第20話 【超悲報】世界ランカー、人脈でわからされた模様
■富山県内:北陸S-1ゲート前
約束の時間である正午を過ぎた。
ゲート前には、前代未聞の決闘を一目見ようと、数万人の観衆と、世界中のメディア、そして警備にあたる国防軍が集結していた。
だが、肝心の主役が来ない。
「……来ないですね」
S級装備に身を包んだウラマが、苛立ちを隠さずに時計を見る。
「怖気づいたか?それとも、やはり魔物に時間の概念などなかったか」
一方、政府関係者のテントでは、別の意味でパニックが起きていた。
「おい!リザレはどうなっている!予定時刻を過ぎているぞ!」
「そ、それが……足取りが掴めず……」
上層部の怒号に、担当役人が青ざめる。
「まさか電車で移動するといった彼等の情報は本当だったのか?!」
ざわめきが限界に達しようとした、その時だった。
ブロロロロ……プスン。
重厚な軍用車両が並ぶ中、場違いな軽トラが一台、エンストしながら滑り込んできた。
荷台から、よろよろと降りてくる人影。
「ふぁー……着いたぁ?ここドコ〜?」
赤ら顔のリザレだった。
その後ろから、同じく千鳥足のアスカと、顔面蒼白で口元を押さえるザイルが続く。
「遅刻ですよ、リザレ!!」
ウラマが半ギレで叫ぶ。
リザレは「ん?」と気だるげに反応し、缶を掲げた。
「ごめんごめん。乗り換えミスってさー。ヒッチハイクしてた」
彼女の片手には、『ストロングゼロ(500ml)』のロング缶が握られている。
「は……?」
地球側が凍りつく。
人類の存亡をかけた決戦の場に、泥酔状態で現れた挑戦者。
だが、ネットの反応は爆発した。
『強いww』
『飲む福祉www』
『親近感エグい』
『アスカもっといい酒飲ませてあげて!』
『立山(日本酒)飲ませ!』
『S級1位を倒した後にストゼロで優勝する魔王』
テレビ局のスタジオでは、軍事評論家が神妙な顔で解説を始める。
「……あれはただの酒ではありません。『ストロング』……つまり『強力な』。『ゼロ』……つまり『痛覚遮断』。あれは高濃度のアルコールで脳のリミッターを強制解除し、恐怖心と痛みを消し去る、東側諸国の特殊部隊が使用する『液状の狂戦士化薬』です」
『いや、ただのストゼロじゃねーかw』
『9%は確かに狂戦士化するわw』
『専門家(笑)』
そんなカオスな状況の中、ウラマは強引に進行を戻した。
「始めましょう。まずはメンバー紹介です」
ウラマの背後に、屈強な戦士と、痩身の忍者のような男が立つ。
「我がチームは、私、S級探索者ウラマ。そして同じくS級の『鉄壁のゴウマ』、『疾風のハヤテ』。この布陣に死角はありません」
完璧な編成だ。会場が沸く。
対するリザレチーム。
「えーと、私と……」
リザレが振り返る。
そこには、パイプ椅子に突っ伏してピクリとも動かないザイルの姿があった。
「……ザイル?」
「……(応答なし)」
「あーあ。飲み慣れないもの飲むから」
リザレはため息をつき、アスカの肩を叩いた。
「じゃ、私とアスカで」
「え?ええっ!?私もですか!?」
アスカが一瞬で酔いから覚める。
「私、ただの荷物持ちですよ!?戦力外ですよ!?」
「大丈夫大丈夫」
ウラマが冷ややかに眼鏡を光らせる。
「ハンデのつもりですか?まあいいでしょう。ではルールを説明します」
ウラマは、用意していたフリップを掲げた。
【ルール】
◯北陸S-1ダンジョン(踏査済)のダンジョンマスターを先に倒したチームが勝者
◯相手選手への直接攻撃禁止
◯脱落者が1名でも出れば失格
◯ダンジョンの壁破壊禁止
◯時空系の魔法・スキル使用禁止
完全に、リザレの「物理チート」と「魔法チート」を封じるための後出しルールだ。
「これに同意できなければ、不戦敗となりますが?」
「オッケー(即答)」
「……は?」
「いいよそれで」
リザレはあくび混じりに承諾した。
アスカだけが(ひえぇぇぇ!どう考えても場違いなんですけど!!)と顔面蒼白になっている。
(大丈夫かこいつ。負けるにしても、ある程度は接戦を繰り広げてくれよ。私の勝利が輝かない)
ウラマは完全に相手を下に見ながら、スタート位置についた。
◆ ◆
「スタート!!」
号砲一発。
審判の号砲と共に、ウラマチームが疾風のごとく駆け出した。
■北陸S-1ダンジョン:第5階層
ウラマたちの進行速度は、まさに世界ランカーのそれだった。雑魚敵は無視、必須戦闘のみを一撃で終わらせ、最適解のルートを突き進む。
「順調ですね。今頃彼女らは入り口付近で……」
ウラマが後方を振り返る。そこには、意外な光景があった。
「はぁぁぁぁぁッ!!」
土煙を上げて猛追してくる、リザレと――アスカ。
「なっ!?」
Cランク探索者のアスカが、残像が見えるほどの速度でリザレと並走している。
「なっ!?あのCランク、なぜついて来れる!?」
「えへへ、私、元陸上部なんで!」
アスカのスキル【韋駄天】。戦闘力は皆無だが、走力のみを3倍に跳ね上げる隠しスキルだ。
「ちっ……仕方ない!」
ウラマが目配せをする。仲間のSランク探索者が、通路の支柱に向けて『流れ弾』のようにスキルによる衝撃波を放った。
ズガガガガッ!!
