第6話 浴槽付きの風呂設備は珍しい方である
このあたりの短編からの書き直しはいろいろ思いつきすぎて、時間がかかって&文字数が多くなってしまいました。あ、風呂シーンはありませんよ。
精算については、とりあえず明日のチェックアウト前に他の宿泊客を観察してみることにした。
【スキル】観察、は万能だな。言葉が全くわからない時はなおさらだ。
必ずしも正確なところがわかるわけではないのが難点か。観察対象がなければ無力だし。
「そういえばお兄ちゃん、魔力使ってそうなところをあれこれ見てたら、体にあの雰囲気が」
「俺もだ。こうやって魔力を感じ取っていくことで、魔法を覚える下地ができるのかな?」
「ファイ…やらないし、できないよ、うん。あ、でもなんか、放出するイメージが…」
そよ風が吹くようなゆらめきを物理的にも感じた。念動力…じゃないな。んー、ピンとこない。
ただ、そのイメージで部屋の電灯もどきの宝石を触ったら、俺も数分光らせることができた。
やはり訓練が必要か。誰か本格的に魔法使ってるとこ見せてくれないものか。無難なやつで。
「宿の食堂は本格的な宴会モードに突入してるよ?外はもう誰も歩いてないっぽいし」
「電灯もどきがこれだし、基本的にはやはり早く寝てしまうのだろうな。俺達も寝てしまおう」
「眠れるかなあ。はー、シャワー浴びたい…」
◇
疲れていたのか結局ぐっすり眠れた俺達であった。急な異世界転移でこれもどうかとは思うが。
「お兄ちゃんは神経が図太いのよ。繊細なあたしは…」
「お前、すぐ寝息立て始めてたぞ」
「あ、シャツありがとー。洗ってから返…せないから、しばらく借りるねー」
昨晩、結局シャツだけは寝る前に奪われてしまった。俺はパジャマがあったからいいけど。
そのシャツ、手提げバッグに詰める気かい。ビニール袋に入れつつリュックに戻すしかないか。
そういえば、旅先で便利ってんでビニール袋結構あるけど、こっちの人に見られたらまずいか?
正確には、服や持ち物全部よく見られたらヤバいかもだけど。言葉通じないし、いまさらか。
「そうか!服とか売れば…!」
「お前、元の世界に戻った時のこと考えてないだろ」
◇
宿の朝食は硬いパンと薄いスープのみだった。いや、あるだけありがたかったけど。
荷物を(俺だけ)まとめて受付に降りていくと、お姉さんが食堂に誘導しようとする。
これしかないよとカードをちらつかせても、大丈夫大丈夫という感じで案内してくれた。
「言葉が通じない辺境からの異邦人、って珍しくないのかもね。慣れてる感じ」
「普通に考えれば、ものすごく怪しまれそうだけどな。パスポート&カード効果か?」
「あのゲートって神様達が使うものだったんだよね。この街も国際空港並の場所ってことかな」
いやあ、人種どころか種族がここまで多様だと、秋葉原の方が対応しないか?
「あ、この格好が珍しがられないんなら、ビニール袋売ってみようよ!お店探してさ」
まだそれ企んでたのか。ホームセンターで買った大小百枚入りだからたくさん残ってるけど。
ただなあ、大事にしたくないんだよなあ。元の世界に戻るんならなおさら。
まあ、街を観察して決めよう。現金がほしいのは確かだし。
◇
その後、宿の受付で精算(カード見せただけ)して、明るい昼間の街を歩き始めた。
ちなみに、他の客の精算は現金だったりカードだっりとまちまちだった。
現金客の支払硬貨にかなり差があったのは、連泊だったからだろうか。
「まずは服か。買えるといいなあ。主に金銭的な意味で」
「下着…下着…」
「なんか汗ばんできたしな。初夏みたいな季節なのかな?」
妙に口数が少なくなった妹がキレる前になんとかしたいところだ。そもそも。
「お風呂…シャワー…」
そっちが先だよな、やっぱり。
「宿にないとすると、銭湯みたいなところを探す必要があるのか、あるいは…」
「ま、まさか、有料のお湯で体を拭くだけってパターン!?」
「ゆうべは部屋に運んでいる様子なかったから、それはないと思うけど…」
と話していたら、共同浴場を発見。湯気のような絵と、実際に湯気がもくもく。間違いない。
喜び勇んで駆けていく妹。が、入口で現金払いしている客を見てorzとなる。
あれは銀貨だろうか?お酒よりも安そうだ。少額過ぎてカード不可のパターンっぽい。
「ギルドよ!ギルドを探しましょ!」
「ギルド?銀行相当の組織じゃなくて?」
「たぶん、冒険者ギルド!他のお客のカード、宿の入口にもある『剣と盾』のマークがあった!」
おおう、なんという記憶力。追い詰められてスキル発動?違うか、俺もなんとなく覚えている。
あの宿、冒険者御用達だったのかな?いや、商人風の人もいたな。商業ギルドを兼ねている?
