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バースデー  作者: K
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17/27

17

遊史は、一樹の言葉を待っていたのか、自分の言うべき言葉を探していたのか、どちらも果たせず、

「帰るよ。」

小さなため息をついて、立ち上がった。

 

着崩れたシャツを軽く直し、一樹のかけたハンガーから、上着をとり、いつの間にか外していたネクタイも、今日は忘れずに、カバンのポケットにつっこんだ。

 

 帰る準備をしている遊史に、何か声をかけなければ…。

 そう思っていても、一樹には、言葉が出なかった。


 冗談にしたり、ごまかしたり、色んなことができたはずだ。

 最低限の言葉で、遊史は、伝えてくれたけど、その極端な言葉の少なさは、一樹に、それを望んでいたのかもしれない。


 何とでもできる。今なら、何もなかったことにもできる。

 今なら、ごまかせる。

 ごまかしてるとわかっても、きっと、遊史は、合せてくれるはずだ。


 とぼけても良かったんだ。

 お前、何、謝ってんだって。

 友達なら当然のことをしたまでだって、遊史の拒絶を、一樹への感謝にすり替えて、恋心を再び封印すればいい。


 一樹が、そうしたいと思えば、遊史は、そのストーリーに乗るはずだ。

 一樹の恋慕に気が付いても、一樹が望まなければ、それをなかったことにしてくれる。

 一樹のしたいように、遊史は、あわせてくれる。

 遊史ならそうする。

 一樹次第だ。

 それも、わかっていた。

 それでも、一樹は、ごまかすことができなかった。


 遊史への気持ちが、あまりにも深く、そして、大学時代に吹っ切れたと思った気持ちが、あっさり覆るほど、強かったことに、今更ながら気が付いていた。

 もう、無理だ。

 限界だ。

 隠し通すことは、できない。

 

「また、お前に助けられた。ありがとな。」

 遊史が、もう一度、礼を言って、本当に帰ろうとしたとき、一樹の手が動いた。


 ぐんと、上着を引っ張られて、遊史が振り向くと、一樹が、遊史の上着の裾を捕まえているところだった。

「?」


 一樹は、うつむいたまま、立ち上がり、遊史にその表情を見せることなく、背後から、いきなり抱きしめた。

「一樹?」


 一樹にはわかってる。

 こんな時の遊史は、戸惑いはしても、無視したり、茶化したりはしない。

 きっと、一樹のことを思い、一樹の気持ちを想像し、今の一樹にとって、一番いいと思う事を選択してくれるはずだ。

 一樹が、遊史に対して、そうしたように。


 遊史の背中は温かかった。

 遊史は、何も言わず、黙っていた。

 これが、今の一樹にとって、必要な時間なのだと、そう思ってくれたはずだ。


 ずっと、このままでいたかった。

 一緒に、いたかった。

 本当に、好きだった。

 好きで、好きで、たまらなかった。


「好きだよ、遊史。」

 小さく、くぐもった声で、一樹は、遊史に告白した。

 小さすぎて、多分、遊史の耳には、はっきりと聞こえなかったはずだが、遊史は、

「うん。」

とだけ言った。


 どのくらいの時間が過ぎたのか、わからない。

 ずっと、背後から黙って抱きしめられていた遊史を、一樹は、ゆっくり解放した。

 遊史が振り返るのがわかる。


 けれども、一樹は、うつむいたまま

「じゃあな。」

とだけ言った。


 遊史の表情は、わからない。

 遊史の身体が、ためらうように動いたが、結局、何も言わずに、静かに部屋から出て行った。

 遊史が出ていくまで、一樹は、顔をあげることができなかった。




本当に終わったな。俺の恋。



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