第7話 荷物を増やすよりも現地調達の方が楽
この作品の特徴のひとつは『言葉が通じないまま』なんですが、似たような作品はほとんどない上に、あっても悲惨な展開であることが多いんですよね。まあ、この作品にしても、兄妹のうちひとりだけが転移していたらと考えると、なかなかに悲しいものが…。
「お兄ちゃん、そっちに2匹逃げた!」
「よっしゃー」
妹が魔力をぶつけて撹乱し、俺がやはり魔力をぶつけてトドメを刺す。
大雑把ではあるが、魔力量が比較的多い俺達には最も手っ取り早い方法だ。
森の中と違い、見晴らしのいい草原ならとばっちりを受けるものも少ない。
「5匹の狂犬もどきげっとー。これで1週間風呂入り放題!」
「俺は塩が欲しいなあ。あと、革袋」
「あ、上着もう一着買わなきゃ」
転移してから2週間。俺達は冒険者として自活できるようになっていた。
きっかけは、妹のあのドンガラがっしゃんだ。異邦人だが良い腕前とギルドで思われたらしい。
日用品のあれこれを揃えた後、ひやかしに再度ギルドを訪れたら、受付嬢にがっしと捕まった。
「んー、威力としてはこれくらいがちょうどいいかなあ。軽乗用車が突っ込むイメージ」
「普通車相当だと素材に傷が付くしな。盗賊相手ならバイク爆走で抑えた方が良さそうだし」
「ダンプカーのイメージで狂犬もどきがミンチになったのも今はいい思い出」
見せられた獣の絵と簡単な地図が書かれた布が討伐依頼書とわかるまで、結構時間がかかった。
既にイメージによる魔力操作にあたりをつけていた俺は、妹とその地図の場所に向かった。
たまたま現れた野ウサギでまず検証したら、ミンチどころか消滅し、ふたりして鬱状態。
「あのウサギさんはちゃんと成仏したかな…。いやまあ、普通に倒したら食べてたろうけど」
「いずれにしても、もっとちゃんとした魔法使いたいよな。呪文と魔石、なんとかならんかな…」
「あれだけの魔石って店やギルドで売ってる様子がないし、『伝説の魔道具』扱いなのかもね」
尋ねたり調べたりできるわけではないからはっきりしないが、たぶん妹の言う通りなのだろう。
ちなみに、電灯もどきに使われていたような小さな魔石はあちこちで売られていた。
買うまでもなく、街の近くの河原でもたまに見つかることがあった。
「小さい魔石は魔力量に関係なく小さな現象しか起きないしな。光ったり吹いたり冷えたり」
「持続時間も数分が上限だったねえ。やっぱり扇風機や冷蔵庫は作れなさそう」
「地球の科学技術を組み合わせれば凄いことができそうだけど、ここで作れるわけではないしな」
帰還の際に魔石を持ち帰っても、そもそも地球で魔力が操作できるかもわからない。
呪文については、もしかするとイメージを湧き起こすためのものでしかないと考えてはいるが。
ここにはない、しかし地球にはある『威力のある人工物』は結構ある。これも現代チートか?
とまあそういうわけで、割と順調に街の周囲の魔物を討伐できている。
大型の魔物は少ないものの数だけは多く、いくら討伐してもし過ぎることはない様子がある。
ただ、倒しただけでは報酬は得られない。素材買取とセットだ。ということで。
「お、重い…。麻袋じゃなくて、亜空間収納とかのチートが欲しいよう」
「諦めろ。俺が4匹持つよ。解体は覚えた方がいいかなあ」
「それでも、素材を運ぶ袋が必要になるよね。ビニール袋にも限度があるし」
ちなみに、ビニール袋は結構な額で売れた。リサイクルしやすいのがいいらしい。
ただ、それほどの大きさではないから、用途が限られる。肉なら細切れにする必要がある。
ポリバケツ用なら討伐でも重宝したのだろうけど、そんなものを観光旅行で持参したくない。
◇
今日も獲物を担いで街の門をくぐる。面白いことに、今ではカードだけで通過できる。
通過の様子を観察し続けてわかったが、俺達のパスポートは『紹介状』みたいなものらしい。
最初に入る時だけ示して、あとは魔力認証を行ってカードを登録、ということだったらしい。
「キャッシュカードやクレジットカードがギルドカードに見えるなんて面白いよねー」
「まあな。顔写真なくても登録認証おっけーなのはわかるけど。もともと名前は刻まれているし」
「でも、あたし未だに名前で呼ばれたことないよ。もしかすると呼ばれてるのかもだけど」
そう、これがずっと言葉を覚えられない原因のひとつだ。
カードの名前がこちらの文字に見えるからといって、俺達がわかる発音で読むとは限らない。
そもそも、発音体系が大きく異なっているような気がする。
「数字くらいは読めるようになりたいけど、どうしてもわからん…」
「十進法でさえないのかもねー。小金貨1枚も銀貨12枚だし」
「昔の地球の貨幣みたく、その辺の換算はまちまちだよなあ」
あるいは、数字は使っていないのか。『25』ではなく『二十五』や『XXV』のように。
とはいえ、お金については騙されたくなかったので、妹と必死になって観察して把握した。
「やっと到着した…。肩が痛いよー」
「荷車のようなものが欲しいよな。高そうだけど」
「車輪があまり使われてないのは不思議だよね。丸く作るのが難しいのかな?」
ギルドに到着し、俺はクレジットカード、妹はキャッシュカードを受付に出し、獲物を降ろす。
最初は報酬・買取全部を硬貨でもらっていたが、最近はギルド預かりにしてもらっている。
防犯になるし、他の街の冒険者ギルドでも引き出せるはずだ。他の街に行くかわからないけど。
「○○!×△△□…×○□□」
「おお、金貨10枚!いつもより多い!宿代20日分以上だね!」
「1週間ほど前払いしておこうか。どうせ元の世界じゃそのままでは使えないし」
結局、俺達は初日の宿の同じ部屋を借り続けている。討伐を始めた3日目から現金払いで。
今ならシングル2部屋にしても良さそうだが、今後のことを考え、ツインのまま貯金している。
「あ、ねえねえ。この絵、ダンジョンじゃない?無限湧きが楽しめるかもよ」
「楽しめるて。ああでも、森の奥にあるのか。何層あるんだろう?やっぱりわからん…」
「明日、虎もどき討伐のついでに様子見に行く?ダンジョン近くで素材買取もしてるみたい」
しかし、ワイルドになったなあ、妹よ。顔つきも精悍になってるような。魔物肉食ってるせい?
運動しまくってるから相応に締まったスタイルにもなってるし。背は相変わらず(略)だけど。
とはいえ、相応の防具を付けて剣を持たせれば…。
「お兄ちゃん、なんか変なこと考えてる?あたしのことジロジロ見て」
「ああ、うん、剣も買おうかなあと思って。護身用の安いやつとか」
「あ、剣もいいね!魔剣やってみたい、魔剣。魔力を剣に漂わせるやつ!」
うん、気のせいだった。こいつはもとからワイルドだ。
まあ、兄妹そろってたくましくなっているわけですが。実のところ、この2週間ですっかり街の人々の注目を集めており、魔力の容姿への影響もあって人気もある…というお約束な裏設定があるのですが、言葉が通じないままである以上、深い関わりを持つことがないという裏設定もあります。




