表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第三部 王の居場所】境界のウィル ~王都の騎士団に拾われた少年は、自分が何者かを知らない~  作者: 文木あお
第三部 王の居場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/84

第82話 王都郊外の戦い2

 右翼の崩れは見る見る広がっていった。

 リヒトムンドが状況の報告を求めようと口を開きかけた寸前、伝令兵が飛び込んでくる。


「報告します! 我が軍の右翼部隊が敵左翼部隊によって強襲を受けております! 聖騎士たちが対応にあたっていますが、一部の民兵が逃亡を始めています!」


 わかった、と答え、リヒトムンドは伝令兵に指示を伝える。


「本陣付きの予備を使う。後方部隊の部隊長に右翼の補強に回るように伝え――」


 一息に指示を吐き切ろうとしたリヒトムンドの視界に、新たな展開が飛び込んできた。

 騎兵突撃を敢行したヴェトス軍の一部が、王国軍右翼を切り裂き、隊列の側面から飛び出してきたのだ。

 中央方向に流れた敵騎兵部隊は、王国軍右翼と中央の間を通り、敵陣方向へ駆け抜けていく。


「いや、待て」


 これはおそらく敵陣へ戻るのではなく、弧を描くようにぐるりとまわり、再び王国軍右翼へ突撃するはずだ。

 すでに、王国軍右翼には敵左翼の歩兵部隊が接敵し、前線は乱戦に入ろうとしている。

 ここに秩序だった騎兵の突撃を受ければ、確実に右翼は崩壊するだろう。


「指示の変更だ。右翼の補強ではなく、敵騎兵部隊に当たらせろ。後方部隊は右翼と中央の間を通り、再び突撃してくる敵騎兵の側面を突くのだ。中央の右側の部隊にも参加させろ」

「はっ」


 伝令兵は後方の部隊長の元へ駆けていった。

 やはり厳しい。

 リヒトムンドは細めた目で戦場を見る。

 今回のエンリック王国軍の編成は、常駐の聖騎士六百に加え、志願と徴兵で集めた市民兵二千四百となっていた。

 全軍の八割が戦慣れしていない市民兵で構成されているわけだが、これは何も戦時特例や、編成が間に合わなかったわけではない。

 王都防衛はこの編成で当たることはあらかじめ決まっていたことだ。

 予定と異なるのは、防衛のやり方だ。

 本来の王都防衛は、城門を閉じ、分厚い城壁内に閉じこもる戦法を取る。

 籠城戦になるわけだが、王都ということもあり備蓄された物資も多いため、相当な長期間持ちこたえられるはずだった。

 しかし――


「教皇聖下のご下命か……」


 城門より出、聖騎士団として誉れのある戦いをせよ。

 そう告げた教皇の命により、野戦による防衛を行わざるを得なくなった王国軍は戦が始まるやいなや、苦戦を続けることになった。

 強力な戦闘力を持つ魔族相手に、聖騎士ならともかく訓練もろくに行えなかった市民兵が敵うわけがないのである。

 現にたった一度の騎兵突撃を受け、右翼はその脆さを露呈していた。

 手は打ったがそれが成功したとて、一時の有利を得るだけだ。このまま続けても王国軍の負けは変わらない、戦に長けたリヒトムンドの結論は何度再考しても変わらなかった。


「叱られるだろうが……やはり、あの手しかないな」


 そうこぼすと、リヒトムンドは次の作戦を伝えるため、伝令兵を呼んだ。



    ◇



「急げ! あれがたどり着く前にスペドラと合流するんだ!」


 先頭を走るドラヴァルが馬上から兵たちに告げた。

 フェロナルの騎兵部隊は馬を全力で駆けさせ、敵軍ともつれ合っているスペドラ兵の部隊との合流を目指している。

 王国軍の後方から飛び出した部隊は、離れてはいるがフェロナル隊と並走する位置まで来てしまっていた。


(動きが早い――)


 敵兵は隊列を組み、こちらに追いすがってくる。その動きの巧みさや、騎乗していることを鑑みても市民兵ではなく聖騎士の一団だろう。

 ある程度近づいたところで、敵部隊から魔法が飛んできた。赤熱した魔力の弾丸、魔力の(グランデース・)熱礫(イグネアエ)だ。

 ドラヴァルたちフェロナル兵は盾魔法(クリペウス)を展開し、魔弾から身を守る。

 その行動は行軍の速度に影響を与え、フェロナル部隊は敵騎兵隊に追い抜かれてしまった。


「っくそ!」


 悪態をついたドラヴァルの目の前で、敵騎兵隊は二手に分かれていく。

 一方は方向を変え、ドラヴァルたちフェロナル騎兵に向かってきた。

 そして、もう一方は敵右翼部隊と戦うスペドラ部隊に襲いかかる。

 背後から強烈な一撃を受けたスペドラ部隊は、ことの把握もままならぬまま中央を引き裂かれていった。

 混乱と恐怖の絶叫が戦場に響き渡る。


「目の前のやつらをぶち抜いてスペドラの救援に向かう! 総員、武器構え!!」


 ドラヴァルが背中に背負った大金棒を抜き放つ。

 次の瞬間、フェロナル部隊と王国軍聖騎士部隊は正面からぶつかった。

 振り下ろした金棒が敵聖騎士の剣とかち合い、火花を散らす。


(重い!)


