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左遷艦隊  作者: マーキー
南国の司令官
44/50

告白

賑やかな鳥のさえずりを目覚まし代わりに多田野はゆっくりと目を開けた。

コンクリート打ちっぱなしの四角い建物に、芦のような細い植物を編んた蓋のあるリゾートな香りのする窓。天井には細かい装飾が施された天井扇がゆったりと回り、爽やかな早朝の空気を循環させている。南国特有の猛烈な暑さのイメージの強いアメリア諸島だが、湿度がなくカラリとしているため、こうして工夫を凝らし、風を通せば、それほど辛くはない。

窓からは、椰子や珊瑚の白い砂浜が見え、多田野は改めて遠くに来たものだと、年寄りじみた思いをため息とともに吐き出した。

ふと、基地内が騒がしいことに気が付き、軍服を羽織り、当直の兵を呼ぼうとベッドサイドの鈴を鳴らそうとしたところで、大佐と白石の三人が部屋に入ってくる。

「司令。大変です。基地内に侵入者がいたようです。被害状況は確認中です。現在、橘副司令の指揮の元、基地の混乱は収まり、猿渡大佐の率いる捜索隊が侵入者の捜索を行っています。念のため二階堂大佐が司令の護衛をとドアの前で待機しています。各艦の陸戦隊を臨時に基地守備隊と歩哨としたのですが。モロ島の人々は友好的でしたし、まさか、このような事態が生じるとは。」

「被害状況は。」

「昨夜の宿直担当の白石です。歩哨の一等水兵が一人死亡。侵入者の一人は排除しました。隣の薬品倉庫に。狙いは司令だと思われます。」

「軍令部も、今度は直接、来たってわけですか。」

大佐がボソッと言ったのを二階堂が聞きとがめた。

「神城大佐、軍令部とは。なぜ司令が我が国のしかも軍令部から命を狙われなければならないのですか。」

「戦争派の将校たちはそれを使って国民に『戦争継続』を訴えるって事です。」

「しかし、そんなことで騙されますか。」

「軍需産業と財務官僚もグルなら国民など簡単に騙されますわ。」

白石が眠そうな目をこすりながら、言った。

ようやく、被害状況の確認から戻ってきた猿渡が、部屋に入るなり、慌てて多田野と白石の間に割って入り、銃口を白石の額に向けた。

白石は少し困ったように顔を傾けただけだった。

「君は、何者だ。」

多田野がなんの真似か尋ねようとするのを猿渡は止めた。

「薬品倉庫には争った形跡がなく、男の頭部には額の真ん中に銃創がありました。特殊訓練を受けた男が、見ず知らずの一艦長に遅れを取るなどということはありませんし、相当手慣れた仕事だと思います。」

「軍令部特別護衛部隊所属、ナンバー012。」

白石はいつものふわふわとした声ではなく、なんの感情もない研ぎ澄まされたナイフのような低く冷たい声でポツリといった。それを聞いた大佐が驚いたように腰の銃を抜いて白石に突きつけた。部屋は一気に緊張の極地となった。

しかし、事ここに至って多田野は怖いほど冷静だった。

「裏切ったということなのか。」

白石は、頷いた。

「なぜ、裏切った。私を殺せば、貴方は安泰だっただろうに。」

なぜ、そんなことを言ったのか多田野にはわからなかったが、白石はニコリと微笑んだ。

「司令は殺してしまうには惜しいと思ったからです。この人を殺しても国は良くならないと。司令はもう少し司令らしく振る舞っても良いかと思います。」

「司令らしくか。」

多田野は少し考えるように、自らの部下である艦長たちを見回した。いつの間にか銃は降ろされ、皆が白石と多田野の話に耳を傾けていた。

「しかし、猿渡大佐や日野中佐達に何か言えるほど、自分に力と功績があるとは思えない。実際、左遷されてきたわけだし、左遷艦隊のわりには少し危険だけど。」

「司令は艦隊の危機を何度も救っています。」

「自分は初めてお会いした時の司令の言葉に感動してついてきました。これからも変わりません。」

白石は、満足そうに微笑んで、それからしっかりと多田野の目を見た。

「では、司令。司令らしく叛乱罪を犯した人間を死刑に処すべきです。私を。白石乃梨子を死刑にしてください。」

近衛艦隊にたいする明確な叛逆の意思を聞いてしまった以上、未遂とはいえ終身刑は免れないだろうし、この場で殺したとしても文句は言えない。

「司令。少なくとも、終身刑は免れないかと。そうなれば。」

大佐は、多田野にそう耳打ちした。終身刑なら監獄設備のしっかりとした本国に送還される。そうなれば、裏切り者の末路がどういうものか。情けをかけるべきだと大佐は言ったのだった。

「そうだな。」

多田野は短くそう言った。

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