第42話 神化の秘宝
「神化の秘宝ですか」
ウィルが呆けた顔で言う。
ウィルはヴェトスが神になったと聞かされ、ヴェトスがどういう種族なのか改めてわからなくなってしまった。ヴェトスはそんな力を持っているのかとグァンホァに聞いた所、出てきたのは神化の方法だった。
「そうだ。その秘宝があれば、ヴェトスは神化できると伝えられている」
グァンホァが答えた。
「そ、それだけでヴェトスは神になれるんですか? そんな便利なものがあるなんて」
「あるとも言えるし、無いとも言える」
「どういう意味ですか?」
謎掛けのような言葉にリンが尋ねた。
「実際のところ、ただ秘宝を使えば神になれるというものでもないらしい。シルウェに伝わっていた秘宝『丹薬』は、神の力を持つ毒物だったそうだ。それを服用し死なぬほどの力を持った者が神化できる」
「な、なるほど」
ヴェトスといえど、そう簡単に神にはなれないということだ。
「エルウィンヌ神が神になれたのはヴェトスだからというよりも、神にふさわしいほどの力を身につけたから、ということですか?」
「そういうことだ。力を持たぬものが神になれるようなことなど――いや、あれがいたな」
「?」
何かを思い出したのか、急に黙ってしまったグァンホァを見て不思議に思うウィル。
「何事にも例外はあるということだ。さあ、私はそろそろ行かなければならない。他に話すことがなければお開きにしよう」
「あ、はい、本当に今日はありがとうございました」
ウィルたちが並び頭を下げると、グァンホァは手を振り神殿の方へ帰っていった。
「では、我々も帰ろうか」
ホーシェンの言葉に一同は頷き、帰途につく。
(アイユン様、姉さまをよろしくお願いします)
リンは神像に向かって一礼すると、ウィルたちの後を追った。
「なんか、すごかったね。エルフの葬送ってあんな感じなんだ」
追いついたリンにウィルが声をかけてきた。
「うん、私も初めての経験だったけど、姉さまのためにグァンホア様も力を尽くしてくれたみたい」
「でも、式のときの歌、エルフ語で全然わからなかったな」
「ふふ、あれはエルフ語じゃなくて祝歌よ。いつも私が歌っているのと同じ」
「あれ、何て言ってたの?」
「んー、神様にお願いしたり、姉さまに語りかけたり……あ!」
「ん?」
リンは突然何かを思い出したように、ホーシェンたちに声をかける。
「ホーシェンさん、フェイ、ちょっと聞きたいんだけど」
「どうしたんだい?」
「葬送の祝歌で最後に『汝新たな生を得て暮らすべし』って言ってたの、あれどういう意味なの? 姉さまは亡くなったのに」
リンの疑問を聞いて、フェイとホーシェンは顔を見合わせる。
「あんた、エルフの死後の話はルーシェンから聞いていないのかい?」
「聞いてないわ」
「そうか。では、私からリンくんに教えよう」
ホーシェンが歩きながら説明をはじめた。
「結論から言うと我々エルフは他の種族と違い、死後に新たな生を得るんだ」
「姉さまが生き返るってことですか?」
ホーシェンが首を振る。
「いや、そういうことじゃない。エルフの魂は死後すぐに空へ向かわず、精霊に変化するんだ」
「精霊に?」
「そう。ルーシェンもさっきの儀式で送られた後、魂は精霊に変化する。ウンディーネかもしれないし、シルフかもしれない。四大精霊となって世界を動かす一員になるんだよ」
エンリック王国では人間は死後、魂が空に昇り神の元へ帰ると言われている。そのまま大きな魂の一部となり、すべて混ざり合うのだ。しかし、エルフはそうではないらしい。
「エルフの魂は大いなる魂の一部にはならないんですか?」
「最終的にはそうなるよ。ただその前に我々には仕事が課されるって感じかな。精霊たちは元々神が作られた者だけど、アイユン様はエルフにその苗床となる使命を課したんだ」
「私たちが精霊の苗床になる……」
新たに知った自分たちの使命を、リンは噛み締めるようにつぶやいた。
「今回のルーシェンのように、ただしく葬られなければ不浄の存在になってしまうこともあるけれど、基本的には精霊になるようだよ。まあ、中には例外もあるみたいだけどね。リンくんがこれまで喚んだ精霊たちの中にも元々エルフだった者たちがいたかもしれないね」
