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【第二部 神の残影】境界のウィル ~王都の騎士団に拾われた少年は、自分が何者かを知らない~  作者: 文木あお
第二部 神の残影

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第38話 森の街

 鬱蒼とした森の中に続く道を三人の旅人が歩いていた。道幅はかなり広く、馬車が二台すれ違えるほどのものだ。

 森の中に作られた立派な道にもかかわらず、人工的な感じがしない。木々を伐採して作ったのではなく、木が自ら避けてできた道のように見えるのだ。

 そのくせ、道の端には一定の間隔で魔法灯が設置されており、光が届きにくい森の奥を明るく照らしている。

 少しでこぼこが残る土の道をウィルのブーツが踏みしめた。剥き出しの土の道には草一本生えていない。旅人により踏み固められて生えなくなっているのだとは思うが、それほど人を見かけるわけではない。

 ウィルは不思議な感覚に陥り、きょろきょろと見回しながら歩いていた。


「そろそろ着くよ」


 フェイが二人に声をかける。

 ベレトンの村を出て三週間と少し。途中で馬車に便乗できたため予定より早くシルウェに着くことができた。

 シルウェの街へと続く街道もあと少しで終わりを迎える。大きく曲がった道を進んでいくと前方に立派な門が見えてきた。両開きの頑丈そうな扉が開け放たれている。門の上は(やぐら)になっており、変わった形の屋根が乗せられていた。屋根は焼き物で覆われている。瓦という名前だとフェイが教えてくれた。


「おかえりなさい。フェイさん」


 門を通り過ぎる時に、歩哨が声をかけてくる。


「やあ、久しぶりだね」

「そうですか? この間帰ってきてませんでしたっけ?」

「ありゃ十年前だよ」

「やっぱりこの間じゃないですか」

「ああ、まあそうだね。まあいいや。今回は連れがいるんだ」

「そちらのお二人ですね。では、記帳をお願いできますか?」


 歩哨に促されて、ウィルとリンは記録紙に名前を書き込む。


「エンリック王国からお越しですね。身元はフェイさんの預かりで構いませんか?」

「ああ、そうしとくれ」

「はい、では手続きはこれで終わりです。よい滞在を」


 歩哨に見送られ、三人はシルウェの街に入った。

 目の前に広がるのは王都アウレクスとはまた違った独特の雰囲気を持つ街並みだった。

 大通りも路地も石畳などで舗装はされておらず、土の道になっている。砂埃が舞いそうなものだが、森の中に作られたこの街は、植物たちの湿度によって乾燥を免れていた。かといってジメジメと不快なこともない。

 建物は土壁と木の柱で構成されており、石積みを主とする王都アウレクスの建物とは異なる様式だった。屋根には瓦が()かれている。

 さらに特徴的なのは、森と街が融合しているかのように街が作られていることだ。

 ここに来るまでの街道と同様に、木々が自然に生えており、かつ、それが通行の邪魔になるようなこともない。建物も木々を縫うように、または寄り添うように建てられており、エルフたちは森を切り開いて自分たちの居場所を作ったのではなく、森とともに生きているのだと感じさせる作りになっていた。大木に取り込まれてしまっている建物もあり、ウィルの頭ではどのように建てられたのか想像もつかなかった。

 しばらく歩くと、目の前が開け、視界にとんでもない大きさの巨木が飛び込んできた。その樹冠は森を覆い尽くすほどで、どこまで広がっているのかわからないほどであった。


「あれは『アイユン様の精樹(せいじゅ)』さ」

「アイユン様?」


 ウィルがフェイに聞き返す。

 横からリンがウィルを覗き込み、説明を始めた。


「アイユン様はエルフの祖神(おやがみ)よ。本当の名前はエルウィンヌ様というのだけど、エルフたちは皆、親しみを込めてアイユン様と呼ぶの。私はシルウェの記憶はほとんど残っていないのだけど、この精樹(せいじゅ)だけはよく覚えてる」

「シルウェのシンボルと言っていいものだからね。精樹(せいじゅ)はアイユン様の力の結晶のようなもんさ。シルウェの森はとても高い魔力を保有していて、それを使って街が維持されているんだけど、その魔力の源がこの精樹(せいじゅ)ってわけだよ。シルウェの街はあの精樹(せいじゅ)を中心に作られている。ルーシェンを連れて行くのもあの樹の麓にある神殿だよ」


 三人で立ち止まり、アイユンの精樹(せいじゅ)を見上げる。その威容はもちろんだが、由縁を聞くと神聖なもののようにウィルは感じた。実際、エルフにとってはとても大切な樹なのだろう。


「これからその神殿に向かうの?」


 リンが精樹(せいじゅ)を眺めながら尋ねる。


「いや、神殿にも予定はあるだろうしね。今日は一度宿を取って、儀式の申請を行うところからだ。実際に執り行うまでは数日かかるはずだよ」

「そっか」

「リンの生家はどこなんだい? 尋ねたければそこに向かってもいいよ」


 フェイの提案にリンは顔を暗くした。


「家の場所を覚えていないの……。シルウェを出たのは私がものすごく小さいときだったから。その時点でもう父さまと母さまも居なくなっていて、今は家もどうなっているか……」

「そうかい……」

「リンのお父さんとお母さんが戻ってきている可能性はないの?」


 ウィルが心配そうに尋ねる。


「それもわからないの。私と姉さまが旅に出たのは父さまと母さまを探すため。でも、なぜ両親が居なくなったのかは多分聞いていないの。覚えてないから。姉さまは何か知っていたんだと思うけど」

