第三十四話「六十六日目」
二ヶ月。
ここまで来ると、なんか色々とめんどくせぇなと思う事が増えてきた。
そもそも俺は、あの時エーレに拾われなかったら、そのまま死んでいた。
拾われたこの今、エーレの世話兼護衛役として、教育されているし、エーレの立場とか聞きたいようで聞きたくなかったようなことまで、聞かされるし。
散々だ。
今日なんて……。
「ねーねー、何してあそぶー?」
「あ! ひとりじめずるい! ゲルくんは私とあそぶの!」
「ぼくだよ!」
「わーたーしー!」
俺の腰ぐらいまでしかない身長のやつらが、俺の周りにわらわらと集まっている。
「なんか……ゲル、お父さんみたい……」
顔を引き攣らせ、笑わまいと必死になり、手で口を押さえる。
「笑ってんじゃねぇよ」
「ワラッテマセン」
なぜ、このような状況になったのか。
エーレが定期的に観察しているという、村の子供達。
今日それをするはずが、エーレに魔法を教えている教師? みたいな人が急病で倒れたらしく、エーレはそのお見舞いに行くそう。
だから、代わりに俺が今日一日、こいつらの面倒を見ることになった。
「ま、これも良い経験だと思って! じゃあ頑張ってねー」
「あ、おい待て! 俺は扱い方もわからねぇガキのお守りなんてごめんだっての!!」
「だから、それも含めて経験だよ。それに……」
俺の耳にそっと囁く。
「早く、私のこと殺したいでしょ?」
エーレからさっと離れ、耳を塞ぐ。
よくもまあ、そんな笑って言えたものだ。
「ほんっとに、趣味悪りぃなお前」
「じゃあ、そろそろ行くね! あ、ゲルはまだ魔力制御が不十分だから、魔力は決して出さないように!」
「そんなの……俺が一番わかってるっての」
駆け足で村から去っていくエーレの姿を、じっと見ていた。
人間を知る事が、エーレに勝てる方法。
それも半信半疑。
こんなガキの世話で何が知れるってんだ。
「ゲルー。どうしたの? おなか、いたい?」
「あ、いや……」
さて、どうしたものか。
ざっと十人ちょっと。
これをどう捌き切るかが鍵だ。
「ねーねーゲル。遊ぼうよー」
遊び……遊びか。
うん、何一つ思い浮かばん。
あいつ……なんかコツの一つや二つくらい言い残しておけよ!!
なんで、俺がこんなこと……。
「ゲル、わたし、まちの方行きたい」
「あ、ああ」
「おれもー」
「わたしもー!」
確かエーレもたまにこいつらを街に連れて行って、好きなもの買わせるとか言ってたな。
今日は念の為と、エーレに結構な金額を持たされている。
「じゃあ、行くか」
街に着いて数分後。
俺はガキを人混みに連れていくことを甘く見ていた。
「ゲルー。ナナちゃんがいないー」
「は?」
「ハルくんもー」
なんでこんな所で迷子になる。
探すのも嫌になってきた。
でもエーレに任されたし、後でもっと大事になるほうがよっぽどめんどくせぇ。
ああ! クソ!!
「お前ら! そこの時計台の前で待ってろ!! いいか、絶対そこから動くんじゃねぇぞ!! わかったか!!」
「らじゃー!!」
畜生……どこだ? どこに行った?
はぐれるとしたら……入り口ら辺か? いや、街の中央とか人が多いしな。
もしかして、街に入るまでに迷ったか?
いないのは、ナナとハルの二人だけ。
俺は昔から、人の顔と名前はなぜか覚えるのが妙に早かった。
貧民街で育ったからかなんなのかは、知らない。
それだけが、唯一の救いだった。
クソ! どこだ!?
「ねぇー! ミミー! ユウー! ルリー! みんなどこー?」
「どこー?」
「あ……」
……いた、見つけた。
二人は街の中央を連なる街路樹のそばで、あいつらの名前をひたすら呼んでいた。
「おい、お前ら!!」
「あー! ゲルー!」
「ゲルだー!!」
俺の姿を見るなり、俺の足元へと駆け寄ってくる。
「手前取らせやがって……なんでちゃんとついてこねぇ!! そんなこともわかんねぇとか、馬鹿じゃねぇの!? 俺はな!! やりたくて、こんなことやってるわけじゃ……」
俺はただ、いつも通り……エーレと話すような感じで、話しただけだ。なのに。
「ご、ごめんなざいぃぃ」
突然二人は大声をあげて泣き出した。
ワーワーと泣き叫ぶ声に、周りの奴らの視線が集まる。
なんで、こうなる!!
見せ物じゃねぇんだよ!!
「お、おい、泣き止めって……」
それでも泣き続ける二人にだんだんと腹が立ってくる。
でもこれでもっと声を上げれば、泣き止むどころか、もっと酷くなるのが目に見えている。
グッと堪えたはいいものの、俺にはこの状況の打開策なんてものは見つからない。
どうする? どうすれば収まる?
思い出せ……エーレがどんなふうに、こいつらと接していたかを……!
「ナナ、ハル。泣いてないで、あいつらのところに戻って街を回ろう。俺がお前らの欲しいもん買ってやるから」
何も思いつかず、これからする事を話した、
なんでエーレのことをもっとよく見てねぇんだ、俺は!!
頭をグシャグシャと掻いていると、泣き声がぴたりと止んだ。
「ほんと!? 買ってくれるの!?」
「え? あ、ああ」
「やったー!!」
……なんだ? この切り替えの早さ。
さっきまで泣いてたと思ったら、今度は笑ってる。
ほんっとに……。
「お前、もう二度と俺にガキのお守りなんて頼むんじゃねぇぞ!!」
「えー、でも良い経験になったんじゃない?」
「どこがだ!? 街で迷子になるわ、買うものはどれもくだらん物ばっかりだわ、俺とは性に合わねぇ。関わりたくもない」
「もう! そんなこと言わない! 子供はね、ああいうものなの!」
どっと疲れた。
こんな生活がこれからも続くってか?
耐えられねぇよ。
ガキってマジで意味わかんねぇ……。
「いい? これが、私を殺せるまでの第一歩よ? そう考えたらやる気、出てくるんじゃない?」
……後先が思いやられる。
もう今日は早く寝よう。
朧月夜。
明日はどうか、楽な一日でありますように。