などと考察しながら、大通りをずんずん歩いていく妹を追いかけつつ看板をチェックしていく。
◇
同じマークと思しき看板を掲げた建物を発見した途端、妹は殴り込みのように突っ込む。
おい、それだと冒険者ギルドのテンプレが発生するぞ。いや、ラノベはもうアテにすまい。
「…○○?△△××□!」
「うっさい!」
厳つい冒険者が3人、ドンガラがっしゃんと扉から放り出される。濃厚な魔力を漂わせて。
妹よ、いつからそんなに強くなった?チート?チートなの?こんな時だけラノベ準拠?
ああでも、夜中にいきなりアイス食べたくなってコンビニに自転車爆走させる時に似てるな。
「魔力に対して強くイメージすればいいのかな…?おっと、考察は後回しだ」
扉を開けると、妹が受付でデビットカード(というかキャッシュカード)を見せて叫んでいた。
周囲は、あまりの出来事…があったんだよな、それに呆然とした顔をした人々ばかり。
ん、魔法使い風の人達が結構いるけど、みんなでっかい魔石?が付いた杖を持ってるな。
「とりあえず一万円分!小銭でちょうだい!」
「××、×、□?○○、△□×…?」
「だーかーらー、小銭、硬貨、コイン!」
通じるわけなかろ。指で丸作ってたりもしてるけど、別の意味に捉えられかねんぞ。OKとか。
が、そのうち意図を察した受付嬢は魔法的な板らしきものを取り出し、カードをかざしている。
うーん、こっちの人々にはカードがどう見えているんだろ?やっぱりギルドカードかなあ。
「あ、それ!その小さな金貨を10枚!」
受付嬢がいろんな硬貨を出し、これこれと指差す妹。昨晩の客の硬貨もよく覚えていたようだ。
もっともっとと手振りしたり、カードを指差して不安そうな顔をしてみせたり。やるなあ。
「ありがと!また来るね!お兄ちゃん、あたし先にお風呂行ってくるね!」
「あ、おい…」
「もう、邪魔だって言ってるでしょ!」
最後の台詞は、ようやく回復して入ってきた3人の冒険者に対してだ。壁に叩きつけられたが。
なんとなくいたたまれなくなって、通じない日本語でお詫びをしつつ、俺もギルドを出た。
◇
一時間後、ようやく風呂に入れて御機嫌な妹の姿があった。まあ、俺もだが。次は服か。
「あー、昼まで別行動にしないか?途中にあった噴水で落ち合おう」
「確かに、兄妹そろって下着買いに行くのは変よねー。はい、これ説明用の小金貨」
「さんくす。俺も10枚ほど引き出しておくか」
ちなみに、この街で時計は全く見当たらない。ふたりとも腕時計つけてて良かったよ。
さて、俺はビニール袋が売れるかも確認しておこう。これはさすがにギルドとは別の店かな。
昼飯食べたら、街を出て魔力操作の確認をしよう。誰かが魔法使っててくれたらなお良し、と。
「しかし、あの冒険者ギルドにはあんまり戻りたくないな…。先に魔力操作を確認しとこ」
そうして俺はひとり、街の門に向かった。
ちなみに僕はどちらかというとシャワー派です(どうでもいい)。




