第11話 【無謀】限界オタク、封鎖線を突破する
■岐阜県内:東海X-2ゲート前
「ついにここまで来た」
夜闇に紛れ、二つの影が動いていた。
「……行くぞ、ケンタ」
「ああ。管理ちゃんに会うために、ここまで来たんだ」
ケンタとユウキは、リザレに合うために、東京から夜行バスに乗り岐阜県まで来ていた。
彼らの眼下の東海X-2の封鎖線は、想像以上に厳重だった。
「【スニーク】」
ケンタと共に探索者資格を取得したユウキ。彼が覚醒したスキル【隠遁】により、二人の存在感が薄れた。
警備兵の視線が、二人を素通りする。
「……今だ!」
二人は、資材を運ぶトラックの荷台に飛び乗った。緊張感のあまり、心臓が破裂しそうだった。
「ケンタ、本当にいいのか?これ、見つかったらヤバいぞ」
「管理ちゃんに会えるなら、拘束上等!」
限界オタクは強い。
ケンタはスマホの画面――アスカの配信から切り取った、リザレがチョコを食べて笑っている写真を見つめた。
「絶対、会いに行く」
二人が忍び込んだトラックが動き出した。ゲートへ向かって。
■地下迷宮「ユリカゴ」第65階層(下層):溶岩地帯
灼熱の地獄。
ザイルは一人、噴き上がるマグマを躱しながら、強敵と戦っていた。
「……ッ!」
足元には、たった今切り伏せたばかりのドーザー(討伐難易度B級の百足型魔獣)の死体が転がっている。
だが、目の前の「下層の支配者」は、そんな魔物とは次元が違った。
討伐難易度S級のアラクネ希少種。
上半身は妖艶な美女、下半身は巨大な蜘蛛の怪物。
その実力は、Sランク探索者相当のザイルをも遥かに凌駕し、地球側のS級ダンジョンのダンジョンボスにも匹敵する。
ザイルは影のように動き回り、死角から急所である首を狙う。
だが、アラクネは嘲笑うかのように、全方位に向けて【腐食の魔霧】を放出した。
「……ッ!?」
回避不能の範囲攻撃。
ザイルはとっさに身を翻すが、触れただけで鉄をも溶かす酸の霧が、愛用のコートをジリジリと焦がしていく。
「……くそ。やはり俺は、対人技術に特化しすぎている」
彼は舌打ちした。
物理的な刃は届く。一対一の殺し合いなら負けない。
だが、こうした「理不尽な広範囲魔法」や「環境ダメージ」には弱い。
これでは、リリが軍隊規模の大規模魔法爆撃に晒された時、守りきれるか分からない。
「もっと……強くならねば。二度とリリを失わないために!」
■地下迷宮「ユリカゴ」第3階層(上層):ゴブリンの洞窟
「うわぁぁ!ゴブリン!ゴブリン来た!!」
ユウキの隠匿スキル【スニーク】により、警備の目を盗んで境界ゲートに侵入できたことは良かった。
しかし、その先は、E級の彼等にとっては地獄だった。
ケンタが悲鳴を上げながら走る。背後から、三匹のゴブリンが追いかけてくる。
「【アナライズ】!レベル12?!だめだ勝てない!!」
ケンタに覚醒した鑑定系スキル【アナライズ】により、彼等は戦う選択肢を即排除した。
「【スニーク】!……だめだ、もうロックオンされてる!」
二人は必死で走った。息が切れる。足が痛い。だが、止まれば死ぬ。
その時、ゴブリンの一匹が槍を投げた。
「危ない!」
「ぐっ……!」
ユウキがケンタを突き飛ばし、代わりに肩を裂かれる。鮮血が舞った。
(……終わった)
ケンタは覚悟を決めた。
だが、その時。
「ギャッ!?」
ゴブリンが宙に浮いた。
「はい、君たち、お勤めご苦労さま」
冷たい声と共に現れた銀髪の女性、リザレ。
彼女はゴブリンたちの首をつかんで持ち上げ、脇に避けた。
彼女を見たゴブリン達は、頭を下げて引き下がっていく。
「……えっと、何してるの?」
「かっ、かかかッ……?!」
リザレは二人の傷を見ると、無造作に手を翳した。二人はリザレの姿が瞳に焼き付くほどに目を見開いた。
「蚊?まぁいいや。はい」
淡い光が二人を包み、彼女の【全治】が発動。傷が一瞬で消滅する。
「……管理ちゃんサマ?!!」
ケンタの声が裏返る。
「二重敬称になってるよ」
背後から、アスカが呆れたように笑って立っていた。
■地下迷宮「ユリカゴ」第10階層(上層):行商人のテント
「ま、とりあえず座んなよ。お客さんでしょ?」
リザレは手招きすると、近くの岩に腰掛けた。
ケンタとユウキは、ガチガチに緊張しながらその前へ進み出る。
「あ、あの!僕たち、ファンです!ずっと見てました!」
「まさか、本物に会えるなんて……」
二人が感涙にむせび泣いていると、テントの奥からぬっと巨体が現れた。
リザードマンの(元悪徳)商人、ゴズだ。
「……アネゴ。騒がしいですな。こいつらは?」
「うぉぉぉ!?リアル・ゴズ!」
「金の亡者の波動を感じる!!」
ケンタたちが抱き合って感動している。
「へぇ、よく知ってるねぇ。あ、ゴズ、お茶ある?」
「もちろんですぜ、上等な奴が」
ゴズは器用に茶器を操り、マグを二人に差し出した。
