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【第二部 神の残影】境界のウィル ~王都の騎士団に拾われた少年は、自分が何者かを知らない~  作者: 文木あお
第二部 神の残影

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第47話 国王との謁見

「王国傭兵騎士団団長、上級騎士爵メアウェン・ハースウィン。副団長、下級騎士爵アルド・ピンクホイッスル。――以下、同席の者、リンヴァリエル・ハースウィン。ウィル・ハースウィン」


 侍従による呼び込みの声が響く。一拍置いて、小広間の扉がゆっくりと開かれていった。

 扉が開ききるのを確認したあと、メアウェンたちは小広間に進み入る。

 正面には背もたれの高い椅子に腰掛けた王、その右後ろに侍従長を務める初老の男性が控えている。王の傍らには小卓が置かれており、水差しが載せられていた。

 その外側には先程あった公爵二人が控えていた。

 手前の左右に立つきらびやかな金属鎧を身に着けた兵から、少し圧力を感じる。近衛騎士団だろうか。ウィルは目を合わせないように伏し目がちにしておいた。

 メアウェンが床に敷かれた豪奢な絨毯の縁まで進み、深く一礼する。ウィルもこの一週間で覚えた作法をなんとか思い出しメアウェンに続いた。


「近う」


 王が言葉を発する。

 アーブリス二世。エンリック王国の第十二代国王であり、国祖アウレクスの子孫。人口七万人を誇る大陸最大国家の頂点に立つ人物だ。

 人格者であり民に好かれる評判の良い王ではあるが、その治世は波乱に満ちていた。エンリック王国歴代の王の中で唯一、他国へ侵攻するという、現在人魔戦争と呼ばれる戦争を起こしたのだ。評判とは裏腹に好戦的な王と見る向きもあるが、国の中枢に関わる者には、また違う感想を持つ者も多い。曰く、あれは陛下の望みではなかった、と。

 メアウェンたちは絨毯の上を進み、部屋の中央を超えたあたりで(ひざまず)く。


「よく来た、よく来た。(おもて)を上げよ。今日は非公式の場だからな。堅くなる必要はないぞ」


 ふくよかな身体を揺らし、アーブリス二世は嬉しそうに言う。まだ四十に届かぬこの国王は人と話すのが好きなのだ。


「久しいの、メアウェン。息災にしていたか?」

「は。陛下もお変わりなく」


 アーブリス二世はニコニコしながら頷く。


「神像の件、よくやってくれた。そなたらが止めてくれなければ、どれほどの人死が出たかわからぬ。感謝するぞ」

「職務を果たしたまでです」

「教会の手前、表立って褒美をやることはできんが、余が感謝していたこと覚えておいてくれ」

「過分なるお言葉、痛み入ります」


 メアウェンは頭を下げる。


「その少年が例の者か?」


 アーブリス二世が、メアウェンの後ろに控えるウィルを指して言う。ウィルは、自分の話になるとは思っておらず、驚きとともに一気に身を固くした。


「はい、先日正団員に昇格したウィル・ハースウィンです」

「ハースウィン? そうか、メアウェンの養子なのだったな。ウィルと呼べばよいかの?」

「は、はい!」

「ウィルよ。そなた魔族らしいな」


 ウィルにはその時、空気が変わって見えた。

 そのことを言及されることは予想していたはずであるのに。出自を咎められるならこの場にいることすら許されてはいないということもわかっていたはずであるのに。

 ウィルには王が次の言葉に何を選択するのか、想像すればするほど恐ろしくなっていった。


「あ、その……」

「どうなのだ?」

「はい……そうです」


 アーブリス二世がうなずく。


「そなたは身を盾にして王国民を守ったそうだな。その時、アウレクスの翼を身にまとった。間違いないな?」

「はい……」

「陛下、あれを“アウレクス神のもの”と断ずるのは――」


 メアウェンが口を挟む。しかしそれを遮るようにウォーデンブラウン公が口を開いた。


「メアウェンよ、今はウィルの翼がアウレクス神と同じ物かどうかは問題ではないのだ。あの事件以来、王都の世論は真っ二つに割れておる。片や、翼は魔族を受け入れよ、というアウレクス神の思し召しである。と、唱え、もう一方は、魔族でありながらアウレクス神の姿を真似るとは不敬である。とな。しかし、考えてもみよ。これまで民の殆どは魔族を(いと)んできたのだ。それが国民の半分が魔族を受け入れるべしと、声を上げておる。これは驚くべきことだ」


 アーブリス二世は椅子から立ち上がり、ウィルのもとへやってくる。


「ウィル、そなたは魔族でありながら王国民を守ってくれた。これまで多くの嫌がらせを受けてきたであろうにだ。余はそなたやそなたの同胞にお返しをせねばならん。だが、余は情けない王でな。余だけでは何もできんのだ。すまんがそなたの力を貸してくれんか」

「お――あ、私のできることでしたら!」


 満足げに微笑むとアーブリス二世はメアウェンに向き直った。


「来月の大聖祭の護衛に傭兵騎士団を参加させたい。メアウェン、そなたとこの者、ウィルは必ず参加してもらいたいのだ。構わぬか?」


 大聖祭はルクサウレア教最大の祭である。国祖アウレクスの命日に行われ、アウレクスの子孫であるエンリック王国国王と、ルクサウレア教の最高指導者である教皇がともにアウレクス霊廟に入り、決められた儀式を行う。

