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パスポートとクレジットカードがあればなんとかなるのは異世界でも同じなのか【連載版】  作者: 陽乃 優一
第1章 パスポートとクレジットカードがあればなんとかなるのは異世界でも同じなのか
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8/10

第8話 帰国後の自宅までの交通費は忘れがち

折り畳み傘ってものすごく重宝するんですけど、国によってはさしてる人ほとんど見ないんですよね。だからもう、目立つ目立つ。

 転移から3か月。

 割と小規模だったダンジョンをそろそろ踏破、という時に、天使っぽい人の声が聞こえた。


「帰還準備が整いました。よろしいでしょうか…」


 ちっ、もう少しだったのに、と思ってしまったのは秘密だ。


「おっそーい。まあ、楽しめたかな、異世界生活」

「そうだなー。でも俺は日本食が恋しい」


 とはいえ、そろそろ限界かなあとも思っていた。ホーム?シックは別にしても。

 俺達はこの街の住人にとっては『旅人』の延長でしかない。討伐もバイトのようなものだ。

 借り続けている宿も安いことは安いが、月単位となると割高だ。金銭的な効率がどうにも悪い。


「アパートみたいのがないのが辛いよね。家は古くても購入ってことになるし」

「年単位にしてもこの古さで金貨百枚ってどうなんだ、と思ったらそういうオチだったという」

「属性魔法を発動できる大型魔石も、私的にお金出して譲り受けるしかないみたいだしねえ」


 いつ帰還するかわからない以上、不動産の類までの現地購入は避けたかったというのもある。

 加えて、あの草原からの帰還になるだろうと考えると、この街からうかつには離れられない。

 ダンジョンがなかったら、1か月で飽きてしまっただろう。そういう意味での限界もあった。


「ダンジョン活動のおかげで貯金結構あるけど、家と魔石2個手に入れるにはちと足りないし」

「よく考えたら、日本でも数百万円の貯金あったって、ホテル住まいでバイトのみは辛いよね」

「賃貸とローンの制度は偉大だな。クレジットカードも活用次第では便利なツールだし」


 などと、妹と地球の制度についてあらためて考察していたりすると、


「あのう、転移場所に移動していただきたいのですが…」

「あー、待って待って、明日まで待って!」

「いろいろ整理・精算しなきゃな。街の人々にも挨拶しないと」


 急いで帰還しようとしないあたり、俺達はここでの生活を気に入っていたのだろう。



 翌日、元の服に着替え、街の人々に身振り手振りで街を去ることを伝える。

 宿やギルド、浴場など、みんな笑顔で見送ってくれた。挨拶の言葉すら覚えられなかったけど。

 しかし、いい人達ばかりだったな。魔物以外は平和だったし。さすが、神々御用達の地。


「言葉が通じなかったことがかえってよかったんじゃないかな?ずっと住むなら話は別かもね」

「特に、宿とギルドの受付の人達にはえらく迷惑かけたかもだなあ」

「折り畳み傘とビニール袋、活用してくれるかな」


 持ち込んだ物品のうち最も驚かれたのが折り畳み傘という。傘自体がなかったようだ。

 転売されてもつまらないので、宿屋備え付けという意図で受付のお姉さんに渡した。

 ギルドには主にビニール袋。あと、剣と防具も安く買い取ってもらった。持ち帰れないし。


 門番の人々に別れを(身振り手振りで)伝え、あの丘の上にふたりで立つ。


「いいですよー」


 その瞬間、空港の出国審査が終わる直後の場所に俺達はいた。

 どうやら、時間経過は全くないらしい。夢でも見ていた気分だが、それでも記憶は鮮明だ。

 というか、妹の雰囲気が冒険者風のままだ。顔つきや背格好が変わったわけではないが。


「あ、あたしの口座の残高!」


 ATMを探しに行く妹。現金引き出しは妹の口座からばかりだったしな。これから香港だし。

 俺は、日本食レストランへ。外国へ行く前の食い納め、ではなく、なつかしの味を求めて。

 とりあえず蕎麦をすすっていたら、妹がふらふらと近づいてきた。


「お兄ちゃん…ゼロがいっぱい…たくさん…」


 神々の皆様は、討伐報酬の換算レートをだいぶ考慮してくれたようだ。

 現地では小金貨が千円弱相当という感じだったが、純金に近かったのかもしれない。


「あ、旅行保険の会社からの入金になってる」

「なるほど、表向きは補償金扱いか」


 3か月ぶりに充電したスマホでネットバンキングを試してみたら、そうなっていた。

 いやしかし、この額…早いところ別の銀行口座を作って小分けにした方が良さそうだ。


「ねえねえ、そういえば香港滞在可能期間って90日だったよね?これだけお金があるなら、」

「学校があるだろが」



 片道5時間弱かけて香港に向かった俺達は飲茶を楽しんだ。そりゃあもうたっぷりと。

 その翌日には慌ただしく観光し、更に翌日には日本に戻った。2泊3日のなんと短いことか。

 空港からは電車で自宅に戻った。俺達にとっては、約3か月ぶりの両親との再会だ。


「あ、説明用の小金貨がポケットに入ったままだった」

「お土産にちょうどいいんじゃない?外国の硬貨は普通、現地でしか手に入らないし」

「これ1枚で数十万円しそうだよなあ…」


 小さな魔石も何個か持ち込んだことに気づいたのは、回転寿司で寿司をほおばっていた時だった。

日本に戻ってきたらとりあえず寿司とお茶ですよね。

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