第19話:女の子達はね?身を削って適切なタイミングで白粉を使っているの。
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帝国南部を任されている閣下達は重要拠点の1つである、主に海の向こうの砂漠の国との交易にかなり力を入れている。そのため帝都からは遠く、貿易をメインにしている港街に近い場所に公爵家本邸があるらしい。
本邸からこちらの港町には馬車で3日かかるので近いと言えば近いが遠いと言えば遠い地らしい。何故その話をしているかと言うと、俺が公爵家の一員になってから1週間経ち、先程そろそろ帰宅する頃合いかと話している時にヴァネッサ夫人が「私もここの町に残るわよ?リヒトちゃんが心配ですもの♪」と言い放ったからだ。
そう。つまり閣下だけが本邸に戻ることになったのだ。「ヴァネッサ、う、嘘だよな?」「お前まで残ったら本邸で俺だけではないか!」「愛する子供達だけでなく妻とも離れ離れに暮らせと!?」等、色々言ってはいたのだが効果が無く本当に1人で寂しく背中を丸めて帰って行った。馬車に乗り込むまでずっと俺に鋭い視線を送っては夫人に怒られていた。
ちなみにヴァネッサ夫人の言い分は俺の世話とのことだが俺は恐らく違うと思っている。
というのも、数日前に皆で雑談をしていた時に美容の話題になった。他の男性陣はその話題になってすぐに「ちょっと身体を動かしたくなってきたので素振りしてきます」「兄上、自分もお供します」「持ってきた仕事があるのを忘れていた。すまないが席を外す」となんだか本当なのかどうか疑わしい理由で退出していった。
男性陣が出ていった後、ヴァネッサ夫人は呆れながら俺を見て「いつものことよ」と言い、レベッカさんは「どう反応すれば良いか分からないらしい」とのことだ。ちなみにティアさんは「美容や化粧について話している女の子達は好きよ?とっても楽しそうだから♪私はしないけど」と出された茶菓子を肘を付きながら食べていた。
あの商会の化粧品が良いとか、色が良いとか、香料が長く残る等の実体験や、昔行ったとある地域ではあの食品は肌に良いらしいから試したとか、この運動は身体に良いらしいとか、本邸の肌が綺麗なメイドの習慣はこういうのが普通の人と違うとか噂話もあった。
確かにティアさんの言う通り、こういう話題を話している女性達はとても楽しそうで輝いており見ていて気分が良い。しかし俺はとある話題について語っていたヴァネッサ夫人につい言葉を挟んでしまったのだ。
「それでね?派閥の娘さん達が肌を白く見せたくて白粉を使っているみたいだけれど、悪い物を使って肌が荒れたり酷いものは使い続けると体調が崩れちゃうらしいのよ。酷い子は人相が変わるくらい見た目が変わってしまったって話」
「主に王国から流れてくる物のことですよね?確かに白さは目立ちますが健康面での安全性がありません。学生の頃、使わない様に周知しても気になる殿方に目を向けてもらうために使ってしまう子が後を絶ちませんでした」
「若いというだけでも魅力的なのに未来を潰してまで白粉を使わないでくれると良いのだけれど…」
「そうはいきませんよ母上。儀式でも使いますし白粉を使うと体調に悪影響があるのは当たり前じゃないですか」
「え?そうなの?」
「そうよリヒトちゃん。女の子達はね?身を削って適切なタイミングで白粉を使っているの。その時の自分の姿が素敵で特に異性に褒められると嬉しくて続けて使ってしまい、最終的にはボロボロになる可能性があると分かっててもね」
「1人、仲の良かった同級生で使い続けてしまった子がいるのですが、正直現在の姿は見るのが辛いレベルなんだ…」
「…んー?それってさー…、うーん?」
「どうしたのリヒト?」
「えっとね?うまくおもいだせないんだけどね?ちゃんとダメなヤツはダメなりゆうがあって、いいやつはいいりゆうがあったきがするんだよね」
「「「「「「「え?」」」」」」」
「リ、リヒトちゃん?もう少し思い出せないかしら?」
「リヒト坊っちゃん!頑張ってください!」
「クレア、静かに」
「うーん…………あっ」
「思い出せたかしら?」
「ちょくせつみたほうがわかるかも?」
