表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法に永遠を  作者: にこだ
第二章
PR
34/36

第三十三話「四十四日目」

「うん、口の傷ももう大丈夫そうね」

ユイシェに殴られ、口の端と中のほうが少しだけ切れており、あの日から一週間エーレが治療してくれたおかげで、完治した。

最初口の中を消毒しようと、アルコールを瓶一杯分入れられそうになった時は、夜更けまで逃げ回る羽目になったが……。

エーレも案外不器用だ。

それに、こんな傷ぐらい魔法で治せるんじゃないのか?

もちろん聞いたが、その時のエーレの回答はこうだ。


『犬の世話をするのも主人に課せられた義務なのよ? 魔法じゃなくて、私がこうやって世話をしたいの』


どうして、そんな回りくどいことをするのか。

聞いて呆れる。



「それで? 結局、ユイシェと何があったの?」



やっぱりな……と心の中で呟く。

エーレはこう見えて、人のことをよく見ている。

あの時俺の殺気に気づいたときもそうだし、それはきっと王家がエーレを蔑ろにしているのと何か関係があるんじゃないかと、そう思う。

「別になんもねぇよ。言っただろ、転んだだけだって」

「じゃあ、なんで私の目を見ないの?」

両頬を掴まれ、強制的にエーレと目を合わせられる。

「……」

「嘘吐くの下手すぎ。いつも遠慮なく私に暴言吐く君はどこに行ったの? 嘘を吐くなら、私の目を見て言って」


腹が立つんだよ。

何って、こうやって真っ直ぐ俺の核心を突いてくるエーレにでも、俺のことを殴り足蹴にしたユイシェでもない。



食事会に見たあの顔、ユイシェの言葉一つ一つに頭の中が掻き乱され、衝動を抑えられなかった俺自身に。



「だから、なんもねぇっつってんだろ」

「嘘、ユイシェに何か言われたんでしょ? あの子、いっつも喧嘩腰で外でもよく問題起こすから。なんで、解雇されてないのか不思議よね。多分ビアが結構気に入っているのよ」


グラグラと揺れる感覚がする。


違う……やめろ、詮索するな。

自分の中に知らない自分が居るようで、気持ち悪い。



こんなの……!



「ねぇ、ゲル……」

「うっせぇな!! いちいち聞いてくんな!! 目障りなんだよ!!」



俺の怒号が、この小さな部屋に響き渡る。

ユイシェに言われたことを思い出した。



『お前みたいなやつはなんと言おうと、誰からも信用されない』



そうだ、所詮王家の生まれとそれに拾われた貧民街の子ども。

住む世界が違う。

俺にいたっては、「死神の子」だ。

そんなやつが言う事なんて、誰も信じやしない。




なのに、なんで……こんなにも苦しい?




「お前はいつも、そうやって何も考えずに人の中に勝手に入り込んでくる!! なんでだ!? お前には何の得も……」




「やっと、目が合った」




なんで……笑ってる?

こんなことを言われてもなお、笑っているこいつが俺には理解できない。


なんで……なんでなんでなんで……!


「その方がゲルらしくて、私は好きだよ」


……お前は、俺と違って嘘を吐くのが上手いんだな。

好きなんて、愛なんて、わからないって言ってたクセに。

そういうとこが、イライラして、どうしようもなく……。



殺したくなる。



「お前は……俺のことを信じてくれるのか?」

「どういうこと?」

当たり前のように俺の隣に座り、こちらの顔を伺うように首を傾ける。

「だって、俺は……生まれは、どこだか覚えてないが、育ちは貧民街で……それに『死神の子』だ。厄災だと普通の人間どもからも忌避される存在が、王家なんかに信じてもらえるわけないだろ……だから……」

「ゲル!!」

さっきよりも強い力で、両頬を掴まれる。

痛くはないが、なんだろう。


なぜか、安心する。


「言ったでしょ? 私は、王家だから、庶民だからって差別されるのが一番嫌いなの。みんなともっともっと、仲良くしたい。君は、そんな私の言うことを信じてくれないと言うの?」

「でも、それは……」

「私ね、君と会ってから君に信用されていないなんて、一度も思ったこと無いよ」


瞳が、いつもよりも紅い。

その中に、嘘偽りがないことに、なんで今までの俺は気づかなかったんだろう。

「まあそもそも、低脳だの、殺したいだの馬鹿正直に伝えてくる君が、人のことを信用しないという器用なことができるなんて、それこそ信じられないよ」

「おい」

「でもさ」

頬から手を離したと思ったら、今度は両手を掴まれ立たされる。





「信用されたら、信用し返す! それが人間の性というものだよ!」





俺は、人間について今少しだけ知れた気がする。

でも、先が読めない行動をするこいつになぜか、心がスッと軽くなった。


────心か。


俺にもまだあったんだな、そんなもの。

ハア……。




「……敵わねぇな」




「ん? 何か言った?」

「気のせいだろ」

「あ! またそうやって隠す! 話してくれるまで、日が暮れても追いかけてやるんだから!」

「は!? ちょ、おい! やめろ! しつけぇ!! こっちくんな!! 聞いてんのか!? おい!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