第12話 【困惑】視聴者の感覚がズレてる件について
【ネットの反応】
アスカの配信が始まった瞬間、視聴者数が爆発的に増えた。
そして、その中には「彼ら」もいた。
【チーム『クロノスタ』司令室】
ウラマは無数のモニターの前で、優雅にコーヒーを啜っていた。
「……お手並み拝見といこうか。『推定S級』指定されたダンジョンの実力とやらを」
■地下迷宮「ユリカゴ」第30階層(中層):水没した洞窟
「皆さん!今日は管理ちゃん公認で、皆さんがまだ潜れていないような、このダンジョンの奥をご案内します!」
アスカが震える声で配信を始める。
「あちらが、この地下迷宮で一番透明度が高い地底湖でーす」
リザレが指差した先には、幻想的な青い光を放つ地底湖が広がっていた。
「わぁ……綺麗……」
ケンタが思わず声を漏らす。
透き通った水の中を、虹色の鱗を持つ魚の群れが、優雅に泳いでいる。まるで天然のアクアリウムだ。
【一般視聴者の反応】
『すげー!巨大な青の洞窟じゃん!』
『管理ちゃん、自然保護官みたいで尊い』
『でも、ヤバ気なの泳いどるwww』
解説を任されたケンタは、何か伝えようと鑑定スキル【アナライズ】を発動した。
瞬間、彼は青ざめた。
――サハギン変異種(C級):レベル28――
――特性:集団捕食、鋼鉄の鱗――
「ひぃっ!?C級レベル28があんなにたくさん!?」
「おいっ、視聴者を驚かせてどうする!」
ユウキのツッコミに、ケンタはハッとしてカメラに向けて解説を始めた。
【覚醒者・プロの反応】
『おい、あれ「キラー・サハギン」じゃねーか!?』
『待て待て、群れの数が多すぎる!200匹はいるぞ!』
『綺麗とか言ってる一般人いるけど、あれ一匹で鉄の小手を噛み砕く怪物だぞ……』
【チーム『クロノスタ』司令室】
「ふむ。サハギンの変異種ですか。レベル28。あの数は多少厄介ですが」
ウラマは興味深そうに頷いた。
「雷属性の武器とスキル探索者を揃えれば、10分で殲滅できるレベルですね。いや、高出力の炎属性スキル保有者をチームに入れて、水蒸気爆発を起こしたほうが早いですか」
■地下迷宮「ユリカゴ」第50階層(中層):地下雨林
「ここは第50階層。植物が綺麗だよ」
湿度が上がり、視界が悪くなる。巨大なシダ植物が生い茂るジャングルエリアだ。
ガサガサ……ッ。
茂みが揺れ、巨大な影が現れた。
全長3メートルを超える、緑の肌を持つ一つ目の巨人。
筋肉が鎧のように隆起し、手には血に濡れた大斧を持っている。
「ひぃっ!?」
ケンタは震える手で【アナライズ】を発動した。
――サイクロプス(A級):レベル52――
――特性:魔神の腕力――
「レ、レベル52!?Aランク冒険者レベル!?」
ケンタの声が裏返る。その威圧感だけで、E級の二人は失禁寸前だ。
【一般視聴者の反応】
『デカっ!』
『ウホッ、いい筋肉』
『急に出てきたからビビるwww』
『実況、仕事しろww』
だが、リザレは平然と近づいた。
「にく!久しぶり!」
サイクロプスが、殺気を消し、庭師のように深々と頭を下げる。
【覚醒者・プロの反応】
『いや、「にく」って名付けていい魔物じゃないだろ』
『あの筋肉密度……物理耐性が半端ない個体だ』
『なんでA級相当の魔物が、あんなに礼儀正しいんだよ……』
【九州B-4ダンジョン最深部】
アクノシンはスマホを見ながら、鼻で笑った。
「ハッ、A級相当の雑魚が庭師みてぇに頭下げてやがる。ま、俺ならワンパンだがな」
彼は、退屈そうにあくびをしていた。
■地下迷宮「ユリカゴ」第60階層(下層):溶岩地帯
空気が一変する。
肌を焼く熱波。呼吸するだけで肺が痛い。
「あっつ……!」
アスカが汗を拭う。
その時、煮えたぎるマグマの海が割れた。
ズザァァァ!!
