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【第三部 王の居場所】境界のウィル ~王都の騎士団に拾われた少年は、自分が何者かを知らない~  作者: 文木あお
第三部 王の居場所

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第73話 里の子

 翌朝、長老会の求めに応じ、ウィルたちは再び昨日の建物を訪問した。

 後で聞いたことだが、この建物は里の集会所であり、現在は長老会が里を運営するための拠点として使っているものだそうだ。

 集会所に入ると、昨日と同じく長老たちが車座になって座っていた。


「おはようございます。ウィル様」


 ウィルの姿を認めると、長老たちは一斉に頭を下げた。

 まだ、慣れない光景にウィルは面食らう。


「えっと、おはようございます」

「さ、こちらへ」


 ウィルとドラヴァルが車座の一角に案内される。

 セオルとフローラの席はなかったため、二人はウィルの後ろに陣取った。

 全員に昨日出されたものと同じ飲み物が配られる。

 セオルとフローラの分も用意されており、ウィルは少し安心した。


「昨日はよく眠れましたかな」

「え、ええ」


 最長老の問いかけに答えつつ、ウィルは香草茶を少し舐める。蜂蜜の甘さが体に優しかった。


「今日はこれからの話をするために来ていただいた。昨日の話は覚えておられますな?」

「はい」


 これまでわからなかった自分の出自が明らかになったのだ。忘れるはずがない。


「我らスペドラの民は十二年前のあの日より、族長のいない日々を過ごしてまいりました。知っての通り、ヴェトスの王は各部族の族長から選ばれるものです。族長のいない部族からは王が出せない。当然、政治的発言力は弱まる。月日が経つごとに我らは苦しい立場に置かれていくことになったでしょう。いずれスペドラ族は散逸し、消滅する運命にあった」

「……」

「そこへあなたが帰ってきてくださった。ウィル様、どうか」


 カスティガルを始め老人たちが深々と頭を下げる。


「どうか、我らの族長に」


 前日の流れからこうなることはわかってはいたが、いざ直面するとウィルは返答に窮した。

 これまでは駆け出しの騎士団員だったのだ。幼馴染組でリーダーの役割をすることもあったが、それもたった四人のことだ。

 族長として部族全体をまとめるなどできるわけがない。


「あの、顔を上げてください」


 ウィルの求めに応じて、老人たちは頭を上げる。


「俺……急に族長なんて言われても、何をすればいいかわからないし……スペドラの皆さんに対して責任を持つなんてとても……」

「いきなり全てをできずとも良いのです。我ら長老会がウィル様をお支えしますから」

「でも!……王都のこともあるし」

「ウィル」


 ドラヴァルが声をかけた。


「みんなの思いを汲んでやっちゃくれないか。族長不在になってからこっち、爺さんたちは必死に部族をまとめてきたんだ。さっきも言ってたようにスペドラは族長を失って先が見えない状況だ。お前が族長としてそこにいるだけでもずいぶん違うんだよ。爺さんや部族の皆が前を向けるようになるんだ」

「……」

「ウィル、僕はウィルは族長になるべきだと思う」

「セオル?」


 セオルが身を乗り出して話に入ってくる。


「王都のことってきっとメアウェン団長のことだよね? 詳しい状況はわからないけど、もしメアさんたちに何かあって僕たちが助けに行かないといけないとしたら……相手は王国だ。僕たち三人だけだと難しいと思う」

「スペドラの人たちを巻き込めっていうの?」

「巻き込むんじゃないよ。助けてもらうんだ。ウィルは族長になってスペドラの人たちを助ける。そのかわり、いざというときには協力してもらうんだ。そんな風に考えたらどうだい?」

「……」


 セオルの言うことには一理ある。王国を相手取って戦うとなれば、少なくとも聖騎士団が立ちふさがるだろう。

 霊廟で見たアルフリクや他の聖騎士たちの戦いぶり、一人ひとりが自分やフローラ、セオルと同等以上の力を持っていた。それが何千人もいるのだ。

 たった三人で挑むのは、無謀と言えた。


「だけど……族長になったら、もうあそこには戻れない……」


 セオルたちと遊んだ街、王都アウレクス。フローラと競うように鍛錬を繰り返した場所、傭兵騎士団。そして、母メアウェンと姉リンと暮らしたハースウィン家。ヴェトスの族長になってしまったら、もうあの場所には帰れない。あの人生は二度とウィルの手の中に戻ってこなくなるのだ。


「……」


 それを聞いた一同は黙りこくってしまった。


「わかりました」


 カスティガルが重い口を開いた。


「カスティガル殿!?」


 まわりの老人たちが驚いてカスティガルを見る。


「ウィル様はこの里で育ったのではない。族長になると言い聞かされてきた訳ではないのじゃ。突然言われても心の整理はつけられんじゃろう。それに、ウィル様は王都にやり残したことがある様子。それを解決せん限り、族長にはなってくださらんじゃろう」