「じゃあ! 姉さまだった精霊に会える可能性が――」
「そういうことだね」
リンがみるみる笑顔になっていく。いつかまた会えると思えることは希望なのだ。
「よかったね、リン」
「うん」
ウィルの言葉に大きく頷くリンを見て、ホーシェンとフェイも笑顔を見せる。
「よし、じゃあうちに帰ろう」
四人はホーシェンの家に向かって歩いていった。
◇
「ルーシェンとリンくんの家?」
葬儀が終わり、ホーシェンの家に戻ってきた一行はお茶を入れ一息ついていた。
「ええ、シルウェを出た頃の私はまだ小さくて、場所を覚えていないんです」
「師匠、ルーシェンの生家がどこにあるのか知りませんか? 心当たりだけでもいいんですけど」
ホーシェンは一口茶をすする。
「心当たりも何もここだけど?」
「ん?」
「は?」
「え?」
「だから、この家が君たち姉妹の生家だよ」
ホーシェンがニコニコと笑っている。
「ええーーー!」
三人が同時に立ち上がる。さすがに傭兵騎士団に所属する者たち。反応速度は十分の一秒の差もない。完全なシンクロであった。
「そうか、リンくんは覚えてないのか。反応がないなと思ってたんだ」
「まさか、この七日間実家に泊まっていたなんて……」と、頬を抑えるリン。
「確かに前の家と違うなと思ってたんだよ! なんで師匠がリンたちの家に住んでるんですか!」
指を突きつけホーシェンを糾弾するフェイ。ウィルは状況が理解できていないのか、目を白黒させている。彼は反射で立ち上がったようだ。
「ルーシェンに頼まれたんだよ。人が住まなくなると家は荒れるからね。それに私は君たちの両親とも知り合いだから、帰ってきても出迎えてやれるし」
「そ、そういうこと……」
フェイとリンが椅子に腰掛ける。一拍遅れてウィルも座った。
「まあ、探す手間が省けてよかったよ」
フェイが茶をすする。
「なんかよくわかんないけど、ここがリンの実家だったってこと?」
「そう」
「それってさ、お姉さんも生まれた家に帰れたってことだよね」
ウィルがリンに向かって言う。
「あ」
シルウェに到着した日から今朝神殿に向かうまで、ルーシェンの遺骨はこの家に安置されていた。ルーシェンは実家に帰れていたのだ。
「そうか、そうだね……姉さま……よかった」
リンが涙ぐんでいる。フェイがリンの肩を抱き寄せてやる。
「まあもういまさらだけど、家の中は好きに見ていいからね。何か持っていきたい物があれば持っていくといい」
「はい、ありがとうございます」
◇
とんとんと、階段を踏む音をたて、二階からリンが降りてきた。
「もういいのかい?」
フェイが振り向いて聞く。リンは一人で家の中を見せてもらっていたのだ。
「リン、それ」
ウィルがリンの耳に何か付いているのを見つけた。
彼女は左耳に先程まではなかった耳飾りを付けていた。
精樹の根を象ったミスリルの白銀に輝くイヤーカフ。根から芽吹く新芽が立ち上がり、キラキラと光を反射する。優しい印象を与える耳飾りはリンによく似合っていた。
「綺麗だったから持っていこうと思って。ホーシェンさん、いいですか?」
「いいも何も、この家のものは君の家族のものだよ。好きなだけ持っていくといい」
「ありがとうございます」
リンが嬉しそうに頭を下げる。
「それ、ルーシェンが昔つけていたのを覚えてるよ。家に残してたんだね」
フェイがリンのイヤーカフを見ながら言った。フェイには見覚えがあるもののようだ。
「私もなんとなく見覚えがあるなって思って。やっぱり姉さまのものだったんだ」
リンは嬉しそうに言う。
「いい形見じゃないか。よくあんたに似合ってるよ。なくさないようにね」
うなずくリン。リンの耳でイヤーカフがきらりと輝く。
「じゃあ、これでシルウェでやることは全部やったかね」
フェイが微笑んで言う。
「そうか、戻るんだね。エンリック王国に」
「仲間が待ってますからね。あんたたち、出発は明日だよ。今日のうちに荷造りしておくんだ」
「はい!」
「フェイ、明日お土産買う時間ある?」と、ウィル。
「まあ、ちょっとならいいよ」
「やった! リン、みんなに何か買っていこう!」
シルウェ最後の夜は更けていった。
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