第二十七話「八日目」
「お披露目パーティー?」
「そうそう。で、式の項目の中に、舞踏の演目があってね。ゲルには私の同伴者になってもらいたいわけ」
俺は踊りなんてしたことないし、どうすればいいのかもわからない。
「断る。俺には踊りなんてできない。もし失敗して、それが王家の失態となったら、困るのはお前たちだ。あと、単に面倒臭い」
「ええー? 大丈夫だよ。当日までみっちり私が教えてあげるんだから」
なんで、そうなる……。
本当にやりたくないんだ。
なのに、この時の俺はどうしたのか、エーレに「お願い……ね?」と弱々しい声で頼まれ、拒否することができず、渋々だが了承してしまった。
「はい、二人とも。次は右足からです。そう、その後は……」
俺と同じ……いや、俺よりもよっぽど辿々しい足取りで、足を動かしている彼女の前で、俺は苛立ちに任せて、声を上げた。
「いや、お前は出来るんじゃなかったのかよ!」
ハハっと苦笑しているが、笑い事じゃないだろ。
「だって……あの時はああまで言わないと、絶対やってくれない雰囲気だったから……」
手拍子をしているエーレの執事•ミシェルの手が止まる。
「ゲルデッド様、お言葉ですが披露宴際エーレ様に対しては、なるべく敬う態度を示すよう、心がけてください」
「なぜだ?」
「もし、披露宴で貴方様がエーレ様に対して、そのような態度を取られては、他の御貴族方に不審がられてしまいますので」
これは、前にエーレに言われたことだが、王家の者が貧民街の人間を匿っているなど知られてしまったら、それこそ王家の名に傷がつく。
その時は、エーレの立場がどうなるかわかったもんじゃないし、俺なんかは王宮から永久追放される羽目になるだろう。
これらを知っているのは現在の王と妃、そして……。
「エーレ姉様ー!! 練習は捗っていますかー??」
ドアをバァン!! と勢いよく開けて入ってきたのは、エーレの弟、ビアトリナル・エギナ。エーレがビアと呼んでいる彼は、エーレと本当に姉弟なんだと思わせるほどの、容姿と性格を持っている。
初めて会った時は、エーレがもう一人いる……みたいな感覚で頭がおかしくなりそうだった。
「ご機嫌麗しゅうございます、ビアトリナル様。この度はどういったご用件で?」
「いや、姉様とゲルの練習を見にきただけだから」
ミシェルの問いに口で答えるだけで、目も向けない。
王族って、執事へのあたりってこんな感じなのか……。
「ビア!! あなたは踊り、大丈夫なの?」
「僕は完璧ですので!」
ふふんと鼻をならす。
「ビア……じゃなくて……ビアトリナル様はどなたと踊るのですか?」
最近少しづつだが、言葉のマナーの授業を受けさせられている。
少なくともビアの前では、エーレと同じ対応ではならないというミシェルの教えだ。
「ビアでいいよ。それで? 踊りの相手ね。隣国の王女とだ。最近彼女と縁談の話が進んでいてね。君も披露宴で一度はお目にかかることだろう」
縁談……それは、伴侶を決める話のことで、そのまま進むと、政略結婚ということになるのだろうか?
あ、でも、そういえば……。
「じゃあ、僕はこれで失礼するよ。これから、剣術の稽古があるんだ。二人とも頑張ってね」
ヒラヒラと手を振り、ドアをパタンと閉めた。
まるで、嵐のようなやつだな。
「エーレ」
「ん? 何?」
「エーレは、本当に踊りの相手が俺でいいのか?」
「どういうこと?」
「エーレには、ビアみたいに結婚する相手が決まってないのかってことだ」
その時一瞬だけ顔が曇ったように見えたが、すぐにニコッと笑いながら。
「あ……ああ! なるほど! そう、まだいないんだよねー。だから、ゲルはその代わり! もし、私に一生を添い遂げる伴侶ができれば、その人と踊ることになっちゃうんだよー」
「ふーん」
「……え?! 残念がらないの?!」
「逆になんで、俺が残念がるんだ」
口を開け、ポカーンと間抜けで心底呆れた顔をしている。
ハアとため息をつきながら「ま、いいや!」と呟く。
「さ! 本番は2週間後! それまで本気でやるよ!」
エーレはそう笑って、俺の手を取った。
俺はあの時、エーレの少しの違和感に気づいていていたのに、気づかないふりをした。




