第54話 アウレクスの霊廟3
高く上げられた神像の右拳がヘレワードに向かって降ってくる。
ヘレワードは横っ飛びに転がり、叩き潰されるのを回避した。
メアウェンの放った魔力矢をきっかけにして、神像は標的をメアウェンたちに変更していた。
跳ね起きるヘレワードの脇をメアウェンが走り抜けていく。僅かに残る自己大強化魔法の淡い光が残像としてメアウェンの軌跡を示していた。
再び持ち上げられようとする神像の拳にメアウェンの剣が叩きつけられる。しかし、間に合わず、右手の親指を切り飛ばすにとどまった。
神像の後頭部に爆発が起きる。聖騎士たちの火球魔法が直撃したのだ。
神像は振り返り、聖騎士たちに攻撃を始める。
「メアウェン、やつを止めるにはどうすればいい」
ヘレワードがメアウェンに近づいてきた。
「まずは動きを止めなければなりませんが――」
「ならば、四肢の破壊か」
「しかし、神殿前の像は四肢を破壊しても宙に浮きました」
「あれに翼はない。やってみる価値はある」
メアウェンは聖騎士と戦う神像を見る。確かに神殿前にあった神像と異なり、背中に翼は生えていなかった。あの時は翼に魔力の光のようなものが宿り、その後浮かび上がったはずだ。
「そうですね。他に案も無し、やってみましょう」
メアウェンとヘレワードは頷き合い、神像に向き直る。
神像は聖騎士たちによる魔法攻撃を全身に浴びていた。
『聖騎士が余に歯向かうか』
神像が厳かに右手を上げる。その掌に光が灯ると、神像はゆっくりとその手をおろし始めた。
「ぐぅッ」
聖騎士たちが何かに耐えるように声を漏らす。
四人の聖騎士たちの膝が地面に落ちる。それはまるで、何か見えない力に上から押さえつけられているかのようだった。
『頭を垂れよ、神の御前なるぞ』
聖騎士たちはなんとか抗い体を起こそうとするも叶わず、ついには地面に倒れ伏してしまった。
「ヘレワード様!」
「おう」
メアウェンとヘレワードが神像のもとに走る。部屋にはメキメキと聖騎士たちの鎧が潰れる音が響き渡っていた。
自己強化魔法の力で大跳躍した二人の剣が、魔力の光の軌跡を残し、神像の両肩に吸い込まれていく。
「でぇぇえぇええい」
きれいな半円を描き、刀身が神像の腕の付け根をくぐり抜けた。一瞬の間を置いて、神像の左右の腕が地面に落下する。
ドゴォンという音とともに砕け散った石床の欠片があたりに飛び散った。
地面に着地したメアウェンとヘレワードは聖騎士たちのもとへ駆け寄る。
「大丈夫か!」
不可視の圧力から解放された聖騎士を助け起こすが、すでに彼は意識を失っていた。見ると鎧の背中の部分がべこりとへこんでいる。おそらく肋は折れているだろう。
ズゥンと神像が一歩踏み出した。残念ながら治療をしている暇はない。
『神に傷をつけるなど、何たる不遜。神罰を受けよ』
「貴様はただの石像だ! 神ではない!」
メアウェンは叫ぶと神像に向かって走り出す。神像の右足が持ち上げられ、メアウェンを踏み潰すべく地面に叩きつけられた。
咄嗟に飛び退って回避したメアウェンはすぐさま跳躍、腿に向かって剣を振り下ろす。
しかし――
「がはぁッ!」
何かに背後から打ち付けられ吹き飛んだメアウェンは、壁に激突し息を漏らす。
衝撃で霞む視界に見えたのは、宙を舞う神像の両腕だった。
「メア!」
ウィルの叫ぶ声が聞こえる。
「くッ」
体を起こそうとするメアウェンに神像の空飛ぶ拳が再び叩きつけられた。
「近衛騎士たちよ! 二人こちらに加勢せよ! 残る二人は陛下と閣下を連れて前の通路まで下がるのだ!」
叫ぶヘレワードのもとへ、上空の左手から無数の魔力矢の雨が襲いかかる。
咄嗟に盾魔法を展開し防御姿勢を取ったヘレワードだったが、その物量に抗えず、盾魔法は砕け散った。光の矢がヘレワードに突き刺さっていく。
