第5話 食文化の違いを楽しめるかは本人次第
僕自身は食事にあまりこだわりはありませんが、機内食でやたらお酒を勧めてくるのはやめてほしいなあというのはあります。そんなに飲むような顔に見えるのかな…。
「…おいしくない」
「内陸部だからかな、塩や胡椒が貴重なんだろう。ハーブとかの発想もないようだし」
「周囲の人達は普通に食べてるねえ。この味が当たり前なのか…」
宿の食堂で晩飯をとったが、味は素材しか活かしていない。スープの具も大根もどきのみ。
肉は割と量があるが、とにかく味が薄い。あと、なんか固い。
パンに至っては、時間が経って固くなったフランスパンのようなものがひと切れのみだ。
「香港の飲茶、楽しみだったのに…」
「まあなあ…」
旅先の楽しみの多くは食べ物に依存している。それは『観光』旅行であってもだ。
少なくとも、多くの日本人にとっては。土産物屋に並ぶ商品の圧倒多数が食べ物だしな。
特別な料理じゃなくても、現地の食事を楽しむのも旅の醍醐味のはずだが、今回ばかりは…。
「お腹すいてるから食べるけど。空腹は最高のスパイス、ってケースバイケースよね」
「明日以降も続くと考えるとなおさらなあ。メニューも少ないし」
「それ、何かに似てるなあと思ったら、アレだよ、飛行機の機内食。選択肢があまりないの」
交通・通信が不便な僻地で多くの人々が暮らしている、という意味では言い得て妙か。
機内食も豪華なメニューに当たることはあるけど、それでも実はファミレスの方が以下略。
「しかしこの分だと、交通網の未発達に加えて、冷蔵・冷凍技術も怪しそうだな、この世界」
「魔法でどうにかならないのかなあ。…あ、もしかして『魔力蓄積』があんまりできない?」
「そういえば、電灯もどきがそんな感じだったな。数分しか冷やせないんじゃなあ」
街ゆえに自給自足ではなく、多くの野菜は期待できない。できても根菜と穀物が限界か。
街で売れないなら、近隣の村でも腐りやすい野菜や果物はたくさん作ろうとしないだろう。
調味料は、たまたま発達しなかったとも考えられるけど、塩と合わせて交通手段が原因かな。
「ああっ、塩ひと袋買ってバッグに入れておけば良かった!高く売れたかも!」
「使うんじゃなくて売るんかい。そもそも、それは自由に転移できる場合の定番だろうが」
「お兄ちゃんも結構その手のラノベ読んでるよね。いまさらだけど」
俺はどちらかというとVRモノが好きなんだよ。仮想世界とリアルを行ったり来たり。あれ?
◇
「うう、なんか胸ヤケがする…。ここの人達、よく平気だなあ。似たようなメニューなのに」
「ただでさえ日本では野菜や穀物が中心だしな。ラーメンライスとか、お好み焼きがおかずとか」
「それはお兄ちゃんの好みでしょ。あー、デザートがほしい」
無茶振りだな、この世界では。砂糖すら存在していないかも。果物も期待しないでおこう。
「でも、お肉からなんか妙な雰囲気を感じなかった?もしかして、魔物?」
「動物が魔法を使えても不思議じゃないしな。街の近くで討伐すれば新鮮な肉も手に入るし」
「でも、固かったよね…」
とりたてて充実感がないところを見ると、魔物の肉で魔力強化、とはいかないようだ。
やっぱり空気中から?それとも周囲の魔力を制御?このまま妹に魔力で負けるのはなんか癪だ。
「□□○?×△△○○」
受付のお姉さんが、お酒のメニューを見せながら話しかけてきた。お酒は別にいいかなあ。
でも、この宿の食堂ではほとんどの人がお酒を飲んでいる。老若男女問わず。
ていうか、お酒だけはやたら種類があるんだな。ある程度の保存が効くから?
「そっか、酔っちゃえば味は気にしなくていいんだー」
「やめとけよ?飲み慣れてないのに無理に飲むと、大変なことになるぞ」
「それ、体験談?」
ああ、そうだよ。こっちのトイレとお友達になるのは勇気がいるぞ。
そんなことを話している間にも、隣のテーブルの客がお酒を注文し、お姉さんが運んでくる。
すると、その客はその場で硬貨を渡した。チップ?
「ううん、あれ、小さいけど金貨だよ。お酒は現金払いのみだったのかも」
「カード経由の『ツケ』にも限界はあるよな。現金もある程度は必要になりそうだなあ」
こちらでのカード精算の仕組みがよくわからないけど、ATM引き出し相当ができないものか。
そもそも、ちゃんとカード経由の精算ができているのかもはっきりせず、不安である。
明日のチェックアウトの時に、意思疎通ができないままもめるのはやだなあ。
「そういえば、両替レートはどのくらいなんだろ。あたしの口座は数万円程度しかないよ?」
「俺のクレジットカードも航空券代やホテル代の支払い前だからなあ。利用可能額厳しいかも」
こうなったら、カード払い精算は全部そちら負担でお願いしたいです、神々の皆様。
声もイメージも何も届かなかった。くそう。
意思疎通については、非英語圏で双方カタコト英語で通じていたと思ったら、全然通じてなかったことが後で発覚した、という方が面倒かもしれません。ええ、ホントに…。




