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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第十ステージ

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107/111

全てはここに繋がっていた

 ラストゲートが見当違いな方を向いて警戒している。その膝裏、内股部分に矢を撃ち込む。それ以外の箇所は全て鎧で覆われているので、撃ち込んだところで弾かれるだけだった。

 刺さって入るのだがダメージはないようで、煩わしそうにしているだけだ。このまま、関節部分を剣山にしてもいいのだが、次のステージに進もう。

 気配の消滅と擬態を維持しながら、忍び足で間合いを詰めていく。相手の視界に入っている筈なのだが、俺の姿を見つけられずにいるな。


 何処まで近づくことが可能なのか。弓を構えたまま腰を低くして、抜き足差し足忍び足を実行する。距離が10メートル、9、8、7、6メートルと縮まっていくのだが、まだ気づかないのか。

 ここまで迫っても反応が無いとなると、実は芝居なのではないかと疑いそうになる。相手の背中側とはいえ、何度かこっちに視線を飛ばしているのに無反応か。


 5、4、3……マジか。ここまで近寄れるとは。ここまで来ると違和感があるようで、慌ただしく見回す姿が不審者のようだ。

 至近距離からじっくり観察してみるが、膝裏と内股部分だけ僅かに鎧の隙間があるだけで、他の部分は完全に鎧で覆われている。勝つ為にはこの鎧を剥がすか破壊しなければならない。

 呼吸をしているのなら水や炎で覆えばいいのだが、兜の下には目以外が存在していない可能性が高い。今までのサイクロプスがそうだったので、ここで仕様を変更してわざわざ弱点を作るような真似をするほど、間抜けではない筈だ。


 『属性攻撃無効化』も、どの程度か調べておく必要がある。残りの距離を一気に地面を滑るようにして詰める。相手もようやく俺の存在に気づいたようだが、遅い!

 膝裏に手を当て『炎使い』を全力で開放する。手の平から生み出された業火が、鎧の僅かな隙間に潜り込み、全身に行き渡る感覚が伝わってきた。


 鎧の関節部分の全てから火を噴き出しながらも、ラストゲートは大剣を振るってくる。今までなら剣筋を完全に見切ることは無理だったのだが、俺の目はその動きを捉え、身体も異様なまでの反射速度で屈みこむと、刃の下を潜り抜ける。

 地面に四つん這いのような格好になり、相手は絶好のチャンスだと思ったのか、全身から炎を噴き出した状態で踏みつけてきた。

 無理な体勢だというのに俺の体がいつもより機敏に動き、あっさりと躱すと距離を取る。


 相手が劣化したのではないかと錯覚を覚えるぐらい、体が異様なまでに軽い。

ラストゲートは炎など気にも留めてないらしく、火を噴き出しながら戦う様は、かなり迫力がある。ラスボスに相応しい姿とも言えるな。

 相手の斬撃を紙一重と言えば聞こえがいいが、ギリギリで何とか凌いでいる。今は素っ裸なので、あの大剣を一度でも喰らえば致命傷は確実だろう。だというのに、『暗殺』『野生』の相乗効果なのか冷静でありながらも、気分が高揚するという何とも表現し辛い感情が湧き上がってくる。


 身体能力の数値上では相手に劣っているのだが、回避能力は相手の剣技を僅かばかり上回っているようだ。

 鼻先を掠めるように刃が通り過ぎたかと思うと、瞬時に刃が戻ってくる。切り返しが素早く、振り終わった後に踏み込まれることを妨害してくる。

 ならばと、再び距離を取って矢を連射するが、盾と鎧に弾かれる。

 この矢では致命打を与えることは無理なようだ。破壊力が足りていない。となると、伸縮自在の棍で何とかするしかないか。


 弓を地面に置き、耳から伸縮自在の棍を取り出す。一振りすると手頃な長さと太さに戻る。『暗殺』の武器補正が棍には適応されないようだが、破壊力だけならこっちの方が上だ。裸に棍というのも酷い見た目だが、弓を持っているよりマシなのか? いや、どっちもどっちだな。

 そんな俺の葛藤も知らず、ラストゲートが大剣を脳天目掛け叩きつけてくる。筋力は相手の方がかなり上なので、棍を斜めに傾け体に添わせ、表面を滑らせて受け流すと、剣先が地面に激突する。

 剣を持つ右側へ、身体を半回転させ遠心力の乗った横薙ぎを、兜側面にぶつける。


 確かな手応えが腕に伝わり、相手も少しだがよろけている。よく見ると兜も少しだけ陥没しているようだ。ダメージが0ということは無いだろうが、これは、あと何発入れたら倒せるのか。

 回避後に一撃を入れ離脱、隙を突いて距離を詰め、またも一撃。それを繰り返しているが、ダメージが蓄積されているようには見えない。

 それどころか、鎧の陥没した部分が元に戻っている。そういや、こいつ『超回復』を所有していたな。チクチクやって、いつか倒すというゲームの王道パターンが全く通用しないということか。