溶岩のしぶきを上げ、全長30メートルを超える火炎龍が首をもたげる。
その巨体は、戦艦のような威圧感を放っていた。
「ひぃぃぃ!?」
ケンタは【アナライズ】を発動し、絶句した。
――ラヴァドラゴン(S級):レベル78――
――特性:????――
「レベル78!?S級のダンジョンボス級!?もう嫌だ!鑑定したくない!鑑定したくッモゴ」
ユウキはケンタの叫びが音声に乗らないよう、慌てて口を塞いだ。
【一般視聴者の反応】
『うわー!モ〇ハンにいる奴www』
『つ・よ・い』
『ラスボスの風格www』
『ていうかこのダンジョン深くね?』
『管理ちゃんのネーミング期待』
視聴者は「出来の良いエンタメ」として楽しんでいる。
「おー、ユザメ。そこにいたんだ」
リザレは、ユザメ(ラヴァドラゴン)の鼻先を優しく撫でた。その瞬間、世界中の「知る者」たちが凍りついた。
【チーム『クロノスタ』作戦司令室】
ウラマは目を鋭く光らせ、モニターの数値を指差した。
「熱源反応が測定限界を突破している。あれは、北米を壊滅させた『カリフォルニアX-3の悪夢』と同種……いや、それ以上の個体だ」
ウラマの額に、うっすらと汗が滲む。
「戦術核の使用が議論されるレベルの魔物を、猫のように撫でている……?私の計算式が、ズレ始めているのか」
■地下迷宮「ユリカゴ」第65階層(下層):嘆きの峡谷
さらに奥へ進むと、酸の霧が立ち込めるエリアに出た。
岩が溶ける音が、シュワシュワと響く。
「……待て」
ボロボロのコートを纏ったザイルが、リザレの前に立ちはだかった。
その視線の先から、カサカサという不快な音と共に、凄まじい殺気を放つ上半身が美女、下半身が蜘蛛の美しき魔物が現れた。
「もう嫌だ!!鑑定なんてどうでもいい!!帰りたい!!帰らせッモゴ」
「黙れ!!俺だって漏らしそうだけどカメラ回してるんだ!!」
ケンタの口を塞いだユウキの手足は震えていた。
――アラクネ変異種(S級):レベル85――
――特性:????――
「リリ、下がれ!こいつは危険だ!」
アラクネを追ってやってきたザイルが叫ぶ。その身体に刻まれた傷は深く、死闘を繰り広げた様子が見て取れる。
【チーム『クロノスタ』作戦司令室】
ウラマの表情から、笑みが消えた。
「……あの黒い男の動き。Sクラス世界ランカーの体捌きだ。それが……あれほど消耗しているのか?」
彼はモニターに顔を近づけた。
「あの酸の霧、濃度が異常。我々の装備で対処できるものがあるだろうか」
【九州B-4ダンジョン最深部】
アクノシンも、表情を険しくしていた。
「……あのアラクネ、変異種だな。俺のスキル【金剛不壊】でも、あの酸を浴びたら不味な。……チッ、厄介な相手だぜ」
二人の「強者」が警戒レベルを最大に引き上げた、その時。
ペチッ。
リザレが素手でアラクネの頭を小突く。
「ちょっと、ベンリ!いま平和をアピール中なんだから。笑顔笑顔」
アラクネは、一瞬困惑した表情を浮かべながら、リザレの真似をして、アスカのカメラに、無理やり似合わない笑顔を作った。
「……は?」
ウラマとアクノシンは、同時に声を上げた。
その光景が、あまりにも理解不能で、困惑するしかなかった。
【一般視聴者の反応】
『ベンリwww何に使ってるんだよww管理ちゃん』
『ぶっ飛びすぎ』
『ネーミングが斜め下すぎてワロ』
実力者たちの困惑は置き去りに、一般視聴者たちは盛り上がり、アスカのチャンネルではチャンネル史上初の同時接続数が200万を突破していた。
しかし、このツアーはまだまだ終わらない。
■地下迷宮「ユリカゴ」第90階層(深層):苔生した神殿
「さあ、ここが深層だよ」
リザレが、巨大な神殿の前に立った。
空気が変わった。重力が歪み、空間そのものが軋むような音がする。
バチバチバチッ……!