 振り抜けようとした金棒が強い抵抗を受ける。王国が誇る聖騎士の膂力は民兵のそれとは全く異なるものだった。

 それでもなんとか金棒を振り抜き、相手の剣を弾き飛ばす。

 しかし、そのまた次の瞬間には別の剣がドラヴァルに迫っていた。

 手首を返し、金棒で剣を受け止める。角度をつけて剣をいなし、その次の聖騎士に金棒を叩きつける。

 騎士は胸当てでドラヴァルの一撃を受け、吹き飛んでいった。

 次々と現れる聖騎士たちを、ドラヴァルは受け、いなし、叩いていった。

 ドラヴァル自身はまだ傷を受けていないものの、行軍速度はみるみる落ちていく。

 前方では蹂躙されるスペドラ部隊の様が見えた。

 見えているのになかなかそこに届かない。


 フェロナル部隊は向かってきた敵部隊の中央を切り裂き、深く食い込んでいっている。

 敵部隊は二手に分かれ、各個撃破のいい的だ。しかし、それはこのまま敵部隊を通り抜けられた場合の話だ。

 ここで止まってしまっては、敵部隊に前左右を囲まれていることと同義となる。

 そうなれば、逆にフェロナルは外側から押しつぶされてしまうだろう。


「くっ」


 聖騎士の剣の切っ先がドラヴァルに向けて突き出される。

 金棒を振り切った直後だったドラヴァルは、受けも避けもできず、右肩で受け止めざるを得なかった。

 マントのように羽織った鱗長衣(スケイルコート)を貫き、切先が右肩に突き刺さる。


「ぅぉぉおおおおああぁぁぁああらぁあ!!」


 ドラヴァルは金棒を切り返し、聖騎士が剣を握る右手首に叩きつけた。

 固いものが砕ける感触とともに、聖騎士の手から離れた剣が宙を舞う。

 左手に金棒を持ち替えたドラヴァルは、縦横無尽に振り回し複数の聖騎士と打ち合いをはじめた。

 しかし敵もさる者、剣をうまく使いながら、ドラヴァルの一撃をそらし、防いでくる。

 ドラヴァルの前に立つ聖騎士は数をなかなか減らさなかった。

 今や馬の足は完全に止まり、その場での斬り合いに移行している。

 騎兵の長所である機動力を失ってしまった形だ。

 周りを囲む聖騎士がじりじりとにじり寄ってくる。

 後ろから部下の断末魔が聞こえた。


「クソッ! しくじったぜ! このままじゃ――」

「総長! 援軍だ!」


 後方で叫んだ誰かの声に、ドラヴァルは振り向く。

 遥か後方に巻き上がる土煙を伴って、迫りくる友軍の姿が見えた。


「ラティオナル族だ!」


 国王アウグスの出身部族であり、後方予備としてとどめ置かれていたラティオナル族の軍勢が投入されたのだ。

 ドラヴァルの背後から、無数の触手が飛び出し聖騎士に襲いかかる。


「ウィル!」

「ドラヴァルさん! 行こう! 今がその機会だ!」


 ウィルの力強い瞳がドラヴァルに訴えかけた。


「てめえら! 聖騎士なんぞに遅れを取るんじゃねえぞ! ぶっ飛ばせ!」

「おう!!!!」


 ドラヴァルの檄に呼応したフェロナル兵が息を吹き返す。

 フェロナル兵は剣と魔法を巧みに使い、聖騎士たちを圧倒し始めた。


ブォォォオオオオ


 フェロナル兵の活躍により聖騎士の包囲がほころび始めた頃、どこからともなく轟いた角笛の音があたりを包み込んだ。

 ヴェトス軍の符丁ではない。ならば王国軍か。


「撤退だ!」

「兵たちは速やかに後方へ下がれ!」


 聖騎士たちが口々に叫び、戦場を後にしていく。

 声を聞いた王国軍の民兵たちは、こちらに背を向け一斉に逃走を始めた。

 ドラヴァルたちのまわりにいた聖騎士たちも馬を駆り、すでに逃走を始めている。


「撤退だぁ?」


 その場に残されたドラヴァルの部隊は、呆然とあたりを見回した。

 王国軍右翼、中央、左翼の全部隊が後方へ向けて走っていた。


「なんだ、俺らの勝ちってことか?」


 (あざけ)り混じりにつぶやいたフェロナル兵の横で、セオルが叫び声を上げる。


「違う! みんな、あれを見て!」


 セオルの指さした先には、王都アウレクスの正門があった。

 巨大な門が口を開け、その中に王国兵たちが吸い込まれていく。


「逃げ込んでるだけじゃねえのか?」

「違うよ! あれは、あいつらは籠城戦に持ち込む気なんだ! 負けを認めて撤退してるわけじゃないんだよ!」


 籠城戦。巨大な城門と城壁を頼みとし、敵を寄せ付けぬまま閉じこもる作戦だ。

