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やっぱり好きだと、一樹は、遊史の笑顔を見て、そう思う。
お前のことが好きだ。
好きだ。好きだ。好きだ。
「一樹…。」
高揚した心に、遊史の静かな声が、響いた。
「遊史?」
じっと、こちらを見てる。
その表情に、何かを感じた。
「本当に、感謝してる。感情を全て吐き出した。人前で、初めて泣いた。お前にしか、出せなかったと思う。」
謝意だけじゃない、何か他の感情があると、一樹は思った。
何が言いたい?
その目で、何を言おうとしている?
一樹が不安を感じたことに、遊史は気が付いたようだった。
視線を外して、目を少し泳がせた。
何か、逡巡している。
何?
やがて、遊史は、決意したように目をあげ、一樹を見て言った。
「ごめんな。」
「?」
何、謝ってんの?
驚く一樹に、遊史は、少し寂し気に笑った。
「俺達、以心伝心だったよな。」
「は?」
以心伝心?
いつのことだよ?
一樹が、遊史の言葉から、紐解こうとする記憶に、以心伝心というフレーズが浮かばない。
けれども、大学に入学してから、ずっと、一樹と遊史は、お互いのことを、よくわかっていたと思う。
お互いのキャラクターがお互いに心地よくて、理解しあえていた。
遊史が望んでいることを、一樹は、想像できたし、一樹の望むことを、遊史は想像できていた。
遊史の母親が死んだ時もそうだった。
遊史が望む行動を、一樹は、想像でき、実行できていたんだと思う。
言葉は必要なかった。
あの時期の事を、遊史は、ずっと感謝していた。
言わなくてもわかる俺達の関係は、確かに以心伝心だったのかもしれない。
遊史のことを、親友以上の形で好きになってしまったあの時までは。
一樹が、遊史を好きになってしまったことから、その関係が崩れてしまったのだ。
一樹自身が、戸惑い、処理しきれずに、遊史を振り回した。
遊史の気持ちを想像する余裕もなかった。なくなっていた。
遊史が、ずっと、歩み寄ろうと努力していたこともわかってる。
ただ、一樹の恋心は、あまりに唐突で、一樹にとっても、遊史にとっても、想定外だったのだ。
あんな気持ちに振り回されていなければ、俺達は、ずっと以心伝心のままで、いられたんだろうか。
俺が、遊史を好きになりさえしなければ、俺達は、ずっと一番の親友でいられたんだろうか。
そう思い至った時、一樹は、ハッとした。
気づかれた?
一樹が、改めて遊史を見ると、遊史は、戸惑うように、瞳を揺らした。
それは、気づかれたと悟った一樹の反応を理解したからだ。
気づかれた…。
一樹は確信した。
いつ?
バレた?
昨日までは、バレてなかったはずだ。
そんな素振りは、全くなかった。
遊史自身が、そんなことに気づく余裕もない状態だったし、夢うつつで、感じたキスも、夢だと思い込んでいた。
キス?
キスの話から?
夢だと思い込んでいたけど、夢じゃなかったことを、一樹の反応から、気づいたのかもしれない。
夢じゃないとわかれば、どうして、そんなことをしたのかと憶測が入る。
言わなくてもわかる。
俺達は、そんな仲だった。
一樹が、遊史にキスをした。
そこから、遊史が、何を理解したのか、容易に、一樹も想像できる。
きっと、この短い時間の間に、この数日の一樹の反応、すれ違ってしまった時期の一樹の態度が、全て、つながったのだろう。
何でもわかりあえる。
俺達は、そんな仲だったから。
だから、「ごめんな」と言った遊史の気持ちも、一樹にはわかってしまった。
遊史のことを、どんなに好きでも、遊史にとって、一樹は、親友以外のものにはあり得ない。
そんなことも、絶望的にわかってしまったのだ。




