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風の道を走る  作者: メガネ3353


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第三章

佐伯信一のバスが再び山道を走り出し、車内は静けさに包まれた。

咲は、ノートを胸に抱きながら、窓の外の枯れた山肌をぼんやりと見つめていた。

冷たい風がガラス越しに響くたび、ふと胸の奥にしまっていた記憶が、こぼれ落ちてきた。


あの日、東京のカフェの窓際。

薄暗い店内で、咲はPC画面を前にため息をついていた。

地域活性化の論文を書いていた大学時代の夢。

「過疎地域を救いたい」なんて、あの頃は純粋に信じていた。

けれど、就職活動で現実を知り、同級生たちは次々と都会の企業に就職を決めていった。


自分だけが、何かに取り残されたような感覚。

そんな時、偶然目にしたのが「地域おこし協力隊募集」の小さな広告だった。


―人口わずか60人。風見村で、あなたの力が必要です。


「必要としてくれる場所があるなら、行ってみよう。」

あのときの決意は確かだったはずなのに。

いざ村に来てみれば、現実は厳しく、イベントを企画しても人は集まらず、村の人たちはどこかよそよそしい。

何かを変えたいのに、何も変えられない。

「私、ここで何をやってるんだろう。」

咲は、何度もそう思った。

都会に戻った友人たちのSNSには、キラキラした生活が溢れていて、それを見るたびに胸がチクリと痛んだ。


バスの振動に、咲ははっとして我に返った。

佐伯の言葉が耳に残っていた。

「お前が変えようとしなくても、この村は、なんとかなるもんだ。」


「なんとかなるもんだ……。」

咲は小さくつぶやいた。

心の奥底で、何かが少しだけ軽くなるような気がした。


彼女はノートを開き、ふと走り書きのようにペンを走らせた。

「村を変えるんじゃなくて、私がここで何を感じるか――それを書いてみよう。」


紙の上で、インクの線が踊り始めた。

冷たい冬の朝、バスの中で、咲の心に小さな灯りがともったような気がした。

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