「……ど、どうも」
「……いただきます」
二人は恐る恐るお茶を啜った。
温かい液体が胃に落ち、張り詰めていた緊張がようやく解ける。
ここが「死地」ではなく、リザレの「庭」なのだと実感し、少しだけ落ち着きを取り戻した。
アスカも隣に座り、自分の分のお茶を受け取りながら口を開く。
「……それで。Eランクの二人が、どうしてこんな無茶をしてまでここに来たの?」
問われ、ケンタはハッとしたようにマグを置いた。
ダンジョンでの恐怖と推しに会えた感動で、吹き飛んでいた「本来の目的」を思い出したのだ。
「そ、そうです!管理ちゃん、これを見てください!」
ケンタは慌ててリュックからスマホを取り出し、画面を突き出した。
「今、地球側では大変なことになってるんです!一刻も早く伝えないと……!」
画面には、臨時ニュースのテロップが踊っていた。
『ラストダンジョンの管理者リザレ、人類の脅威』
『大敵討伐レイド検討』。
しかし、リザレの反応は薄かった。
彼女は手元のクッキーを頬張りながら、ボソリと言った。
「……ん、それ?さっきアスカから聞いた」
「……え?」
ケンタが拍子抜けした声を出す。
リザレは、どこか遠い目をして、スマホ(配信コメント)を指差した。
「私が『人類の脅威』なんでしょ?知ってるよ。そっちの世界の国が冒険者?を差し向けるとか、なんとか」
「し、知ってて、そんなに落ち着いてるんですか!?このままだとリザレさんが悪者にされちゃいますよ!」
ケンタとユウキが食い下がる。
だが、リザレは小さく笑った。その笑顔は、どこか諦めに似ていた。
「……まあ、慣れてるし」
「慣れてる……?」
「うん。昔から、誤解されるのは慣れてる。邪神崇拝者だとか、頭がおかしい子供だとか。いろいろ」
リザレは画面から目をそらし、サクラモチを撫でた。
その横顔に浮かぶ、孤独の影。しかし、その表情は直ぐに、それを補うに余りある光によってかき消された。
その変化を感じ取れるほど彼女を見てきた彼は今、別の場所にいる。
「……そんなの、おかしいです」
ケンタは拳を握りしめた。
「管理ちゃんは、僕たちを助けてくれた!魔物たちにも優しい!それを伝えないなんて、絶対におかしい!」
「そうだ!俺達で誤解を解きましょう!」
二人の熱意に、リザレは少しだけ驚いたように目を見開いた。
そして、困ったように、けれど少し嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがと」
彼女は立ち上がり、何かを思いついたように言った。
「うん……そうだね。このままだと変な人がいっぱい入ってきて、ここ(ユリカゴ)の皆が迷惑するのは嫌かな」
彼女はアスカを見た。
「そうだ、ちょっと奥の方(深層)まで散歩しない?可愛い子たちがいっぱいいるから。君たちには、その子達を地球の皆に紹介してほしい、そうすれば、ここが平和だって。きっと分かるはずだよ」
「た、確かに!それ良いですね!」
「うぉぉぉ!ダンジョンツアーだ!」
「管理ちゃんがガイドしてくれるなんて……うへへへ」
アスカ達が目を輝かせるその横で、ゴズだけが、青ざめた顔をしていた。
(……あねご、それ、悪手では?)
ゴズがリザレから仕入れる品々。神話級のアイテム。そんなものが入手できるダンジョンの深奥。そんなところにいる魔物。”可愛い子”である筈が無い。
こうして、世界を震え上がらせる「最悪の勘違いツアー」が幕を開けることとなる。
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【現在のダンジョン状況】
■人類到達領域
第35階層:地下雨林(中層)※ただしザイル
■友好関係
・サクラモチ(E級 ピュア・スライムLv65)
・オハナ(S級 古竜Lv91)
・藍野アスカ(Cランク探索者、チャンネル登録者10→15万)
・ゴズ・ヴェン(C級 よろず屋Lv30)
・ザイル・ヴェルンブラ(S級 暗殺者Lv68)
・モフ(S級 巨狼Lv89)
・北沢ケンタ(Eランク探索者)
・藤村ユウキ(Eランク探索者)
■BAN対象(永久追放)
・狭間キョウヤ(Dランク探索者)
罪状:スライムへの執拗な虐待
・臼井クロト(Bランク探索者)ほか4名
罪状:冒険者達への陵虐
■BAN対象(装備ロスト)
・城嶋ジャック(Bランク探索者)ほか103名
罪状:上司の機嫌を損ねたため
■管理者コメント
賑やかになってく
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訓練されたオタクに不可能はない!
次回、勘違いが世界規模に発展する「ダンジョンツアー」編、スタートです!
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