 それに、あまり時間をかけすぎると探索側が殲滅側に全滅させられ、敵が増えることも考えられる。仲間を助けにいきたいなら時間の余裕はない。


 『暗殺』で試していない能力は……毒と罠の効果増か。目の前で罠を仕掛けるわけにもいかないよな。毒、やってみるか。

 棍の突きを間合いの外から放ち、棍を伸ばすことにより相手の距離感を混乱させ、相手の腕を捉える。剣を持つ右脇腹をさらけ出すような格好になったので、そこに踏み込んで屈みこむと同時に、相手の膝裏に手に握りしめていた矢を突き刺した。


 もちろん、鏃には毒をたっぷり塗っている。即座に跳び退き、相手の様子を窺うが変化はない。毒の効果が上昇しようが『状態異常耐性』を越えることは無理だったか。

 これはジリ貧だな。回避は可能だが、決定打が無い。故に相手を倒すことが不可能。少々傷を与えたところで『超回復』が癒してしまう。

 無駄に時間だけが経過する最悪の展開だ。お互い体力が2万を越えているのが更にたちが悪い。疲労を感じないから、いつまでもやっていられる。

 お互いの能力がかみ合わないので、永遠に平行線が続きそうだ。体感では10分程度の攻防だが、実際は一時間以上の時が過ぎているのかもしれない。


 『野生』と『暗殺』のレベルが上がっているらしく、段々と身のこなしが軽くなっていくのを実感している。相手の攻撃に僅かだが余裕を持って対応できるようになってきている。だが、相手の防御を貫く一撃に繋がらないのだ。

 力が欲しい。防御を砕く、一撃必殺の破壊力。


「なっ」


 相手の間合いから外れていたというのに、俺の足首をしっかりと掴む手があった。

 くそっ、油断した。

 相手が正攻法の戦い方を続けていたことで『軟体』の存在が頭から消えかかっていたところに、盾を手放し長くのばされた腕。

 動きに余裕ができたことにより、深く考え込み過ぎていたのも要因の一つか。相手の剛力により、掴まれた足首が異音を上げる。骨が軋む音が体内に響く。

 力では相手に劣るのはわかりきっていた事だ。伸びた腕が一気に縮み、相手の懐に引き込まれそうになるが、棍を地面に突き刺して何とか踏ん張るが、これは一時凌ぎにしかならない。


 このまま耐えたとして、引きずり込まれることは避けられるかもしれないが、先に足首を壊される。そうしたら、機動力を失い、待つのは確実な死だ。

何とか振りほどかなければ――


『ライフポイントが22に減少』


 突如頭に響いた声にすっと熱が引いた。もしかしてこれは――


『ライフポイントが20に減少』


 ラストゲートの特殊能力『ライフポイント吸収』の力か。やばい、これはやばいぞ!

 触れている相手から吸い取ることが可能なのか。これ以上減らされる前に脱出……は諦めるしかない。自害するしかっ。

 全裸なので鏃で指すか、矢筒に入れておいた毒の瓶を煽るしか自害の方法が無い。『毒耐性』を解除して毒を――腕がっ。

 矢筒に手を回しかけたところで、体に綱のようなモノが巻き付きやがった。これは、もう片方の腕かっ。『軟体』を生かして俺を拘束したのか。


『ライフポイントが18に減少』


 完全に動きを封じられた。これでは毒瓶を手に取ることもできない……が、焦り過ぎだ俺。最大火力で炎を生み出し、『熱遮断』を切って一瞬にして燃やし尽くせばいい。

 即決即断だ。『炎使い』で紅蓮の炎を生み……生み……何故火が出ない? もしや、俺の体に触れていることで『属性攻撃無効化』が働き能力そのものが封じられた!?


『ライフポイントが16に減少』


 このままでは、ライフポイントを完全に消滅されるのを待つだけになる。


「必要以上に用心深くて助かったよ」


 本来は紫の沼地に落とされた時の備えだったのだが、舌を奥歯の内側に這わして、そこにある小さな異物を上にずらして、それを奥歯で噛み千切った。

 コンドームの切れ端で包んだ濃縮された毒が喉を通り、俺の記憶がぶつりと切れた。





 見慣れた休憩所もどきの室内であることを確認して、ほっと安堵の息を吐いた。

 念の為に毒を仕込んでおいたのが功を奏した。備えていなければ、あそこで俺はゲームオーバーになっていた。思い出しただけで全身に寒気が走るが、これも生きているからこそだ。

 いつまでも引きずらずに頭を切り替えよう。周辺の気配を探ると、扉の先に何人もの気配を感じる。結構距離があるというのに全員の位置を正確に知ることができた。


 『気配操作』の時よりも広範囲で正確に気配が読めるようになっている。体形も手に取るようにわかるので、女性男性だけではなく剛隆と零士ぐらいなら、気配で区別がつけられるようだ。