「きゃあっ!?」
天井が崩落し、瓦礫がアスカを襲う。直接攻撃ではない。あくまで「モンスターへの攻撃が外れた」という体裁の妨害工作だ。
「アスカ!」
リザレは瓦礫を弾き飛ばすが、アスカは巻き込まれ、足を負傷。倒れ込んだ。
「いっ……足が……」
「おや、ダンジョンの老朽化でしょうか?運も実力のうちですよ」
「卑怯くさ!」
ウラマは立ち止まらず、冷ややかに言い放つ。
「手札が悪かったですね。私には、最適なスタッフをその時に応じて選べる人脈と仲間たちがいるんです。貴女のように、無能な素人を連れ回すような真似はしない」
「……っ」
アスカが唇を噛む。
「ごめんなさい、リザレさん……私が足を引っ張って……」
「……ムカつくなあいつ」
リザレの瞳に、静かな怒りの火が灯った。彼女はアスカをひょいと背負い上げる。
「捕まってて。舌噛まないようにね」
「えっ!?リ、リザレさん重いですよ!?」
「軽い軽い。アスカ一人くらい、砂糖袋より軽いって!」
リザレは加速した。
魔力強化された脚力で、ウラマたちを猛追する。
◆◆
【第30階層:迷宮エリア】
しかし、ウラマの準備は周到だった。
リザレたちが追いつきそうになると、吊り橋を落とし、一方通行の扉を閉め、モンスターハウスを起動させた。
ダンジョンのギミックを知り尽くした「知識」によるハメ技だ。
「うわっ、行き止まり!?」
リザレが地団駄を踏む。壁の向こうから、ウラマの声が響く。
「無駄ですよ。このエリアの構造は完全に把握している。貴女がそこから抜け出す頃には、我々はボスを倒して凱旋しているでしょう」
「ぐぬぬ!!真面目に戦えっ!!」
「これはRTAです。勝つことが全て。正攻法など、弱者の言い訳に過ぎない」
遠ざかる足音。アスカが絶望的な顔でうつむく。
「……もう、ダメですね。私のせいで……」
「…………」
リザレはギリギリと歯ぎしりをした。
壁を壊せない。相手を攻撃できない。マップを把握していない。酔って頭がまわらない。
リザレはウラマの奸計により詰みを悟った。
「……仕方ない」
リザレの諦めの声。
アスカは悲痛なほど重い責任を感じた。
「あの卑怯者に負けるくらいなら!!」
リザレの目は死んでいなかった。
彼女は懐から、あの「羊皮紙の束(業務日誌)」を取り出し、土下座する。
「お願いします!助けてください!」
「えっ?えぇぇっ?!!」
数秒の沈黙。やがて、羊皮紙に文字が浮かび上がる。
『――来た道を戻れ』
リザレは疑問に感じる素振りも見せず、アスカを背負って今来た通路を引き返した。
「え……?ここ、さっきの道じゃ……」
ズズズッ……
世界がずれるような音が聞こえる。
そして、角を曲がった瞬間、景色が一変していた。
薄暗い通路ではない。そこは、豪奢な装飾が施された、巨大な広間。
「グルルルルゥゥゥ……ッ!!」
玉座には、北陸S-1のダンジョンボス『深緑の龍』が鎮座していた。
「えぇぇぇッ?!ボス部屋!?なんで!?」
困惑するアスカ。
「あはは!!流石私の上司!!」
リザレはドラゴンに向かって跳躍した。
「悪いけど、急いでるから!」
必殺の右指を弾く。
ドォォォォォォンッ!!