アスカのスマホから、異音が響く。
「え、あ、あれ?画面が……ノイズが……」
その時。
神殿の奥から、山のような巨大な影がぬらりと動いた。
古竜・オハナと、巨狼・モフだ。
だが、その全貌が映る直前――
プツン。
画面がブラックアウトし、配信は強制終了された。
【一般視聴者の反応】
『ファッ!?』
『おい!!いいとこで切れたぞ!』
『今なんかデカい影見えなかったか!?』
『アスカちゃん!?生きてる!?』
視聴者は「見えない恐怖」にパニックになった。
だが、「強者」たちは、これを好機と捉えた。
【チーム『クロノスタ』作戦司令室】
ウラマは、真っ暗になったモニターを見つめ、不敵に笑った。
「……あの深度。魔力濃度による通信途絶か。なるほど。階層が90を超えるダンジョンは世界でも片手で数えるくらいしかないが。まさか日本にも出現していたとは」
彼は眼鏡の位置を直した。
「90階層超えの高濃度の魔力地帯……それはつまり、ラストダンジョンに相応しい『超純度魔石』や『真なる未知』が眠っている証拠」
ウラマは思案していた。あのアラクネ(ベンリ)と、ラヴァドラゴン(ユザメ)、そして管理者リザレの最善の打倒方法を。そして、それを実現する最善のパーティー構成を。
「世界ランクトップの座。私のために用意されたものですね」
【九州B-4ダンジョン最深部】
アクノシンは、スマホを放り投げた。
「チッ、肝心なとこで見えなくなっちまった。ま、奥にもう一匹デカいのがいるってことだな」
彼はボキボキと首を鳴らした。
「あの管理者、調子乗ってペット自慢してやがったが……俺がそのペットごと捻り潰してやる。その時の絶望顔が楽しみだぜ」
彼らはまだ知らない。その「見えなかった闇」の中に、人類が触れてはいけない神話級の怪物がうごめいていることを。そして、彼らをもひれ伏させるリザレの底なしの実力を。
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【現在のダンジョン状況】
■人類到達領域
第90階層:苔生した神殿(深層)※ただしツアー
■友好関係
・サクラモチ(E級 ピュア・スライムLv65)
・オハナ(S級 古竜Lv91)
・藍野アスカ(Cランク探索者、チャンネル登録者15→50万)
・ゴズ・ヴェン(C級 よろず屋Lv30)
・ザイル・ヴェルンブラ(S級 暗殺者Lv68)
・モフ(S級 巨狼Lv89)
・北沢ケンタ(Eランク探索者)
・藤村ユウキ(Eランク探索者)
・にく(A級 サイクロプスLv52)
・ユザメ(S級 ラヴァドラゴンLv78)
・ベンリ(S級 アラクネLv85)
■BAN対象(永久追放)
・狭間キョウヤ(Dランク探索者)
罪状:スライムへの執拗な虐待
・臼井クロト(Bランク探索者)ほか4名
罪状:冒険者達への陵虐
■BAN対象(装備ロスト)
・城嶋ジャック(Bランク探索者)ほか103名
罪状:上司の機嫌を損ねたため
■管理者コメント
みんな違ってみんな可愛い!
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A級サイクロプス → にく(庭師)
S級アラクネ → ベンリ(十徳ナイフ)
ネーミングセンスが独特すぎるリザレさん。
「魔物たちが不憫で可愛いw」と思っていただけたら、ぜひ★評価をお願いします!作者のネーミングセンスが上がります(多分)!
次回、ツアーは深層(地獄)へ……。
★カクヨム様にて先行配信しております。
https://kakuyomu.jp/works/822139843894075364