「ぐふぅ」
たまらず、ヘレワードは膝から崩れ落ちていった。
加勢に来た近衛騎士たちは負傷した二人の騎士団長のもとへ駆け寄る。
しかし、神像は近衛騎士たちに構わず、ぐるりと首を巡らせた。
その視線に捉えられたのは、ウィルたちだった。
◇
神像がズン、ズンと石床を踏み割り、こちらに向かってくる。
『余の霊廟を侵す不埒なヴェトスよ。ここにいることが罪と知れ』
神像が首を前に突き出すと、顎が落ち人間にはなし得ないほど大きく口を開けた。
光が集まり、口腔に魔力が凝縮していく。
「盾魔法を! 魔砲が来る!」
ウィルの指示にリン、セオル、フローラがそれぞれ広範囲盾魔法を展開する。
「子供は下がっていろ」
四人を押しのけて前に出たのはアルフリクだった。
アルフリクは魔力を集中させ、三重防御魔法を発動させる。
重なり合った魔力膜が仲間全員を覆っていく。
「来るぞ!」
たまり切った魔力が奔流となって、ウィルたちのもとへ迸る。
魔砲と盾魔法がぶつかり合い、閃光を放った。
光が視界を埋め尽くし、弾かれた魔力が壁に、床に傷をつけていく。
「ぐぅぅうう!」
重圧に耐えるアルフリクが押し込まれ、かかとがじりじりと後に下がっていった。
『受け入れよ。これは神罰である』
宙に浮かんだ両腕から更に魔砲が放出される。
三本の魔力の奔流は、この場にそぐわない客を排除するべく、その力をアルフリクの盾魔法に叩きつけた。
ピシ、と音が鳴り、第一の膜に亀裂が入る。
「く、まずい!」
アルフリクは態勢を立て直そうと魔力を更に込めるが、だんだんと亀裂は広がっていく。
そして破壊音とともに、第一の膜が砕け散った。
「お前たち、ここを離れろ! 聖下を連れて逃げるのだ!」
「まだだ!」
振り返りそう言ったアルフリクに、ウィルは否定の答えを返した。
アルフリクの隣に立ったウィルの体に、紋様が浮かびあがる。
「そう、まだ手はある!」
反対側からフローラが声をかける。こちらも両腕から顔にかけて紋様が浮かび上がっていた。
「「三重防御魔法!」」
二人が揃って発動した三重防御魔法がそれぞれ三枚の魔力膜を展開し、アルフリクのものと合わせて合計八枚の魔力膜で防御を固める。
八重防御魔法と化した魔力の膜は、三本の魔砲を正面から受け止め、びくともしない。
魔力膜にせき止められた魔砲は徐々に威力を無くし、ついには消滅してしまった。八重防御魔法が魔砲を完全に防ぎきったのだ。
「はあっはあっ」
肩で息をするウィルを神像がギラリと睨みつける。
『貴、貴様……スペドラの者か!』
周囲の魔力が神像に吸い上げられていく。目に見えるほどの魔力の渦が神像に絡みつき吸収されていった。
『許さぬ……許さぬ! スペドラの追手などに余は捕まらんぞ!』
神像の両手に魔力が集中していく。両掌に強く輝く光が灯ると、神像はそれを振り下ろした。
「きゃぁああぁあああああ」
リンの叫び声が響く。ウィルも苦しみに声ならぬ声をあげた。
先程聖騎士たちを押しつぶした、不可視の圧力がウィルたちに襲いかかっていた。
アルフリクやレオフたちも苦痛に顔を歪め、すでに床に這いつくばっている。
『潰れよ! 余が正義である!』
全身を、顔面を地面に押し付けられ、ウィルは必死に耐える。しかし、気力だけではどうにもならず、全身の骨がきしみを上げた。
バキッと音を鳴らし、地面に亀裂が入る。次の瞬間、地面は一気に崩れ陥没した。体を支える地面の感覚がなくなり、浮遊感がウィルたちを襲う。床が抜け、現れた暗い大穴の中にウィルたちは落下していった。
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