「それは、そうですが……」

「ウィル様、我らスペドラの民、ウィル様のやり残しを手伝わせてもらいます。それが解消した暁には、また考えてもらえませぬかな」

「そんな、こっちだけ手伝ってもらうなんて」

「良いのです。我らは何も自分たちの利益だけを求めて、ウィル様に族長になってもらおうとしているのではないのです。ガリエヌス様、いや、ガリエヌスの坊っちゃんは里で育った儂らみんなの子供と言っていい存在じゃった。そのお子であるウィル様も同様じゃ。子供を助けるのは親の務め。儂らはあなたを助けたいのじゃ。これは交換条件などではない。親のおせっかいとでも思って受け取ってくださらんか」


 周りの老人たちも頷いている。気持ちとしてはカスティガルと同じものを持っているようだった。


「ウィル」


 セオルが隣からつついてくる。好意は受け取っておけと言うのだろう。


「そこまで言ってもらえるなら」


 ウィルは了承した。


「うむ。これは儂らが順番を間違っておったのじゃ。族長になる前にまず里の子、里の民となってもらうのが先じゃったわ。ウィル様、受け入れてくれて感謝しますぞ」

「あの、こちらこそ、これからよろしくお願いします」


 ウィルは頭を下げた。

 カスティガルは微笑みながら頷いている。


「さて、ひとまずこの話題は良いとして、もう一つ相談があるのじゃ」

「相談?」

「ウィル様は王都から来られたと言っておられましたな?」

「ええ、そうですが」

「おい、連れてきてくれ」


 ウィルの肯定に頷くと、カスティガルは手近にいた老人に声をかけた。

 頼まれた老人は、わかりました、と返答すると、集会所を出ていく。

 しばらくすると、老人が若者二人を連れて集会所に戻ってきた。

 若者二人はさらにもう一人を連れている。

 後ろ手に縛られ、両脇を抱えられて連れてこられたその人物はウィルたちにとって良く見知った顔をしていた。


「フェイ!?」


 ウィルたち三人がフェイに駆け寄る。

 フェイは疲労の色は見えたが、特に怪我などはしていないようだった。


「なんだい、やっぱりここにいたのかい」


 フェイが疲れた顔でにやりと笑う。


「縄を、縄を解いてください。この人は私たちの知り合いなんです」


 フローラが老人たちに頼んだ。


「やはりそうか。縄を解いてやりなさい」


 カスティガルの命によって、若者たちがフェイの縄を解く。

 自由になったフェイは手をぶらぶらさせ、縄の痕がついた手首をさすっていた。


「フェイ、ポーション飲む?」


 ウィルが腰からポーションを取り出し差し出す。

 受け取ったフェイはグビグビとポーションを(あお)った。


「はあ、まったくひどい目にあったよ」

「この者は一昨日の晩に現れてな。里のことを嗅ぎ回っておったのじゃ。怪しいので捕まえて閉じ込めておったのじゃが、やはりウィル様たちの知り合いであったか」

「どうしてここに?」


 フローラがフェイに尋ねる。


「あんたたちを探しにきたんだよ。急に姿を消すもんだからさ。それに今王都ものっぴきならないことになっていてね」


 フェイはちらりと老人たちを見た。

 話を聞かれるのは良くないと考えたのだろう。


「この人たちは大丈夫だと思う。たぶん、協力してくれるよ」


 ウィルが老人たちを見て言った。


「儂らはウィル様のために働くと誓った。聞いたことを口外してまずいのなら、そう言ってくれればここだけの秘密にしておこう」

「あんたはどうなんだい? この爺さんたちと同じ立場なのか?」


 フェイが話を振った相手はウィルの後ろに腕組みをして立つドラヴァルだった。

 フェイは優秀な斥候であり、間諜でもある。ドラヴァルを見て何か違うと感じたのだろう。


「確かに俺はこの爺さんたちとは立場が違う。スペドラでもねえしな。だが、俺はウィルの母ちゃんだ。ウィルの不利になるようなことはしねえ」

「母ちゃん!?」


 フェイの驚いた声が響く。


「ウィル、あんたさっきからウィル様とか母ちゃんとかどうなってんだい? この女が本当の母親だったのか?」

「ああ、いや、ちょっとややこしいんだけど」


 ウィルはここまでのことをフェイに説明した。

 大聖祭で起こったこと、そこからの逃走劇、ウィルが先王ガリエヌスの子であり、ドラヴァルは育ての親タレンの婚約者であったこと、その流れからドラヴァルが母親を自認するようになったことも。


「なんというかまあ、えらいことになったんだね」

「俺も驚いてるよ」

「まあ、新しい縁ができたんなら大事にしなよ。人を軽く見るやつは破滅するからね」


 そういうとフェイは一同を見渡した。


「今から話すことは、王都の内情だ。あんたらヴェトスにとっちゃ有益な情報になるかもしれない。だが、これはウィルにとって大事な人の命に関わる話でもある。ウィルを想うなら、ここだけの話にして欲しい。黙っていることが祖国を裏切ることになってもだ。了承できないってんなら、あたしらを解放してくれ。どこかよそでやるよ」

「儂らはウィル様の信頼が欲しい。聞いた話は口外しないと誓おう。皆もそれで良いな」


 カスティガルの確認に老人たちが頷く。


「そっちのあんたはどうなんだい?」


 フェイがドラヴァルを問いただす。


「さっき言ったとおりだ。黙ってろってんなら黙ってるさ。女に二言はねえ」


 答えに満足したフェイは、現在の王都の状況を話していった。


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Xやってます。

@fumikiao

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