 王都アウレクスの城壁は堅牢である。ここまでの戦闘で被害を多少なりとも出しているヴェトス軍にとって、攻略はかなり難しいものになるだろう。

 籠城が完成すれば、ヴェトス軍は城壁の前で無駄に何か月もの時を浪費し、物資を使い尽くす。

 そうすれば、すごすごと逃げ帰らなければならない。


「セオル! あれは?」


 フローラが何かを見つけた。

 追撃を始めたヴェトスの各部隊を遮るように、聖騎士たちが集結を始めている。


「殿軍だ。ヴェトス軍の追撃をとどめて、少しでも多く兵を城内に逃がす狙いだ!」


 聖騎士の殿軍に守られた王国兵たちは、次々と城門の中へ入っていく。

 ヴェトス追撃軍の戦闘が、王国軍の殿軍と衝突を始めた。

 おそらく全て聖騎士で構成された数百の部隊は、完全に防御に徹し、容易にヴェトス軍を抜けさせない。

 その後ろで、城門の巨大な扉が閉じ始めた。


「扉が!」


 城門が閉まってしまうと、ウィルたちは王都内に侵入できなくなる。

 それは、救出しようとしていたメアウェンとウォーデンブラウン公爵の死を意味していた。


「野郎ども! あれ、やるぞ!」

「総長!」

「待ってました!」


 ドラヴァルの声に、フェロナル兵が歓声をあげる。

 状況がわからないウィルたち三人は、キョトンとした顔をしていた。


「お前ら三人は必ずあの城壁の中に連れて行ってやるって言っただろうが。ついてこいよ!」


 ドラヴァルが手綱を打ち、馬を走り出させる。

 慌ててウィルたちも、後を追った。

 さらにその後ろからフェロナル兵が続く。


「ウィル! フローラ! セオル! 俺の後ろにぴったりつけろ! 遅れたら承知しねえぞ!」

「何が起こるの!?」


 フローラが悲鳴をあげる。


「俺らフェロナルの走り、見せてやんよ!」

「おおおおお!」


 隊列を組み、フェロナル兵が一直線に並ぶその先頭で、ドラヴァルが魔力を高め始める。

 強大な魔力が集まり、燐光がドラヴァルを覆うと、その肌に光る紋様が現れた。


「いくぜぇぇぇええええええ!!!!」


 ドラヴァルから光が溢れ出す。

 光は虹色に輝き、紡錘状にフェロナル隊を包み込んだ。


「ぐっ――」


 グン、と馬が速度をあげた。前傾になっていたウィルの体が前からかかる圧力によって起き上がっていく。


「そ、速度が――」

「速……い……」


 セオルとフローラも上がり続ける速度に苦鳴を漏らす。


仏恥義理(ぶっちぎり)だぜーーー!!!!」


 今や、通常の馬ではなし得ない速度に到達し、一本の矢と化したフェロナル隊は城門に向かって突き進む。

 ドラヴァルの族長家の力、それは、自らの隊を力場で包み込み内部にいる全てを魔力によって超強化する。兵はもちろん、軍馬も例外ではない。

 ドラヴァルの力によって最速の風となった軍馬たちは、もはや目に見えぬほどの速さで足を動かしていた。


「どけえええええええ!」


 ドラヴァルが吠える。


暴走(フェロナル)族だ!」

「ドラヴァルのあれが来たぞ!」

「跳ね飛ばされるぞ!」

「道を開けろ!」


 ドラヴァルたちの目の前で、海が割れるようにヴェトス追撃軍が左右に避けていく。

 むき出しになった王国殿軍の最前にいた聖騎士が目を見開いた。

 次の瞬間、暴走(フェロナル)族は王国殿軍に突っ込む。


「――――ッ!?」


 声を発する間もなく、聖騎士たちが弾き飛ばされていく。

 白銀の騎士たちが空を舞い、鎧に反射した陽光があたりを煌めかせた。

 抵抗を受けることもなく、隊は王国殿軍の陣を突き抜ける。

 城門まであと少し、しかし、その眼前で扉はどんどんと閉じていく。

 城門の前にはまだ中に入り切らない兵たちが溢れかえっていた。

 ドラヴァルたちのまわりに発生した衝撃波が兵たちを蹴散らしていく。


「間に合えええええええ!!」


 扉が馬二頭通れるかどうか、というところまで閉じる中、空気との摩擦で轟音を撒き散らす光の弾丸がその間を駆け抜けていった。


感想やリアクション、お待ちしております。

☆☆☆☆☆評価や、ブックマークもぜひよろしくお願いいたします。


Xやってます。

@fumikiao

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