヴァネッサが怒ってる理由が分かるの!?」
「うん」
「リヒトちゃん。2ヶ月で少し、肉付きが良くなったわね?…良かったわ本当に。色々伝えたいことがあるから後でお話しましょう?」
「うん。レベッカさんとまってるね」
「あっ、リ、リヒトー!!置いていかないでー!!ヴァネッサは怒ると怖いのよー!!!」
「…へぇ?そういう風に思っていたのねぇ?」
「あっ…ちがっ…、そんな規模の魔法人に向けちゃ…。ぎゃーーーー!!!!」
レベッカさんにだっこされたまま、公爵家の男性陣を連れて先に屋敷の中に入った。なんか地揺れや爆発音、風が窓を叩く音とティアさんの叫び声とヴァネッサ夫人の怒る声が聞こえたがあれはしょうがないと思う。急に出ていき、2ヶ月も手紙すら出していないって今ヴァネッサ夫人が怒ってるもん。謝罪するつもりできたら当の相手は新しいご飯が美味しくて完全に忘れてたらそりゃキレるでしょ。
「急に出て行ってしまいっ、うぐっ、申し訳ございませんっ、でしたっ!」
ボロボロのドロドロになったティアさんが部屋に入ってくるなり泣きながら公爵家ファミリーに頭を下げていた。
それを見た彼らは言いたいことがあったがここまでボロボロになっていたら言いにくい、みたいな顔をしながら苦笑いしていた。
「はぁ…。お前さんはそういうやつだもんなぁ…。ティアの件に関してだけはこれで相殺、ということで手を打とう」
「あ”り”が”と”う”、ご”じ”ゃ”い”ま”す”」
「さっさと身嗜みを整えていらっしゃい」
「はいっ!行ってきますっ!!」
最早ヴァネッサ夫人の言いなり状態のティアさんが駆け足で部屋を飛び出して行った。
その間にレベッカさんの屋敷に来た組と置いていかれた公爵家ファミリーに別れてテーブルを挟んで座ると閣下が話し始めた。
2ヶ月前、保護したばかりでまだ自分で動けないくらい健康的に危うい俺に対して申し訳なかったと閣下は立ち上がって姿勢を正し、腰から真っすぐに上半身を傾け頭を深く下げた。閣下に続いてヴァネッサ夫人、アレクさん、クリスさんも立ち上がり頭を下げつつそれぞれの言葉で謝罪してくれた。
レベッカさんに書くようにお願いしたけど本当に気にしていない。むしろティアさんが連れてきたどこの誰かも分からない俺を助けて、世話してくれてありがとう。と返すとみんな顔を上げてホッとした表情を見せた。
曰く、手紙では確かに書かれていたが本人に目の前でちゃんと伝えてもらえて心のつっかえが取れたとのこと。重ねて俺は適性を見る力でよくしてくれたみんなに恩返しが出来るなら無理のない範囲で頑張るつもりだったと伝えると口々に「ありがとう」と微笑みながら言ってくれて、閣下達は顔を引き締めてレベッカさんに向き直った。
俺の時よりは短く軽い言葉だが、謝る姿勢は俺と同じくらい丁寧でしっかりしたものだった。それに対してレベッカさんは「許してはいるがまだモヤモヤする部分はある」と言いつつも、自分も同じように引継ぎもせずに飛び出してしまったのでごめんなさいと謝った。
それを家族は受け入れたところで部屋の扉が開き、いつもの服装だが身嗜みを整えてたティアさんが現れた。
「それで?話は終わったのかしら?」
「…お前がそれを言うか?」
「だって私はもうヴァネッサに怒られたし謝罪はしたもの。それよりもガルヴェイン、ヴァネッサ、アレクにクリス!今日の夕食は楽しみにしておきなさい!」
「それについての噂は聞いている。なんでも凝縮された味の塊と思われていた灰汁が苦みの正体だったと」
「本邸の料理長を説得して同じ様にしてもらったのだけれど、かなり苦みが無くなってクリスも食べやすそうにしてるくらいよ?」