「…あー!なるほどね!確かにリヒトならではの方法だわ!」
「…以前そういうことをさせようとした身で言うのもアレなんだけど、ティア、それは良いのかしら?」
「うん?…あー、良いんじゃないかしら?本人から言ったことだし?それに健康的被害が出てるって知った以上リヒトは放っておけないんじゃない?」
「うん、それに、ちしきを、うまく、ひきだせなくて、なんか、モヤモヤするぅ」
「レベッカ?何人かに協力してもらえるかしら?」
「はい。嫌がる人はいないでしょう。パトラ!」
「近くにいた子達に私物を持って来るように伝えました。すぐに来ると思います」
「ありがとう」
「流石ねパトラ♪相変わらず仕事が早いわ♪」
「お褒め頂き光栄でございます」
パトラさんが言葉を返すと控えめにノックする音が聞こえ、レベッカさんが中に入るように言うと3人のメイドが挨拶をして入ってきた。
豊満なスタイルで愛嬌と色気のあるメイド、スレンダーでクールの所作に真面目さが滲み出ているメイド、そして比較的に幼くお洒落し始めたばかりに見え、少し慌てている小さくて可愛いメイドがそれぞれ違った取っ手の付いた小箱を持っている。
小箱からそれぞれ違った容器を取り出し、蓋を開けると少しずつ違う色の白い粉が入っていた。順番に3、2、1個ずつ取り出して本人の前のテーブル上に並べてくれた。
ヴァネッサ夫人が「借りるわね?」と声をかけつつ取ったのは小さくて慌てている子の物だ。俺の目の前のテーブル上に置かれたそれをジッと見続けると文字が浮かんできた。
お化粧適性:F
白くはなるが使い続けると比較的短期間で顔が黒くなっていく。
「これだめ」
「…え?」
「つかいつづけるとたんきかんでむしろかおがくろくなる」
「「「「「「!?」」」」」」「えぇ!?ほ、本当に!?」
「あなた、これはどれくらい使ったのかしら?」
「ま、まだ使ったことはありませんっ!!」
「「「「「ほっ…」」」」」
「良かったわ。代わりの物を今度あげるからこれは破棄させてちょうだいね?」
「公爵夫人様にそこまでしていただくわけにはっ!!」
「協力のお礼よ♪あなた、可愛いからちゃんとしたやつをプレゼントするわね♪」
「こうなったら母上は止められないから受け取ってくれ。私としても君が被害に遭わないで済むなら嬉しい」
「で、でも…」
「受け取っておきなさい。厚意を素直に受け取ることも大事ですよ?」
「侍従長…。はい。ありがとうございますっ」
「よろしい♪リヒトちゃん、次はこの2つを順番にお願い」
「うん」
次は真面目でクールなメイドの物のようだ。流石に先程の内容を聞いて不安なのか右拳を胸の前で左手で覆ってこちらを見ている。ジッと見つめると文字が浮かんできた。
お化粧適性:E
余り白くならないがその分負荷も低い白粉。それでも長く使い続けると顔が麻痺する可能性がある
お化粧適性:D
本来の白粉とは違う材料を使っていて白さは保証するが洗い落とす時に炎症する可能性が高い。それでも使い続けると火傷の後の様になり最終的には…。
最終的にはなんだよ!?そこまで書いておいて教えてくれないのか!と、とにかくこの情報を皆に伝える。
「りょうほうだめ」
「これも!?」「…まさか両方とは」「あなたはどれくらい使ったの?」
「…両方1回ずつです。結構調べたんですが…。先に見られていたこちらは少しだけ白くなるので普段使いしようとしていて、もう1つは白くはなるんですが使った後に顔がヒリヒリしたのでいざという時だけ使おうかと…」
「こうかとふたんがひくいけど、ながくつかうとかおがまひしちゃうやつと、そのうちやけどみたいになってさいしゅうてきにはどうなるかわからない」
「…その感じだと少なくとも、良い結果にはならなそうね。悪いけれどあなたのも…」
「はい。私は現物よりもお店を教えていただければ嬉しく思います」
「そうね。あなたはそれで良いでしょう。必ず伝えるわ」
「ありがとうございます」
「じゃあ最後の方のを…」
愛嬌のあるセクシーなメイドさんが涙目で祈りを捧げていた。なんでも高いやつがあるらしい。…見た目も凝ってるからこれだろうな。それは最後にして他の2つを先に見る。
お化粧適性:ゴミ