衝撃波が広間を突き抜ける。
「グガォォォォッ!!!?」
討伐難易度S級のダンジョンボスは、デコピン一発で轟沈した。
《ダンジョン攻略完了》
無機質なアナウンスと同時に、勝利のファンファーレが鳴り響く。
◆ ◆
【ウラマチーム視点】
「あと少し……あと少しでボス部屋だ」
ウラマたちは必死に走っていた。リザレを撒いた。勝利は確実だ。
その時。ファンファーレがダンジョン内に響き渡った。
「えっ?」
ウラマが足を止める。
「うぇ?!うぇ!???」
目の前のボス部屋の扉が開く。中には、誰もいない。ボスもいない。ただ、ドロップアイテムだけが転がっていた。
「ば、馬鹿な……!?我々が先頭のはずだぞ!?」
■富山県内:北陸S-1ゲート前
リザレとアスカが、光に包まれて帰還する。大歓声。どよめき。
「イカサマだ!!」
遅れて出てきたウラマが、髪を振り乱して叫んだ。その顔からは、知的な余裕など微塵も感じられない。
「時空系の能力を使っただろう!!転移は禁止のはずだ!」
審判員が首を振る。
「いえ、監視カメラを確認しましたが、彼女たちは魔法を使っていません。『歩いていただけ』です」
「そんな馬鹿な!どうやったんだ!?」
ウラマがリザレに詰め寄る。リザレは、けろりとした顔で答えた。
「上司に助けてもらった」
「は……?」
「いつもは怖いけど、やっぱり頼りになるなぁ〜」
「ふ、ふざけるな!だとしたら人数違反だ!外部の協力者は禁止だ!」
ウラマの抗議に、リザレはパイプ椅子で寝ているザイルを指差した。
「こっち二人だし。上司入れたとしても三人」
「はぁ!?」
「ザイルは戦力外(寝てる)。私、アスカ、上司。ほら、三人でしょ?」
ウラマは絶句する。
「くっ!!!お前の上司とやらが、管理者権限を使ったのか!!汚いぞ!」
「あ、それはない」
リザレは真顔で否定した。
「だって私達、ここのダンジョンの管理者じゃないから」
しーん……。会場が静まり返る。
正論だ。彼女は『東海X-2』の管理者であり、ここは『北陸S-1』。権限など使えるはずがない。
ただ、上司が「同業者」に顔が利いただけだ。
【ネットの反応】
『完全論破www』
『ウラマダサいな』
『カメラ回ってるのにアスカ足止めしたの引くわ』
『アスカ見捨てないリザレたん好き』
『管理ちゃんの方がよっぽど理性的で草』
『ウラマ、実力でも人間性でも負けたな』
決闘後の二人のやり取りは、瞬く間に拡散された。
世間が、メディアが作り出したリザレへの恐怖心は、払拭された。
ダンジョン内で人間であるアスカを見捨てることなく共に戦い、ウラマ達のような妨害グレー行為をすることなくルールを遵守し、屁理屈とはいえユーモアのある勝利を収めた彼女に、世論は完全に味方したのだ。
政府は、「レイド招集取りやめ」の発表をしようとした。
――その時である。
ズズズズズズズッ……!!
地面が揺れた。北陸ではない。もっと北。
『緊急速報です!!』
会場の大型モニターが、ニュース映像に切り替わる。
『北海道・札幌市に、新たなゲートが出現しました!!見てください!既に魔物がゲートの外に溢れ、家畜や人々を襲っています!!』
画面には、雪景色を赤く染める魔物の群れと、逃げ惑う人々の姿が映し出されていた。リザレの表情から、笑みが消える。
「……あれは」
平和な余興(RTA)は終わった。本物の「災厄」が、幕を開ける。
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【現在のダンジョン状況】
■人類到達領域
第90階層:苔生した神殿(深層)※ただしツアー
第50階層:密林地帯(中層)※正規
■友好関係
・サクラモチ(E級ピュア・スライムLv65)
・オハナ(S級古竜Lv91)
・藍野アスカ(Cランク探索者、チャンネル登録者100万)
・ゴズ・ヴェン(C級よろず屋Lv30)
・ザイル・ヴェルンブラ(S級超越者Lv24→23)
・モフ(S級巨狼Lv89)
・北沢ケンタ(Eランク探索者)
・藤村ユウキ(Eランク探索者)
・にく(A級サイクロプスLv61)
・ユザメ(S級ラヴァドラゴンLv78)
・ベンリ(S級アラクネLv85)
■BAN対象(永久追放)
・狭間キョウヤ(Dランク探索者)
罪状:スライムへの執拗な虐待
・臼井クロト(Bランク探索者)ほか4名
罪状:冒険者達への陵虐
■BAN対象(装備ロスト)
・城嶋ジャック(Bランク探索者)ほか103名
罪状:上司の機嫌を損ねたため
■BAN対象?(常闇の世界)
・獅子堂アクノシン・ヴォルコフ(Sランク探索者)
■HIRETSU
・大表ウラマ(Sランク探索者)
■管理者コメント
さすが上司!
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――第1章「物理BAN編」、完結!
ウラマ「ハメ技だ!」 リザレ「上司(神)のコネだ!」
卑怯な(HIRETSU)手を使ったウラマに対し、社会人の必殺技「上司召喚」で勝利したリザレ。 彼女の物理(と人脈)無双を楽しんでいただけましたでしょうか?
ここまで読んで、 「スカッとした!」「リザレ最高!」「続きが気になる!」 と少しでも思っていただけた方は、 ぜひ★3つで応援をお願いします! 皆様からの評価が、第2章を執筆する最大の原動力になります!
そして……ラストで発生した「北海道・札幌ゲート」。 平和な(?)RTAは終わりです。 次回から始まる第2章「暴食の管理者編(仮)」では、リザレが本物の「災厄」と対峙します。
準備期間中も番外編を投稿予定ですので、 ブックマークは外さずにお待ちいただけると嬉しいです!
ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました! 第2章でまたお会いしましょう!