 剛隆はもう一つの気配と戦闘中か。相手が吹き飛び、更に突っ込もうとしたところを零士が止めたといった感じか。他のメンバーは突出することなく罠に誘導するか、守りに徹している。攻めと陽動は剛隆、零士の役目のようだ。


 敵は攻めあぐねているな。そこら中に罠があり、近づけたとしても、大木を切り倒して製作した巨大な木製の塀がある。その前には堀があり零士の『水使い』で召喚した水が満載されている。

 油断して近づいてきた殲滅側は零士の操作する水に呑み込まれ、水底に沈められるという結構えぐい罠だ。

 籠城戦では防衛側が圧倒的に有利なのは歴史が証明している。戦力が拮抗していたら、滅多なことでは抜かれないだろう。

 手放しで安心はできないが、まだ慌てる時間ではなさそうだな。


「剛隆、零士、みんな耐えてくれよ」


 届かない声を掛けると、俺は三度、第九ステージの休憩所へ転移した。





 ここですることは決まっている、特殊能力のレベル確認。


 山岸 網綱 レベル212

 体力  526 +20000

 精神力 542 +20000

 筋力  511 +300

 頑強  519 +300

 器用  546 +300

 素早さ 498 +300


 特殊能力 『不撓不屈』2『熱遮断』8『石の匠』5『暗殺』2→3『棍技(網綱流)』5→7『咆哮』10『野生』8→10『未来予知』5→6『炎使い』3→4『麻痺耐性』7→8『幻覚耐性』7→8『毒耐性』7→8『回復力』10『木工』7


 ライフポイント 15/105


 全裸で頑張ったかいはあったようだ。『野生』が10に達した。問題はここからだ。読みが外れていた場合は他の特殊能力を試してみるだけだが。

 『咆哮』の文字に触れるとガラス板に浮かぶ文字に変化があった。


 ――不撓不屈、咆哮、野生、回復に加え黒虎の力を融合してベルセルクに進化しますか? はい いいえ――


 全てが明らかになった。もう一つのキーワードは黒虎の力だったのか。そして、進化先はベルセルク。某有名な漫画だと狂戦士のイメージがあるがベルセルクというのは時代と土地によって、そのありようが大きく異なった筈だ。

 ベルセルクの英語読みが確かバーサーカーだったか。この知識は俺が某漫画を初めて知った時に、意味が解らず調べて得た情報なのだが。

 狂戦士の方なら良いイメージは無いが、北欧神話の方であれば……。


 今まで何度も『未来予知』には助けられてきた。人も製作者も信じられない世界だ、なら一番頼れる『未来予知』に託すのも悪くはない。

 迷いも躊躇いも正直あったが、進化の条件の一つ――黒虎が力を貸してくれるなら、悪いようには転ばないと信じている。

 俺はベルセルクへの進化を選んだ。


『ベルセルク。特定の条件を満たした者のみ進化できる、極めて希少な最上級特殊能力の一つ。鎧を着用することはできない。毛皮や布製品は可。戦闘中は痛みを感じず、尋常ではない回復力を有する。その咆哮は大気を揺るがし、味方と己の戦意を高め、敵対する者には恐怖と威圧を与える。野獣の力を乗り移らせ、一時的に己の限界を越えることが可能となる。ただし、その能力を使った後は虚脱状態に陥る』


 良い方に転んでくれた。ようやく勝機が見えてきた。これなら、ラストゲートを越えられるかもしれない。

 鎧の着用が無理なようだが、元々俺が着ているのはコートだ。一応念を入れて、ロングコートの上半分を畳んで袖を腰に巻き付ける。毛皮の腰布を巻いている蛮族感がでているだろうか。どうせなら成りきった方がいいな。上半身は裸になっておこう。

 武器道具の確認は終えた。最後にもう一度自分のステータスを見ておかないとな。


 山岸 網綱 レベル212

 体力  526 +20000

 精神力 542 +20000

 筋力  511 +300+200

 頑強  519 +300+200

 器用  546 +300

 素早さ 498 +300


 特殊能力 新『ベルセルク』1『暗殺』3『熱遮断』8『石の匠』5『棍技(網綱流)』7『未来予知』6『炎使い』4『麻痺耐性』8『幻覚耐性』8『毒耐性』8『木工』7 


 筋力と頑強に補正が付くのか。これで筋力と頑強はラストゲートを上回った。今度掴まれたとしても、強引に力で振りほどける。 

 これでやりあえる。対等かどうかはやってみなければわからないが、圧倒的不利ではなくなった。

 拳を握りしめ、軽く腕を振るう。ただの素振りだというのに暴風が吹く。『暗殺』を覚えたことにより体が軽くなったが、今度は力が漲っているのが実感できた。


 早くこの力を試したい。この高揚感と自分らしくない好戦的な気持ちは『ベルセルク』の副次的効果なのか。

 『暗殺』の冷静になる効果がなければ『ベルセルク』の力に呑み込まれていたかもしれないな。

 前回とは違い、今度は派手に扉を押し開け、律儀に同じ場所で待ち構えていたラストゲートに――最終戦を挑む。


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