「フェイ、お姉さんのお葬式のあとまだ時間あるかな?」とウィル。

「まあ、多少はいいんじゃないかい」

「やった! リン、探そうよ! リンの家」


 ウィルがリンの両手を掴む。


「え」

「リンが覚えていなくても、街の人は知っているかもしれない。リンが旅に出たのも十年ちょっと前くらいだろ? エルフの人たちにはこの間くらいのことだろうし、きっと覚えている人がいるよ! 家に帰れればご両親のこともなにかわかるかもしれないし」

「ウィル……ありがとう」


 ウィルとリンが互いに手をつなぎ見つめ合う。


「ウィル……」

「リン……」

「んっんん」


 大きな男性の咳払いが響き、二人は手を離して飛び退く。


「君たち、ここは公衆の往来だよ。そういったことはあそこの大木の陰とか、あそこの建物の裏とかそのあたりでやりたまえ」

「あ、すみません……」


 突然現れた男性に叱られ、ウィルは思わず謝ってしまった。

 男性はウィルよりも頭一つ分ほど高い長身のエルフで、精一杯怒った顔をしていた。ただ、元の顔立ちが柔和なのか、あまり怖くはない。


「あの、どちらさまでしょう」


 リンが男性に尋ねる。


「僕かい? 僕はね――、あれ、フェイじゃないか!」

「あー……どうも、師匠」


 フェイは嫌そうな顔をしている。


「師匠?」


 ウィルとリンが驚いた顔でハモった。


「いやー、久しぶりだね、フェイ。君が街を出たのはいつだったっけ? 九十年前くらい?」

「それは、師匠に弟子入りした時でしょう。街を出たのは五十年前くらいですよ。だいたいその後も何度か会ってるでしょうに」

「そうかそうか、この街にいると時間がわからなくなっちゃってねえ。ほら、あまり代わり映えしない街だし。だから、僕はね――」

「え、フェイって、そんなに……」

「歳の話はいいんだよ! それより、師匠、この子たちは王都で一緒に働いている同僚です」

「リンです。こんにちは」

「ウィルです。よろしくお願いします」

「お嬢さんはエルフだね。へー、その若さで外国で働いているのか。なにか事情があるのかな? それと君は……」


 フェイの師匠はウィルのつま先から頭までを見回す。


「まさか――ヴェトスかい? 珍しいね、あの種族がこんなとこまで来るなんて」

「俺がヴェトスだってわかるんですか?」


 外見は人間とほぼ変わらないヴェトスを会っただけで当てるとは驚きだった。ウィルもこれまで初対面の人に当てられたことはない。それは相手が人間かヴェトスかによらずだ。


「わかるよー。魔力の形が全然違うからね。エルフの魔力はわーって感じで、人間の魔力はシュッて感じだろう? だけどヴェトスの魔力はぶわーって感じだからね。それに君は――」

「はい、師匠、紹介しますからちょっと黙ってください。ウィル、リン、この人は私の師匠だ。名前はヘイルセンダー。今、そうは見えてないだろうけど、結構すごい人なんだよ」

「ホーシェンって呼んでいいよ」


 師匠、ホーシェンは手を振って微笑む。


「フェイの師匠ってことは」

「姉さまの」

「ああ、そういうことだね。師匠、彼女はルーシェンの妹なんです」

「ルーシェン!? そうか、君はあの時の女の子か! 君たち姉妹が街を出る時には僕も見送りに行ったんだよ。覚えてるかな?」

「いえ、すみません、覚えてなくて」

「そうか、まあちっちゃかったからね。ほんと、これくらい」


 ホーシェンが親指と人差し指で隙間を作って指し示す。その距離は一センチもなかった。本人はなにかつっこみを期待した目をしているが、特に誰も何も言わない。

 躱されるのは慣れているのか、ホーシェンは特に気にせず喋りだした。


「いやー、そうかもうこんなに大きくなったんだね。ルーシェンはどうしてるんだい? 今日は来てないの?」

「姉さまは……」


 リンたち三人の顔が暗くなる。リンが大事そうに抱える箱に目を留め、ホーシェンは何かを察したようだった。


「そうか。ところで君たち、今日の宿は決まってるのかい? この街のフェイの家はもう引き払ったんだろう?」

「いえ、まだ決めては」と、フェイ。

「だったら、うちに来るといい。君たちが泊まれる部屋はたくさんあるからね」

「いいんですか?」


 ウィルがありがたいとばかりに聞きかえす。


「いや、ウィル――」


 いいかけたフェイを遮って、ホーシェンが喋りだす。


「もちろんだよ! 同僚とは言っても君たちはフェイに教えを乞うてるんだろう?」

「ええ、そうですが」

「だったら、君たちは僕の孫弟子ということになる。弟子の面倒を見るのは師匠の務めだよ」

「優しい……」


 ウィルとリンが尊敬の眼差しでホーシェンを見ている。


「はあ……」


 ため息をつくフェイ。ウィルとリンは不思議そうに見ている。


「なんか駄目なの?」

「いや、まあいいよ。いい人には違いないからね」

「?」

「ではいこうか。こっちだよー」


 意気揚々と歩き出すホーシェンと宿が決まり安心した様子のウィルとリン、その後ろをトボトボとフェイが続いた。


「ん、師匠引っ越ししたのか? 前はこっちじゃなかったような……」

「フェイー! はやくー」


 ウィルが手を振っている。


「ああ、いまいくよ」


 フェイは追いつくべく、足を早めた。

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☆☆☆☆☆評価や、ブックマークもぜひよろしくお願いいたします。


Xやってます。

@fumikiao

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