 当日は大々的な式典も行われ、建国祭と並ぶエンリック王国の二大祭と言われていた。

 霊廟の内部には一年をかけて流れ込んだ魔力が滞留している。そこから、人々に危害を加えるものが生まれる事があるのだ。大聖祭は霊廟内の魔力を祓い、生まれ落ちた魔物を討伐する目的がある。


「我々は構いませんが、護衛は近衛の方々が行うのでは?」

「余の護衛はな。守ってもらいたいのはレオフ聖下の方だ」

「教皇聖下を? それこそ、聖騎士団が黙っておらぬのでは」

「何かは言ってくるかもしれんな。だが、国王と教皇、この国の頂点から申し付けられては黙るしかあるまい?」

「それはそうでしょうが……いや、教皇聖下もご了承済のことなのですか。しかし、なぜでございます? 通常であれば大聖祭の護衛は近衛騎士団と聖騎士団、我々傭兵騎士団は外部の警備と決められていたはずです」


 得心しない顔でメアウェンが疑問をぶつける。

 メアウェンの疑問には王の代わりにウォーデンブラウン公が答えた。


「もちろん、傭兵騎士団には外部の警備も担ってもらう。それと別に護衛にも入ってほしいのだ。理由は二つある」


 アーブリス二世が再び椅子に腰掛ける。


「一つは親魔族派への援護のためだ。魔族であるウィルがアウレクスの翼を持ち、教皇の護衛として陛下とともにアウレクス霊廟に入る。民に対して神と国が彼らを受け入れていることを見せるのだ。そうすれば親魔族派へと世論も傾いていくだろう。もう一つは……」


 言いかけてウォーデンブラウン公は少し言葉を切る。


「反教皇勢力への警戒のためだ」


 室内の空気が変わる。公の場ではないとはいえ、ルクサウレア教の最高指導者である教皇へ反発する勢力がいるということが国王の前で語られるのは重大な出来事だ。侍従たちや近衛騎士たちにも緊張の色が見える。


 王国の権力構造は二つに分けられている。国王が持つ王権と教皇が持つ聖権だ。世俗的な権力を持つ国王と宗教的な権力を持つ教皇が、牽制しあい、時には助け合い王国を運営していく。通常、外から見た場合はこの二つが対立していると捉えられることが多い。

 しかし、現在のエンリック王国においてはそれは間違った捉え方だ。教皇レオフは国王アーブリス二世と親しく、政策的にも同じ考えを持っている。彼らは融和的で、人魔戦争後に魔族を王国民として受け入れたのもこの二人の主張によるものだ。


 国王側の勢力は概ねこれに同調しており、問題はない。しかし教会側は違った。魔族や他種族に対して排斥し、自分たちより下の身分に置くことを訴える一派がいる。彼らはアウレクス神から生み出された最も新しい人である人間こそが至高の存在であり、その他種族、ことに最も古い魔族は卑しい種族であると主張する。

 その一派の頭目こそが、キネムド枢機卿だった。キネムドはこれまでも自らの主張をもとに国策へまで口出しをしている。人魔戦争も彼の主張から始まったものだ。


 それでも、これまでは表立って教皇への反抗を行うことはなかった。魔族の排斥を教皇に諌められた際にも素直に引き下がっていた。だが、ウィルがアウレクスの翼を発現し、世論が親魔族へと傾きつつある今、このままおとなしくしていると考えるのは危険であった。

 キネムドは枢機卿と聖騎士団団長を兼任している。聖騎士団はキネムドの配下にあるのだ。地下奥深くのアウレクス霊廟で、教皇の周りを聖騎士団のみにしておくのは危うい。


「聖騎士団が教皇聖下を(しい)すると!」

「そういう動きを掴んだわけではない。だが、今の状況は危険だ。万が一の事が起こった場合のために、君たちに協力を仰ぎたいのだ」とウォーデンブラウン公。

「……」


 メアウェンは即答ができなかった。万が一の事とは聖騎士団の謀反を意味する。聖騎士は強い。自分は切り抜けられるだろうが、ウィルは……


「俺、やります」

「ウィル!?」

「教皇様をお守りします。俺がうまくやって作戦が成功すれば、魔族の人たちも暮らしやすくなるんですよね? だったら、やります!」


 力強く参加を了承するウィルにアーブリス二世は嬉しそうに頷く。


「メアウェン、ウィルもこう言ってくれておる。頼めんか」

「……御意」


 もとより王命である。メアウェンに断る権限はない。


「すまぬな。危険な任務になるやもしれんが……無事に遂行して欲しい」

「はっ」

「ウィル、この作戦がうまくゆけば王国は新たな時代を迎えるだろう。ヴェトスを魔族と呼ばなくても良い時代にな」

「陛下!?」

「余は国王だぞ。誰に余を咎められようか」


 アーブリス二世はいたずらっぽい表情を浮かべる。


「メアウェン、ウィル以外の人選は任せる。教皇聖下を頼む」

「一命に変えましても」

「さて、難しい話はこれで終わりだ。まだ少し時間があるな。ウィルとリンヴァリエルと言ったか。そなたたち、シルウェに行ってきたらしいな。かの街はどうであった?」


 ウィルとリンは村での幽霊騒動からシルウェへの旅、ルーセリエンの葬儀の話を始めた。アーブリス二世は興味深そうにほうほう、と聞いている。

 歓談が続くなか、メアウェンは政争に巻き込まれてしまったことを歯噛みしながら、この先、傭兵騎士団としてどう立ち回るかを考えていた。


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Xやってます。

@fumikiao

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