第10話 【VIP】黒服集団のSPが付いた模様
■岐阜県内:東海X-2ゲート前
魔物が一体も流出していないにも関わらず張られた、厳重な封鎖線。
夜闇に紛れて、一人の少女が動いていた。Cランク探索者、アスカだ。
「……行かなきゃ」
彼女は震える手で、リュックのベルトを握りしめる。
中には、リザレとの約束の品――「チョコレート(イチゴ味)」が入っている。
スマホの画面には、ゲリラ配信のコメント欄が流れている。
『アスカちゃん、やめときなって!』
『S級指定だ、死ぬぞ!』
『引き返せ!』
『俺からの手向け』
『石油王(仮)が¥100,000を投げました』
コメント欄は阿鼻叫喚だが、アスカの意志は固い。
「約束したから……!立ち入り禁止になっても、それに、大変なことになってるって伝えなきゃ!私が私じゃなくなる気がするの!」
彼女は、封鎖線を見つめた。
想像以上に厳重だった。
国防軍の装甲車。
サーチライト。
警備兵が3時間おきに巡回している。
「……無理、かも」
アスカは一度、諦めかけた。
だが、リュックの中のチョコを触ると、また勇気が湧いてくる。
「……でも、行く」
彼女は、配信で知り合った「元国防軍」の視聴者から教わった「警備の盲点」を思い出した。
『サーチライトの交代時間は3分。その間だけ、東側が無防備になる』
アスカは息を殺し、タイミングを待った。
時計を見る。
22時57分。交代時間は23時。
「……あと3分」
心臓の音がうるさい。
23時。
サーチライトの動きが止まった。
「……今だ!」
アスカは全力で走った。
心臓が破裂しそうだった。
背中に視線を感じた。
「誰だ!止まれ!!」
警備兵の声。
だが、アスカは止まらなかった。
足が、勝手に動く。
管理ちゃんに会いたい。
大変なことになってるって伝えたい!
その一心で。
ゲートに飛び込んだ瞬間、世界が反転した。
「……着いた」
暗い洞窟。
だが、地面には青白く光る月光草が茂り、幻想的な光景を作り出している。
「……管理ちゃん、待っててね」
アスカは、ダンジョンの奥へと進み始めた。
■地下迷宮「ユリカゴ」第10階層(上層):行商人のテント
なんとか第10階層まで辿り着いたアスカだったが、そこで足が止まった。
以前とは空気が違う。
肌を刺すような、濃密な殺気。
テントの前には、黒い影が立っていた。
「……久しぶりの異界人……だが」
黒の監視団、ザイルだ。
彼は左右の色が異なる、氷のような瞳でアスカを見下ろした。
「リリの安寧を乱すなら、斬る」
凄まじい殺気が、物理的な圧となってアスカを襲う。
「ひぃっ!?」
アスカの足が、ガクガクと震える。
動けない。
声も出ない。
ザイルが、短剣に手をかける。
「さあ、答えろ。お前の目的は?」
「ち、チョコですぅぅ!!」
アスカは腰を抜かしながら、必死にチョコの箱を掲げた。
「チョコ?」
ザイルが眉をひそめる。
「か、管理ちゃんに……チョコを……!」
アスカは涙目で訴えた。
ザイルの目が、一瞬だけ和らいだ。
だが、すぐに険しさを取り戻す。
「……証明できるか?」
「え、ええと……!」
アスカは慌てて、スマホを取り出そうとしたその時。
「……ザイル、やめ」
のんびりした声と共に、テントの裏からサクラモチを頭に乗せたリザレが現れた。
「……リリ」
「リリ言うな。……その子はVIPだから、傷つけたら殺すよ」
リザレはアスカに近づくと、ひょいと箱を受け取った。
「か、管理ちゃん……!」
アスカは安心と感動で涙が出そうになった。
「わぁ!またチョコくれるの?!」
「は、はい!私が一番好きなやつです!」
リザレは箱を開け、一粒口に入れる。
とろけるような甘さと、甘酸っぱい香り。
「……ん!」
リザレの目が、ぱっと輝いた。
「甘酸っぱい。これ好き」
リザレの頬が緩む。
満面の笑みだ。
アスカは、その笑顔を見て、心の底から思った。
(来てよかった……!)
リザレは箱からもう一粒取り出すと、ザイルの口に放り投げた。
「どう?」
ザイルは慌てつつも、口で受け止める。
「……悪くない」
訝しげな表情を浮かべるザイル。
だが、その目は少しだけ柔らかかった。
リザレが面白そうに、ザイルの反応を見ている。
ザイルは目を細め、短剣を完全に収めるとともに、アスカに向き直り、恭しく一礼した。
「覚えた。貴様は今後、俺が入り口まで迎えに行く。護衛しよう」
「ええええ!?く、黒服の人たちに護衛されるんですか!?」
アスカは目を丸くした。
リザレが、クスッと笑う。
「ザイル、そこまでしなくていいよ」
「いや、リリが認めた者だ。相応の待遇をせねば」
ザイルは真顔だ。
「……はぁ。好きにすれば」
リザレは呆れたように言った。
だが、その表情は優しかった。
こうして、一介の配信者アスカは、世界最強の諜報集団による「VIP護衛対象」となったのだった。
◆ ◆
【ネットの反応】
アスカの配信を見ていたケンタは、スマホを握りしめて立ち上がった。
「すげぇ……アスカちゃん、管理ちゃんと普通に話してるし、あの黒い軍団まで従えてる……!」
画面の中では、リザレ、ザイル、サクラモチ、そしてアスカ(と遠巻きに映り込んでいるゴズ)という、奇妙な絵が映し出されている。
リザレとアスカが、チョコを食べながら楽しそうに話している。
ザイルは少し離れた場所で、警戒しながらも、時折リザレを見つめている。
『管理ちゃん、笑顔可愛い』
『アスカ、VIP待遇じゃん』
『黒い人、デレてね?』
『これが推定S級ダンジョン?』
『平和すぎワロwww』
コメント欄は、好意的なもので溢れていた。
「僕も……僕も絶対、あそこに行くぞ!待ってろ管理ちゃん!」
ケンタの瞳に、新たな決意の炎が宿る。
世間が恐怖しようとも、彼は知っている。
あのダンジョンの中心には、甘いお菓子と、不器用な優しさがあることを。
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【現在のダンジョン状況】
■人類到達領域
第35階層:地下雨林(中層)※ただしザイル
■友好関係
・サクラモチ(E級 ピュア・スライムLv63→65)
・オハナ(S級 古竜Lv91)
・藍野アスカ(Cランク探索者、チャンネル登録者10万)
・ゴズ・ヴェン(C級 よろず屋Lv30)
・ザイル・ヴェルンブラ(S級 暗殺者Lv68)
・モフ(S級 巨狼Lv89)
■BAN対象(永久追放)
・狭間キョウヤ(Dランク探索者)
罪状:スライムへの執拗な虐待
・臼井クロト(Bランク探索者)ほか4名
罪状:冒険者達への陵虐
■BAN対象(装備ロスト)
・城嶋ジャック(Bランク探索者)ほか103名
罪状:上司の機嫌を損ねたため
■管理者コメント
チョコ最高!!
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チョコは世界を救う。
殺し屋集団に囲まれて「VIP待遇」を受けるアスカちゃんでした。
ほっこりした!ザイルがチョロくて可愛い!と思った方は、★評価をお願いします!
皆様の応援が、リザレのおやつになります。
★カクヨム様にて先行配信しております。
https://kakuyomu.jp/works/822139843894075364




