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ダンジョン管理者の私、迷惑系配信者をデコピン一発でBAN(物理)しただけなのに地球でバスってた件  作者: セキド烏雲


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第22話 【悲報】チョコレート工場が直面する危機

 南地区(繭の区画)


 南地区は、文字通りの「蟲の巣」と化していた。


 逃げ遅れた住民や警察官、防衛軍の兵士たちが、巨大な白い糸で壁や電柱に縛り付けられ、生きたまま養分を吸い取られている。


「うぅ……ぐぅぁぁ……」

「殺して……くれ……頼む……」


 繭の中で蠢きながら、絶望のうめき声を上げる人々。


「ハァッ、ハァッ!!やべぇ!マジでやべぇ!!」


 Bランク探索者・ジャックは、目の前に漂う鱗粉を吸い込むまいと、裾で鼻を押さえながら、必死に逃げ惑っていた。


 彼の仲間たちは、とうに繭にされている。


「逃ゲテモノ無駄。我ガ鱗粉ヲ吸イ込ムノモ時間ノ問題……早ク楽ニナレ」


 頭上から響く、妖艶で甘ったるい声。


 四天王の一人、巨大な蛾型の二足虫・幻惑のファルファラが、毒の鱗粉を撒き散らしながら優雅に舞っていた。


 ジャックの肺が焼け焦げるように痛み、視界が歪み始める。

 万事休すと思われたその時、一陣の突風が鱗粉を吹き飛ばした。


「不快な粉を撒き散らして……ガの分際で」

「うえぇ⋯ギラギラしてて気持ち悪ぅ」


 冷徹な声と共に現れたのは、美しい長剣を構えたアジアランキング1位の男、Sランク探索者・シュウ・レンと、オセアニアランキング2位のカイル・オズボーンとそのチームだった。


「フフフ……威勢ノ良イ猿メ」


 ファルファラが不敵に笑い、羽根を震わせる。すると彼女の周囲に同型の魔虫が無数に群がってきた。


「我々ハ個デアリ、群。貴方タチノ絶望トイウ甘イ蜜、残サズ吸イ尽シテヤル」


 ◆ ◆


 東地区(黒の区画)


 警察の対ダンジョン特殊急襲部隊(SAT-D)は、スキル保有者のみで構成された精鋭部隊だ。


 一般の警察官たちが引いたあとでも、最前線で魔物の撃滅にあたっていた。


「くそっ!ゴキブリども、キリがない!」


 部隊長のケンモチは、警察官としての矜持をかけて、東地区で地獄のような戦いを繰り広げていた。


 目の前には、茶色がうごめく人間大のゴキブリの群れ。


 その中でも特に黒い特殊個体。四天王の一人、貪食のブラッタ(巨大ゴキブリ型四足虫)。


「助けて……ぅッ!!ギャアアアアッ!!」


 無限に湧き出るゴキブリの群れ。彼らは生きた人間の背中に卵を植え付け、孵化した幼体たちが人間を内部から喰らって栄養としていた。


『ガッ⋯⋯あと1分後⋯⋯その場を退け』


 無線による非情な指示。


「⋯⋯まっ、まってくれ!!まだ人が残っています!!」

『⋯⋯作戦に変更はない。続行せよ』

「そんな⋯⋯」


 卵を植え付けられた人間を救う術はない。放置すれば、さらなる群れを生み出すだけだ。


 ヘリコプターの音が近づいてくる。


 空から油が撒き散らされ、一気に炎が投下された。


 辺り一面が火の海と化す。ゴキブリも、人も、卵も、すべてが業火に焼かれていく。


 剣持は後退しながら、己の無力さにギリギリと唇を噛み締めた。


 ◆ ◆


 北地区(糸の区画)


 四天王・死紡しぼうのネフィラ(巨大蜘蛛型二足虫)と対峙するのは、アフリカランキング3位のザンガ、欧州ランキング2位のレオンハルトとそのチーム。


「あぁぁぁ……ッ!」


 防衛軍兵士の腹を食い破り、無数の蜘蛛の子供たちが這い出してくる。


「キッヒャッヒャ!!コノ世界ノ猿ドモハ養分ガ豊富デ、子供タチノ餌ニ丁度ヨイ!!」


「クソっ、ちび蜘蛛達が口や耳から入ってきそうで気持ち悪い!」


 ザンガはスキル【大地の城壁サバンナ・ウォール】を使い、地面から突出させた土壁を押し倒し、子蜘蛛を潰していくがキリがない。


「やめろ!想像しただけでおかしくなりそうだ!!」


 彼等は巨大な蜘蛛の巣にたどり着く前に、波のように押し寄せる子蜘蛛の群れに完全に手こずっていた。


【ネットの反応】


『SAT-Dすげえ!!』

『世界ランカーたちも到着したぞ!』

『ウラマもバスターもいる!人類のドリームチームだ!』

『いける、まだ人類は負けてない!!』

『頼む、勝ってくれ……!!』


 世界ランカーや警察特殊部隊、防衛軍の善戦に、絶望に沈んでいたネットが束の間の希望に沸き立っていた。


 ◆ ◆


 一方その頃、「ユリカゴ」


 ウラマとの茶番(RTA)を終え、東海X-2へと戻っていたリザレ。


「ん〜、平和だね」


 サクラモチを頭に乗せ、お気に入りのオカリナを吹いていた。


 先日の騒動で一時的に注目を集めたものの、北海道X-1という「本物の災厄」が出現したことで、世間の目は完全にそちらに釘付けになっていた。


 おかげで、ここ数日の東海X-2の入り口は閑古鳥が鳴いており、彼女にとっては至福の静寂が訪れていたのである。


「リリ」

「だからリリ言うな」


 ゆったりとした時間を楽しんでいたリザレの背後から、血相を変えたザイルが現れた。


「アスカから聞いているか?」

「アスカ?そういえば最近顔見てないけど。どうかしたの?」


 ザイルは、アスカから譲り受けたというスマートフォンを取り出し、画面をリザレに向けた。

 そこには、北海道X-1の惨状を伝える特別報道番組が流れていた。


 スタジオでは、かつてリザレを「人類の脅威だ!」と声高に叫んでいた軍事評論家のタドコロが、死人のような顔で項垂れている。


『……もはや、我々の武力では、あの蟲の軍勢を止めることは不可能です。北海道は……放棄するしかありません。東海X-2の平和な管理者を脅威だと語っていたあの頃が懐かしい……』


「ゲートの向こうの世界が、大変らしい」

「ふぅん。でも、私達には関係ないし。こっちに来ないなら好きにすればいいよ」


 リザレは興味なさそうにオカリナを吹き直そうとする。

 しかし、ザイルの次の言葉が、彼女の動きをピタリと止めた。


「……それが、関係があるのだ」


 ザイルは言葉を区切る。


「『ロイズ』を知っているか?」

「ロイズ?なにそれ、誰かの名前?」


 リザレが首を傾げると、ザイルはひどく真面目な顔で言った。


「アスカがいつも買ってくる、あの美味な『チョコレート』とやらの工場だ。この報道によると、その工場付近までダンジョンの影響が及んでいるらしい」


「…………え?」


 リザレの目が見開かれる。


「放置すると?」

「最悪、あのとろけるような生チョコレートは、二度と食べられなくなるだろうな」

「うわ……マジで……」


 リザレは頭を抱えた。

 人類の存亡など知ったことではない。

 だが、あの美味しいおやつが地球上から消滅する。それは、彼女にとって、看過できない重大な損失だった。


「……ちょっと、上司に相談する」


 彼女は真剣な顔つきで立ち上がり、震える手で「業務日誌」を取り出した。

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