白くもならないし肌に手で捏ねてから顔に塗ると熱湯をかけられたみたいに熱くなるしで最悪
お化粧適性:C
短い感覚で使うと肌が荒れ、瑞々しさが無くなっていく。数カ月に1回程度、使用後にしっかり水洗いして落とせば安全に運用出来る。
俺は指差しながら思わず叫んだ。
「ゴミ!!」
「ゴ、ゴミ!?」「「「「!?」」」」「あー、やっぱりですかぁ?」
「うん?やっぱりと言うには何か理由があるのか?」
「はいぃ〜。町で知らない商人風の騎士に強引にプレゼントされたんですよぉ〜」
「そうか。……待て。何故商人を装っている騎士と分かった?」
「ふふふっ♪ナイショです♪」
「その話はまた後で聞かせてもらいましょう。それよりもリヒトちゃん、なんでゴミ?」
「ほかのやつはAからFとかなのにこれにはゴミってかいてある。しかも手でこねてからぬるとねっとうかけられたみたいにあついんだって」
「…最悪じゃないの!!」
「あなた。ちゃんと後で教えなさい。普通にそいつは捕まえて処罰します」
「喜んでぇ〜♪」
「こっちはながいきかんあけて1かいだけ、つかいおわったらみずでちゃんとおとせばだいじょうぶ。でもきかんがみじかいとはだのすいぶんがなくなってはだがあれる」
「やっとマシなやつが出てきたわね」
「これを扱ってる商人も後で教えてくれ」
「畏まりましたぁ♪それでぇ、こ、こっちは?」
尋ねられたので見てみる。
お化粧適性:現在の世界で1番良い
ダンジョンで精製されたアイテム。異世界からやってきたダンジョンマスターが前世のうる覚えの知識を配下に伝えて研究させ、自身のダンジョンで素材を作り、自身のダンジョンモンスターを使って精製した安心安全高位貴族向け白粉。水で軽く洗い直せばほぼ毎日使えるし他の化粧の下地にするとかなり肌を守れる。
「…うん?!…………うぇっ?!」
「ど、どうしたのリヒトちゃん?」
「………ダンジョンでつくられたアイテムみたい」
「「「「え!?」」」」「ダンジョン産アイテムってこと!?」
「なんかダンジョンマスターがいちからつくったみたいだよ?」
「うん?普通のダンジョン産アイテムとは違うのか?」
「リヒトちゃんの言い方的に私達と同じように作ったみたい?」
「そ、それで坊っちゃま?私のこれの評価は…?」
「…げんせかいでいちばんいいって」
「「「「「「「「…えっ、ええぇっ!?」」」」」」」」
「……よっしゃー!!!良かったぁ♪これ貴族様用で凄く高かったのよぉ♪」
「…おめでとう。ところで…」
「大奥様!!これだけは!!どうかっ!!ご容赦をっ!!!」
「10倍の値段であっても?」
「じゅっ!?…くっ!ご、ご勘弁をっ」
「20倍」
「うぐっ!!世界でっ、1番のっ、うぐぐぐぐぐ」
「30倍」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅ〜〜〜…、じゅ、10倍と大奥様が買えるようになったら優先購入か一緒に購入させてもらえる権利でなら!!」
「ならそれで♪商談成立ね♪」
「はぁはぁはぁっ!…さ、流石に30倍は心が耐えられませぇんっ!!」
「あとね?あんしんあんぜんでみずでちゃんとあらいおとせばほぼまいにちつかえるしほかのけしょうひんのしたじにするとかなりはだをまもれるらしいよ」
「「「「「えええぇっっっ!!!!????」」」」」
「えええぇぇぇ!?そ、そんなに良い物なんですかぁ!?大奥様!!是非ともっ!!購入出来るようにぃぃ!!」
「奥様。先程の件、是非その白粉で…、おねがいしますっ」
「ダンジョンマスターが作ってるということはあそこのダンジョンでしょう?こことの距離的に運ぶのは問題はない。問題があるとしたらどの階層まで潜らないといけないか?女性なら死ぬことは無いけど、深層に潜った冒険者の一部はあのダンジョンから離れたくなくなっている噂があったわね。……うん。まずは調査をして購入出来そうなら、という条件にはなるけど約束は守るわ」
「「「やったぁ♪」」」
ということでこの町に残る理由はこのダンジョン産の白粉を手に入れるまで他のことに手を割きたくないからだと思う。それを閣下達に伝える気概は俺にはない。