「正直、かなり助かってるよ。おかげで以前よりも食事を摂るのが楽しくて食べ過ぎない様に気をつけているところさ」
「その分動いているからか最近身体がガッシリしてきたもんなクリス」
「兄さんには勝てないけどね。領主補佐の仕事をしながらよくそれだけの身体を維持出来てると思ってます」
「確かにあなた達、身体の肉付きが良くなっているわね。ほら、ヴァネッサも…、っ!?」
「………なに、…………かしら?」
「いえっ!なんでもありませんっ!!!」
「かっか。ティアさんってまえからこうなの?」
「…あぁ。20年も経っているが変わっていない」
「まっすぐなんだね」
「良くも悪くもな?それでレベッカ。この港町の変化はリヒトのおかげか?」
「はい。間違いなく」
「そうか。…リヒト、改めて感謝する。おかげで今、我が公爵領へと訪れる人がかなり増えている」
「ぼくはおいしいごはんがたべたかっただけ。ほめるならりょーりちょーをほめてあげて」
「あぁ。勿論料理長もだがお前さんもだ。よくやってくれた。公爵家として何か礼をしたい。何かないか?」
「それならこのまちしゅうへんのかいどうせいびしてほしいな」
「おいおい。それは褒美にならんだろう?」
「リヒトちゃん、遠慮しなくていいのよ?それくらいあなたは私達にとって有難いことをしてくれたの」
「ううん。ちゃんとわがままだよ?だってかいどうせいびってかなりおかねがかかるでしょ?それにかいどうがよくなればいろんなしょくざいがこのまちにとどくし、そうしたらまたあたらしいおいしいものがたべれるもん」
「まだ増やそうとしているのか」
「うん。よのなかにはたくさんのりょうりとしょくざいがあるからね」
「…なるほど、分かった。それならばその我儘を叶えてみせよう。そうすれば俺達の屋敷でも美味しい物がもっと食べられるからな!それとレベッカ、済まないが…」
「分かってる。兄さんにここの統治を任せるんでしょ?それは良いけど私はここを離れないのを条件ね?町のみんなとのやりとりは私に任せて」
「レベッカさん、まちのみんなにしたわれてるから、いなくなったらたいへん」
「なるほど。それなら正式にレベッカにはこの町の外交官を任せる。統治はアレクで補佐にクリス。これから新しく賑わうこの町をお前達兄弟、協力し合って発展させてみろ。それをもってアレク。お前を公爵家当主への最後の課題とする」
「っ!はいっ!!期待に応えてみせますっ!!」
「あぁ。頼んだぞ」
「ガルヴェイン。そんなこと言って大変な街作りを押し付けて自分は老後にここで美味しい物を食べるつもりなんでしょう?」
「「「「「………」」」」」
「そういうところだよティアさん」
「え!?どういうことリヒト!?」
「…はぁ。まぁよい。だが領主としての課題に丁度いいのも事実だ。上手く息を抜きながら頑張れ」
「はい。兄弟4人の力を合わせて頑張ります。レベッカ、クリス。そしてリヒト。私に力を貸してくれ」
「もちろん!」「喜んで」
「ぼくも?」
「あぁ。父は兄弟で協力してと言ったからな。そうだろう?親父殿?」
「後で改めて話をするつもりだったのだが。…前に俺達の養子にしたいと話しただろう?改めて、ウチの子供にならないか?」
「それはとてもうれしいけど、ほんとうにいいの?さいしょにはなしたときのこともあるでしょ?」
「えぇ。あなたが屋敷を出た後に何度も話したのよ?」
「というわけで新たな弟、リヒト。改めて、力を貸してくれるか?」
「ぼくにできることならよろこんで♪」
こうして俺は公爵家の養子として迎え入れられ、この人達と家族となったのだった。
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